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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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涼しげに言われても…

 結局、詰所で分かったのは、三ケ月という期間でありながら、あまりにも被害が多すぎると言うことだけだった。道から外れた場所まで印が付いていて、根城の目星すら付けられない状況が、困難を極めるような気がしてくる。恐らく町の者に聞いても、信憑性のある話に行き当るには程遠く感じて、弥素次は溜息を一つ吐いた。

 連が呼んだ育也も考えが同じなのか、実に面倒臭げな表情で腕を組んでいる。詰所で会って感じたのは、育也は行動力抜群だろうということ。連に正反対だとは聞いていたが、初対面の弥素次の隣に突然やって来て、すんなりと話に加わってしまった。かなりの度胸の持ち主は、自由奔放で、短気な性格だと感じている。どうも短気な者が、自分の周りに集まっているような気がする。

「で、これからどうするんだ?」

 詰所を出てから、無愛想極まりない表情と口調で聞いた育也が、弥素次を見上げている。

「そうですね、町で話を聞いておきましょうか。あまり期待は出来ませんが」

「ま、妥当だろうな。じゃ、俺は役場に行ってくる」

「役場?」

 どうして役場なのだろうか、弥素次は疑問に感じて聞き返す。

「これ」

 羽織っていた外套の中から取り出したのは、紐で綴じられた紙の束。

「それは?」

「盗賊の件に関する被害届」

 どうして被害届を持っているのだろう。眉間に皺を寄せて育也を見返すと、満面の笑みを見せた。

「詰所から拝借してきた。どうせ衛兵じゃ捕まえられねえから、こっちで持っといた方が役に立つし」

 詰所を出る前に、育也が棚を見ていたのは被害届を探していたのか。

「あの、詰所には被害届を持っていくことを言いましたか?」

「言わなくても大丈夫だって」

「今頃、慌てているでしょうね」

 溜息を吐いて、改めて育也を見る。背格好といい、顔立ちといい、女に見えるのだが、性格と態度が男だと主張している。付け加えるなら、自分の思ったことはすぐに実行してしまう処だろうか。連は何を考えて育也を呼んだのか、疑問に思ってしまう。

「大丈夫だって言ってるだろ。どうせ役場に通達書持って行かないといけないし、被害届は役場に行った時に言っとく」

 どうせ言うなら、拝借した時点で言ってほしいものだと思いながら、弥素次はもう一度溜息を吐いた。

「役場には、私も行って構いませんか?」

 育也を一人で行動させるには、正直不安になってきた。何をするか分からない。町の者達の反応を考えると、共に行動した方が安心出来る。

「良いけど」

 気にした様子もなく育也は答えながら、詰所から斜め向いの役場の入口を通る。入ってすぐの受付の女性に声をかけた。

「国王の通達書をお持ちした。町長はおられるか?」

 声のかけ方は、さすがに礼儀を弁えているが、何時まで続くのかは疑問が残る。

「お名前を、頂戴してもよろしいですか?」

「育也」

 女性が驚いた表情をし、名前が聞こえた者は視線を育也に向けた。異様な雰囲気に、育也は昔何をしたのかと思う。育也が行く先々で、町の者達が驚いていることを考えると、何をしたのか聞こうと思うこちらも、気が引けてしまう。

「護衛隊副隊長をしている」

 育也の言葉に、弥素次は思わず眉間に皺を寄せた。護衛隊は、国全体の警備が主な任務で、隊長、副隊長になると各町の衛兵に指令を出す立場だ。通常は五〇代前後の者が副隊長になるが、育也はどう見ても自分と歳が変わらない。二〇代が副隊長の任に就くのは、他国では見られない珍しいことだ。

「で、町長はおられるか?」

 驚いたまま育也を凝視していた女性に、もう一度言葉を繰り返す。

「お、お待ち下さい」

 我に返ると、慌てた様子で階段へ向かって走り出した。見送りながら、ちらりと育也を見る。

「育也、篠木にいる時に何かされてました?」

 気は引けたが、聞いておかないといけない。何時までもこの状況では拉致があかない処か、後々にも影響してしまうだろう。

「散々暴れてたけど、それがどうかしたか?」

 涼しげに言われても困ると思いながら、溜息を吐く。

「その散々暴れていたおかげで、今の状況になっているって自覚してらっしゃいます?」

「だろうな。ま、過ぎたこと悔やんでも仕方ないから、開き直って来てんだよ」

 前向きだと言えば聞こえは良いが、悪く言えば考えずに行動しているということだ。頭が痛いと思いながら、弥素次は受付の女性を待つ。

 受付の女性が戻って来るのに、時間はかからなかった。但し、女性は先に下りてきた男性の後から下りて来て、別の部屋へ逃げるように入ってしまった。こちらへ来たのは男性の方で、育也を殴ってしまうのではないかという雰囲気を纏わせて睨んでいる。育也は相変わらず、涼しい顔をして男性を見ていた。

「今度は何を仕出かしに来た? お前がいると、皆が不安になるんだ」

 育也が動いた。男性の言葉を遮るように、封書を目の前に突き出した。

「町長、文句を言っているところ申し訳ないが、先に国王の通達書をお渡しする。国王の印も捺印されている故、本物であることは町長が良くご存知の筈だ。文句を言いたいのであれば、通達書に目を通してからにして頂きたい」

 育也が毅然とした態度で言葉を返したせいか、町長の目が白黒している。通達書を受け取り、封を開けて中身を取り出して目を通していたが、通し終えた後の町長の表情は、あり得ないと言っていた。

「それ、ちゃんと渡したから。通達書の通り、盗賊の件はこちらに任せて頂いて、全面協力をしてもらうからよろしく」

 涼しいげな表情で言うと、育也は満面の笑顔を作っていた。

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