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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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王宮にて

 柳の国の首都、柳秦の中央に位置する王宮。護衛隊の副隊長、育也≪いくや≫は、国王に呼ばれ、国王の自室に続く廊下を歩いてた。成人男性よりも頭一つ程低く、短めの黒髪。女性であれば、美人の部類に入りそうな顔立ちだ。廊下を足早に歩いていく姿は、何処か神経を張り詰めている雰囲気を漂わせている。

 何の前触れも無く、呼ばれた。何か失敗でもしたのかと思いながら国王の自室へ行っているのだが、思い当たることをした覚えがない。任務ならば、広間で言渡される筈だ。

溜息を吐いて、国王の自室の扉の前に止まる。

 何を言われるか分からないが、何を言われても平静を装うとしよう。

 右腕を上げ、扉を叩くと部屋の中から入るよう声がかけられた。扉を開け、一礼して中へ入る。広い室内には国王と護衛隊隊長の佐取≪さとり≫、そして妖霊山の主と呼ばれる女性が、中央に配置している席に着いていた。

「呼び出して済まぬ」

 佐取の言葉に首を横に振ってみせると、扉を閉める。前触れの無い呼び出しで只でさえ不安だというのに、佐取と主まで国王の自室にいたのは、正直なところ心外だった。これは、散々主に文句を言ってきた付けで、護衛隊を解雇されるかなと思いつつ、表情にださぬよう気をつける。

「お気になさらないで下さい。で、ご用件は?」

 男性にしてはやや高めの声だが、本人は十分低いと思っている声は平常心を保っている口調だ。

「育也は、確か篠木の町の出身だったな」

 出身を聞いてどうするのだろう、解雇するなら出身地は関係ない筈なのに。佐取の言葉を聞きながらも思う。

「それが何か?」

 佐取が国王を見ると、国王は何処かしら安堵の表情を浮かべている。解雇じゃないらしい。では、どうしてここに呼んだのか。主が関わっているような気がする。

「育也、お前に任務を任せたいのだが、受けてくれないか」

 任務は構わないが、佐取が話を勿体ぶっているように思える。余程、勿体ぶらないといけない話なのか、それとも話し辛いのかは分からないが、育也の出身と任務がどう関係しているのか、今の時点では皆目見当がつかずに苛立ちを覚える。

「任務はお受けしますが、内容をお話して頂かないと」

「まあ、座れ」

 佐取に言われ、渋々空いている席に着く。どこかしら、主が笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。見計らって佐取は、再び話しだす。

「実はな、篠木の町に急ぎ向かってもらいたい」

 思わず眉を顰めた。国境に近いだけの、他の町と変わらない篠木の町に何があるというのだ。

「篠木の町の近くで盗賊が出るそうだが、先日盗賊退治を陛下が主に依頼した」

 予想もしていなかった佐取の言葉に、内心、育也は驚いてしまった。盗賊退治なら町の衛兵の仕事だ。どうして国王が主に依頼するのかと思いながら、正面の主を見る。いつの間にか、意味ありげな笑みに変わっている。人を小馬鹿にする時の笑み、腹が立つ程知っている笑みだ。

「隊長、どう言うことですか」

 唆したな妖婆、思わず言葉に出そうになるが辛うじて止めた。何日か前に来たかと思ったら、恒例の如く小馬鹿にして帰って行った。盗賊退治を依頼するよう、唆しに来ていたらしい。

「盗賊の中に主の名を騙る者がおる故、一掃しておきたいと言われた。檜の第二継承者殿もおられるから、手伝ってもらうそうだ」

 檜の第二継承者といえば、三年前に檜の前国王を刺殺した罪人だ。三年も逃げ続けて、今頃になってどうして見つけてくれと言わんばかりに、盗賊退治など目立つようなことをするのか。しかし、佐取が話を勿体ぶっている意味が、何となく分かってきた。盗賊退治は建て前で、本来の任務自体は第二継承者と関係しているのだろう。でないと、主が盗賊退治程度で国王を唆すなんて、何千年単位で生きている奴のすることじゃない。盗賊退治は、第二継承者の居場所を作るのが目的のように思えるが、どうして罪人の居場所を作る必要があるのだろう。

「で、私は何をすればよろしいのですか?」

「第二継承者の、護衛の任に就いてくれ」

 罪人で、しかも妖婆が盗賊退治を手伝わせる奴に、護衛付けてどうすんだよ。佐取の言葉に表情には出さないが、心の中で思わず突っ込んでしまう。

「あれはな、無実の罪を着せられた上に狙われておるそうだ。主が傍にいる間は良いが、一人になった時を考えるとどうも心配になる。そこでだ、篠木の町に詳しい副隊長に、極秘に任に就いてもらいたい」

 考える素振りを見せながら、育也は国王の話に耳を傾ける。成程、濡れ衣を着せられていると分かっているからなら、納得がいく。第二継承者の件に関して、檜から捜索許可証の発行依頼は来ていないから、狙っている者が檜の兵ならば違法者として扱える。傭兵でも問題を起こせば捕らえることが出来るから、どちらにしても護衛は必要と判断したらしい。確か、第二継承者は国王の甥で、歳は二五だった筈。世継ぎのいない国王にとって、甥である檜の第二継承者は自分の跡取りで、心配するのも仕方はないが、こちらより年上で三年も逃げ続けた上に、盗賊退治まで手伝うんじゃ心配する必要もない気がする。まあ、殆んど出番はないだろうから、気晴らしに顔でも拝みに行くか。

「それに、町を出てから一度も帰省していなかっただろう。一度くらい戻って、両親に顔を見せてやれ」

 佐取が、言い聞かせるような口調になる。それは余計だと思いながら、育也は三人を見た。

「分かりました、お引き受けいたします」

 国王の笑顔が、妙に安堵していると思えた。余程心配しているのだろう、第二継承者も真直ぐ柳秦に向かえばいいのに。

「さて、用事は済んだ。私は篠木に戻らせてもらう」

 主が、席を立った。合わせるように、育也も席を立つ。

「私も。支度が出来次第、出発しますので」

 一礼すると、先に扉へ向かった主の後を追う。部屋を出て、慌てて主に駆け寄ると腹に力を入れて叫んでやる。

「こら、妖婆。陛下唆してんじゃねえ!」

 真横で叫ぶと、うるさそうな表情で睨まれた。

「お前、耳栓しておいてもうるさいな」

 耳栓、こいつは人を何だと思ってるんだ。負けじと睨み返す。

「耳栓なんかしてんじゃねえ。大体何で、俺が指名受けなきゃいけねえんだよ」

「決まっているだろう、うるさいからだ」

 しれっと言いやがって、妖婆。

「関係ねえだろ。本音言えよ、本音」

 ふいに主が足を止め、育也を見た。思わず立ち止まって、見詰め返す。

「本音か。そうだな、弥素次はどうも慎重過ぎる処があるんだ。お前は何も考えなさ過ぎだから、足して割ったら丁度良いだろう」

 何とも言えない妖しげな笑みを見せて答えられ、息を呑む。

「それに、お前がいない方が、王宮も静かで平和になるというものだ。一石二鳥じゃないか」

「あのな、人を邪魔者扱いしてんじゃねえよ」

 楽しそうな笑い声を発しながら、再び歩き出した主に合わせて歩き出す。

「もう一つ言えば、お前がいると良い退屈しのぎになるんだ」

「俺は、玩具でもねえぞ」

「当たり前だ、お前は玩具ではなくて、見世物だからな」

 見世物かよ、思わず溜息を吐く。

「一緒だって」

「変わらんな。ま、どうせ帰るんだ。佐取が言っていたように、親に顔でも見せることだな」

 反論するよりも早く、主は痛いことを言って廊下を歩いていく。後姿を見送りながら軽く溜息を吐くと、自室へと足を運んだのである。

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