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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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三年間

「弥素次、どうしたんだい? 急に改まった顔して」

 惣一の困惑した表情と、亜己の落ち着いた表情が視界に飛び込んでくる。賢治は相変わらず、不器用に汁物を飲んでいた。

「昨日、私が生まれたのは、檜の首都、檜樹と言いましたが、檜樹の何処とは言えませんでした。今は、どうしてもお二人に知ってほしいと思いまして、話す決心を固めました」

 ゆっくりと、弥素次は過ごした三年間を思い出すように話し始める。話をして、どうなるかは分からない。追い出されるか、このままいられるかのどちらかだが、どちらでも良い、話すと決めたのだから後悔しない。

「私は、檜の前国王の次男として生まれました」

 話すと決めた筈なのに、意に反して手が震えている。まだ、何処かで話すことを拒否しているのか。

「三年前まで職に就く傍ら、学業に専念していたのは事実ですが、檜を出たのは、見聞を広める為ではなく、前国王を刺殺した罪人として追われているからです」

 惣一の表情が、硬くなっている。この話が終わった時、罪人として捕まるかもしれない。惣一の表情を見ながらも不安に思うが、弥素次は構わず続ける。

「三年前、私は前国王に呼ばれ、部屋に向かいました。部屋の扉の前に来た時に中から呻くような声が聞こえたので、慌てて部屋に足を踏み入れたのです」

 三年経っても、光景は少し前のように鮮明に覚えている。忘れたくても、忘れられない光景。

「部屋で私が見たものは、背に短剣を突き立てられ、うつ伏せに倒れた前国王の姿でした。急いで体を抱えたのですが、息も絶え絶えの状態で助からないのはすぐに分かりました。私の顔を見て何か訴えかけていたのですが、そのまま息を引き取ってしまって、何を言おうとしていたのかは分かりません」

 惣一と亜己の視線が、弥素次を突き刺しているような感覚に襲われ、思わず俯いてしまう。

「見回りに来た兵に偶然見られてしまい、何も言わせてもらえないまま、王宮の窓の無い部屋に幽閉されました。すぐに叔父が会いに来て下さって、叔父には幽閉された経緯を話しました。叔父は、私の言葉を信じて下さいましたから、幽閉されている間は私のことを心配しておりました」

 黙って話を聞いている惣一と亜己の表情は気になるが、顔を上げると向けられる視線が恐ろしく感じ、表情を見られない。

「幽閉されて三日後の真夜中に叔父が私に会いに来まして、無実は必ず証明するから逃げ続けろと言われました。兄には私を逃がすことを話しておくと、言っておりました。私も幽閉されたままは嫌でしたし、第一、私は前国王を刺殺などしていない。ですから、叔父の言葉に素直に従ったのです。後で、分かったのですが、翌日に私は処刑される予定だったそうです」

 向けられていた視線が外された気がして、弥素次は顔を上げて惣一と亜己を見た。惣一と亜己はお互いに視線を交わし、何か言いたげだ。

「篠木の町に来るまで、会う人達にずっと嘘を吐き続けていました。嘘を吐く度に、自分ではなくなるような気がして、でも気付かれたくなくて。私は、惣一さん達になら話しても良いと思って、話させて頂きました」

 惣一の視線が、再び向けられた。何を言おうかと、迷っているような表情をしている。対照的に、亜己の表情は何処か穏やかに見えた。

「家の居候はさ、危なっかしくて放っておけないんだよな」

 自分で納得するように惣一はニ、三度頷くと、人の良い笑みを浮かべた。

「いろよ、弥素次。さっきも言ったけど、店の手伝いもしてくれんのに、俺が追い出す理由なんてないだろ」

 惣一が見せた笑顔が、素性を話しだした時の重い気分を消して、安堵感をもたらしたように思えた。弥素次は話している間は張り詰めていた緊張感が、引いて行くのを感じながら小さく笑顔を零した。

「惣一さん」

 この夫婦は、弥素次の素性も知って尚もいろと言う。全く、何処まで人が良いのかと思う。同時に、人の良い世話好きな惣一に会えたのは、弥素次にとって必然だったのかもしれない。惣一に会えなかったら、何処でどうなっていただろうか。

「さ、飯食おう。早く食わないと冷めちまうぞ」

「はい」

 惣一に急かされるように、再び朝食を摂り始める。自然と返事をした声が、明るくなってしまう。

「そういえばさ、昨日連が言ってた依頼主って誰なんだろうな」

 再び、麺麭を千切って口へ頬張った惣一が、思い出したように聞いた。

「推測でしかないのですが、柳にいる伯父ではないかと」

「へえ、こっちに親戚いるのかい?」

 感嘆した声を漏らした惣一は、更に聞く。

「はい、母は柳の柳秦≪りゅうしん≫で生まれ育ちましたので」

 弥素次が答えると、亜己何かに気付いた表情をした。

「そうかい。で、その伯父さんは何してるんだい?」

 惣一に言葉に、亜己が苦笑いを浮かべる。

「はい、国王をしています」

 惣一の行動が止まった。同時に、亜己が堪らないという表情で笑っている。

「やーそーじー、先に行ってくれよ、先に」

 複雑そうな表情をして惣一は特大の溜息を吐いている斜め前で、目玉焼きの黄身を食べたのだろうか、賢治が口の周りに黄身を付けたまま、不思議そうな顔で見ていた。

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