俺の長い昼休み。その2
ガンッ!
カンッ!!
…チュン!
俺の周りで激しい閃光と何か堅いものが物凄いスピードで飛び交い、物や壁に当たっているような音が鳴り響いていた。
「!?」
俺の周りには、物々しいプロテクトスーツのようなものを着込んでライフルのようなものを抱えた男たちがひしめき、怒号が飛び交っていた。
身をかがめつつ周りを見渡すと、どうやらバリケードのようなものの内側に俺たちはいるようだ。
バリケードの向こう側から、猛烈な勢いで銃弾が撃ち込まれている。
するとバリケード伝いに一人の屈強そうな男が俺の元に近づいてきた。
「閣下、ここの拠点はもうダメです!我々が敵を引き付けますので閣下だけでも後方の陣地にお引きください!」
ヘルメットのバイザーを上げながら男は言った。
―え!?なになに????
―ドユコト??
―ここはどこで、こいつは何???
「おい!お前とお前!お前たちは、閣下を護衛しつつ撤退せよ!!」
考えがまったく成立しないうちにお前1号とお前2号に両脇を抱えられるように後方の陣地に引きずられていった。
更に2名の護衛が、頑丈そうな盾のようなもので俺を隠すように付いてくる。
その盾の隙間から一瞬向こう側の陣地が見えた。
全身迷彩柄のプロテクトスーツ姿の一軍が迫っていた。どう贔屓目に見てもこちらの10倍以上の人数だ。
―どうやら、俺もさっきから何かを叫んでいる様子だが…俺自身には聞こえない。
―ていうか、俺自身自分の体のはずなのに自分の意志で動かせない。てか、勝手に動いてる??
―これって…何?夢なのか??
目の前の陣地で同胞らしき部隊の隊員が、次々と倒れていく様子が見え隠れする。
俺の盾になっている男の一人が、はじけ飛ぶように後ろ向きに倒れた。
目を見開いて微動だにしない…
その刹那、大量の意思が、感情が俺の中に流れ込んできた。
急に体が浮いたかと思うと地面に叩きつけられる衝撃が走った。
体を起こし目を開けると、さっきまで俺の両脇にいた2名と盾役の1名が地面に這いつくばるように転がっていた。
―お前ら、俺を助ける為に!
―畜生…
…
…
「ちっくしょおおおおっ!!!!」
そう叫んで右手を相手側に向けそこに殺意を込めた。
すると、右手が鈍く光り何かに覆われていくような感じで右手に圧力と熱感と重量感が感じられた。
鈍く黒光りする大口径のマシンガンのような形に変化した右手から、目がくらむほどの閃光と衝撃がほとばしる。
目の前に展開してきていた迷彩服の部隊は、一瞬にして壊滅し後続の部隊は慌てて撤退した。
「Will Diverだ!!」
撤退していく迷彩服の隊員たちが、口々に叫んでいた。
…
…
ハっとして目を開けた俺の目には大量の涙…と、タマキの姿が写っていた。
「フユにゃん、フユにゃん、どうしたの??泣いてるよ!?」
怪訝そうに近づいてくるタマキをあっけにとられながら眺めていた。
「え?なんでだろう??俺にも分かんねえ。」
「フユにゃん、フユにゃん、これなんだにゃ??」
きょとんと眼をまるめて俺の手を指さして言った。
―俺の手
―!?
「おんぎゃああああああ……ああああ!!!!」
俺の手が夢のままの手…いや、マシンガンみたいなのになってる!!??
顔面蒼白で大量の冷や汗をかきつつ、サっと右手を後ろに隠した。
「こ、これは、ちがう…いや、違うくなくて…ちょっと、ふ、深爪をだな…で、さ、逆、逆むけが…そう、逆むけがこじれたんだYO!!」
狼狽を通り越して、エライことになってる。
自分でも何言ってるか、どういう状況なのかさっぱり理解できない。
「えー。フユにゃんの逆むけって…かっけーにゃ!!」
何故か目が爛々と輝いて興奮しているようだ。
俺は、錆びついたネジのようになった首をカクカクと後ろに向け、背後にある右手を確認する。
―まだ厳つく黒光りしてるんですけどー。
――戻れ!と念じてごらん。
―お!俺2号!!助けてくれよ~。
――だから、戻れ!と念じてみてごらんよ。
言われるがままに念じてみると、フっと右手が軽くなり元に戻ったようである。
―サンキュー。俺2号。
「フユにゃん、私も昔逆むけになったことあるよ!!でも、私のはそんなにかっこよくなかったよ!!」
未だ興奮冷めやらぬタマキがまくしたてた。
―みられたのがタマキで良かったー。
―まったくいぶかしく思ってない様子だ。
「タマキ、男はな。男は、大人になる過程で極まれに、こういう逆むけになることがあるんだよ。」
「へー。」
「でも、これは決してかっこいい事ではないのだ。わかるかい?」
「えー。そーなのー?」
「寧ろ恥ずかしい部類のものなんだ。だから…みんなにはナイショにして、2人だけの秘密って事にしておいてくれないかな?」
「おおおーーー。了解しました!」
タマキは、キリっとした表情で敬礼をしながら言った。
どうやら、「2人だけの秘密」というワードに何かしら反応したようだ。
「タマキ、そういやどうしてここにいるんだい??」
「フッフッフ。それはねー、1時間目の後の休み時間に、フユにゃんがこっちに向かっているのが見えたのだよ。」
タマキは、両手を腰にあてがいスクっと立ち上がり答え始めた。
「それでねー。ちょっと気になったから昼休みになって、フユにゃんの教室に様子を見に行ったわけ。」
右手の人差し指を宙に回しながら、得意げに目をつむりながら、
「アカシさんにゃんがフユにゃんは体調崩して保健室だよ。って教えてくれたんだけど…これは、何か事件の匂いがする!って思ったのね。すると部室でフユにゃんがかっこいい逆むけと涙を流しながら格闘している場面に遭遇したってわけにゃー。」
片目を開いて、俺を見つつドヤ顔のタマキであった。
―アカシさんにゃん…無理に「にゃん」付けなくてもいいんだぞ。
―それにしても美しい誤解に感謝!
「そっかー。いや、心配してくれてありがとうな。ほれ、タマキのおかげですっかり良くなったよ。」
元に戻った右手をタマキの前に差出した。
「おおー。フユにゃんよかったねー。」
大きくため息をついて、タマキを後ろから押すように部室から出て教室に向かった。
タマキのおかげで俺は、妙に肩の力が抜けて気が楽になっていた。
おお、神よ。今回は感謝するぜ。
―Will Diver…か。




