俺の宇宙防衛軍。その1
全ての授業が終わり、放課後となった教室。
例の如く、トウカが絡んでくると思いきや…
「フユくん、部活頑張ってね!また明日ね。」
何やら上機嫌な様子で、この上ない笑顔で俺に手を振り教室を出て行った。
「あ、ああ…お、おつかれー。」
拍子抜けして、そう言うのがやっとだった。
ともかく、俺も教室を出た。
階段を下り、下駄箱にて靴を履き替えエントランスを出ようとした時、同じく出口に向かっていたアユハルと目があった。
「やあ、フユ。奇遇だね。部室までご一緒させてもらって良いかな?」
眼鏡をキランっと輝かせアユハルは言った。
「おっす。いいよ。一緒に行こうか。」
俺たちは並んで部室へと向かった。
「なあ、アユハル。〝宇宙〟ってなんだろうな?」
「ほう。」
またアユハルの眼鏡が光った。…ように見えた。
「話が長くなるかもしれないので、部室についてから話そうか。」
口の端でニヤリと笑いアユハルが言った。
―もしかして、開けちゃならないパンドラの箱なのか!?
―アユハルがあの顔すると…
―決まって話が超絶長くなる~。
何故かアユハルが、周りを気にしているようにも感じたが…
部室につくと、一足先に来ていたハクが、ブツブツ言いながら床に広がったカーテンを片付けていた。
―あ、やべ。
「ハク、おっす。ごめんよー。昼休みにここで寝てて片付けるの忘れてた。」
「お前が犯人かぁー。」
ハクは、俺に飛びつきヘッドロックを決めつつ、こぶしで俺のこめかみをグリグリ折檻した。
「やめてあげてー。フユにゃんは、深爪で逆むけだったんだよー。」
俺とハクの前で、おろおろしながらタマキは言った。
タマキは、ハっとした様子で両手で口を押えた。
「はあ!?深爪?逆むけ?」
あっけにとられたハクが変な声を出した。
「何でもないのにゃん!2人だけの秘密なので、これ以上は言えないのにゃん!!」
俺にウインクしながら、親指をビシっと立てつつ言った。
―ダメだこりゃあ~~~~。
ボタンとタケゾウが集まった所で、昨日の夜の事を俺は話した。
ボタンと一緒のベッドに寝たことだけは伏せて…
「ふむ、よくワカランが…プロテクトって言うの?そんなのがかかってるって事は、なにか重要な事が書いてあるんだろうな。」
腕組みしながら、うんうんと自分の言葉に酔いしれるようにハクが言った。
「ただ、この件に関しては、ちょっと保留って言うか…あんまり深入りは避けておいた方がいいのかもな。」
アユハルが、神妙な面持ちで言った。
だが、ただ一人納得していない者がいた。
「アユハル、そう言うけどさ。なんかキニナルじゃない?」
ボタンが、ペンを鼻と口の間で挟んで不満そうに言った。
「ボタンの気持ちは分かるよ。でも、僕達はまだ高校生で、その経験不足の未熟の知識で国の問題…かもしれない重要なことに興味本位で足を踏み入れてはいけないように思うんだ。」
今日はやけに食い下がるアユハルであった。
これには、俺も賛成だが、ボタンが納得するとは到底思えない。
「だってー。」
ボタンが、ペンを挟んだまま頬を膨らませた。
「こうしたらどうだい?しばらくは状況を見守って、新たに端末を使ってのハッキングを控えるんだけど。今の現状で知り得る内容を皆で吟味して、そこからなんらかの方向性を見出して行動してみる。」
精一杯砕けた表情を見せながらアユハルが言った。
「そういう事なら、わかったよ…。」
そう言うボタンを見て、安堵の表情を見せたアユハルは、ハクの方を向き顎で合図した。
「今のアユハルの意見に賛成の人手を挙げて~。」
状況を察して、ハクは資本主義の本質をもってボタンに最後通告を出した。
全員一致で可決であった。
この「近畿」以外の地域について、「軍」について、「輸送経路」について、そして「あの薄黒い山脈」について、各々自由に意見を出し合い、おおいに盛り上がっていた。
タマキだけは、おろおろと右往左往しつつ目を回している様子であったが。
そのどさくさに、俺はボタンの横にイスを置いて座り、小声で今日見た夢?について語ってみた。
「フユ、やっぱりあんたも。」
「ああ、なんか不思議な感じがする夢だったよ。」
「それについては、またフユのお家に行って…」
嬉しそうに言うボタンの口を塞いで、
「それなんだが…ボタンの田舎というか実家の方では、その…なんだ、年頃の男と一緒に…なんだ…同じ布団で寝るのが…その、当たり前って言うか、そんな感じなのか?」
言葉を選びながら俺が言うと、ボタンはちょっとムっとした表情で、
「そんなの相手がフユだからに決まってるでしょ!他の男の子とは絶対一緒に寝ないもん!」
「え…っと、つまり…ドユコト!?」
ドギマギしながら訊いてみた。
「ん?んー。なんでだろう?なぜそう思ったんだろう?あれー?なんとなくだけど…直感的にそう思っているというか…よく分かんないけど、そういう事なの!」
ボタンも少し動揺しているようである。
が、これ以上の詮索は野暮そうなので、みんなとの討論に参加することにする。
そんな様子を微笑ましく見つめていたタケゾウに俺は気付かなかった。
「そうだった!そうだよ!アユハル、宇宙だよ。宇宙について教えてくれよ。それと、ハク。お前が何故この部活を〝宇宙防衛軍〟と名付けたのか教えてくれよ。」
少々煮詰まり気味の議論をしていた2人に、俺は話しかけた。
「…ああ、そうだったな。」
アユハルが呼吸を整え座りなおして答えた。
ハクは、悪びれる様子も無く、
「そんなのなんかかっこ良さげだったからに決まってんだろ!」
豪快に笑って答えたのだった。
―やっぱりそうだったのかー。
―でも、この中二病くさい名称は、俺も嫌いではないが。
改めて、一同はアユハルに向き直し、次の言葉を待ったのである。
宇宙か…




