・0・そして、非日常は日常になる
ミーの日常は変わらない。
もう、かつての日常とは違ってしまったけれど、今の日常もまた、長く続いていくものだろう。
今日も今日とて、大学に行く。
もう今年最後の月に入って、一年は終わろうとしている。
家族のいないミーは、毎年一人で年越ししていたけれど、今年はあの四人と過ごす予定だ。
いや、四人はミーの新しい家族と言えるのかもしれない。
ミーの日常を塗り替えてしまったあの事件は、どうしようもなく不幸であったかもしれないが、それによって新しい出会いがあったのは確かだ。
インターホンが鳴る。
扉を開けば、いつものように、儚い優しげな微笑を浮かべたキム。
大学への送迎も、変わらず続いている。
もはや周囲の視線に慣れ、毎度のスキンシップもさらりと流せるようになってきた。
それがいい事なのかは分からないが、ミーはもう悟りを開いている。
加えるなら、スキンシップは濃度を増した。
もはや友人たちに言わせれば、二人の様子はただのバカップルらしいが、ミーは内心で悶えながらも認めるつもりはない。
キムのその触れ合いの理由が、食欲ではなく、キム自身の純粋な欲求から来ているとしても、やっぱり認めるつもりはないのだ。
なぜなら、キムからはっきりとした言葉を聞いていないから。
ミーの内にあるごまかしようのない感情は、一度絶対に打ち明けないと決めてしまったせいか、自分から言い出す勇気はなかなか出なかった。
荷物を持ち、キムの腰にしっかりと腕を回して、バイクで学校までの道のりを行く。
その体温を感じる事がどんなにホッとして、好ましいとしても、言葉にするのは恥ずかしすぎる。
別の問題を上げるなら、やはり、ミーの体質が立ちはだかるだろう。
大学を終え、バイトへ行く。
その送迎をしてもらう。
バイトが終わって、またキムが来る。
家で一服して帰る、その前に。
新たに加わってしまった習慣が、どうしてもキムに気持ちを伝える事を躊躇させる。
一週間に数回、キムの血を飲ませてもらう事。
まるで吸血鬼みたいだ、と思わずにはいられないが、これもキムが強く望んで勧めてくるのだ。
恥ずかしいやら、申し訳ないやら、後ろめたいやら、キムとの関係性に名前をつける事に迷いがある。
以前考えた、ミーはキムを好きなのか、そしてキムはミーを好きなのか、という問い。
二人の関係は複雑で、単純な名前などつけられない、とミーは思う。
だから、ミーは待つ、そして受け入れる事にした。
友達でもなく、恋人でもなく、家族とも言い難い、ミーとキム。
当たり前のように側にいる存在である事はもう確かだから、それにぴったりの名称が見つかるまで、この日常が続いていけばいい。
優しく頬を撫でる手に微笑んで、ミーはそう祈った。