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六角瞳  作者: 有寄之蟻
エピローグ
111/114

・0・そして、非日常は日常になる

ミーの日常は変わらない。


もう、かつての日常とは違ってしまったけれど、今の日常もまた、長く続いていくものだろう。


今日も今日とて、大学に行く。


もう今年最後の月に入って、一年は終わろうとしている。


家族のいないミーは、毎年一人で年越ししていたけれど、今年はあの四人と過ごす予定だ。


いや、四人はミーの新しい家族と言えるのかもしれない。


ミーの日常を塗り替えてしまったあの事件は、どうしようもなく不幸であったかもしれないが、それによって新しい出会いがあったのは確かだ。


インターホンが鳴る。


扉を開けば、いつものように、儚い優しげな微笑を浮かべたキム。


大学への送迎も、変わらず続いている。


もはや周囲の視線に慣れ、毎度のスキンシップもさらりと流せるようになってきた。


それがいい事なのかは分からないが、ミーはもう悟りを開いている。


加えるなら、スキンシップは濃度を増した。


もはや友人たちに言わせれば、二人の様子はただのバカップルらしいが、ミーは内心で悶えながらも認めるつもりはない。


キムのその触れ合いの理由が、食欲ではなく、キム自身の純粋な欲求から来ているとしても、やっぱり認めるつもりはないのだ。


なぜなら、キムからはっきりとした言葉を聞いていないから。


ミーの内にあるごまかしようのない感情は、一度絶対に打ち明けないと決めてしまったせいか、自分から言い出す勇気はなかなか出なかった。


荷物を持ち、キムの腰にしっかりと腕を回して、バイクで学校までの道のりを行く。


その体温を感じる事がどんなにホッとして、好ましいとしても、言葉にするのは恥ずかしすぎる。


別の問題を上げるなら、やはり、ミーの体質が立ちはだかるだろう。


大学を終え、バイトへ行く。


その送迎をしてもらう。


バイトが終わって、またキムが来る。


家で一服して帰る、その前に。


新たに加わってしまった習慣が、どうしてもキムに気持ちを伝える事を躊躇させる。


一週間に数回、キムの血を飲ませてもらう事。


まるで吸血鬼みたいだ、と思わずにはいられないが、これもキムが強く望んで勧めてくるのだ。


恥ずかしいやら、申し訳ないやら、後ろめたいやら、キムとの関係性に名前をつける事に迷いがある。


以前考えた、ミーはキムを好きなのか、そしてキムはミーを好きなのか、という問い。


二人の関係は複雑で、単純な名前などつけられない、とミーは思う。


だから、ミーは待つ、そして受け入れる事にした。


友達でもなく、恋人でもなく、家族とも言い難い、ミーとキム。


当たり前のように側にいる存在である事はもう確かだから、それにぴったりの名称が見つかるまで、この日常が続いていけばいい。


優しく頬を撫でる手に微笑んで、ミーはそう祈った。


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