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六角瞳  作者: 有寄之蟻
真相編
109/114

・109・キムの苦悩

しばらく、部屋には、ミーのすすり泣く声だけが響いていた。


キムは何も言わない。


時間が経つにつれて、自分がヘキサに変化していた事や、キムがポツポツと話していた言葉が思い出されて、ミーは一人取り乱してしまった事が恥ずかしくなる。


羞恥に嫌な汗が出てくるのを感じると共に、考えずにはいられないのは、やはり、キムの不可解な行動の事だ。


今までも確かに、何度となく至近距離でのスキンシップはあった。


そもそも会った当初から手を繋いでいたし、頭を撫でられるのはもはや当たり前で、なんの疑問も持たなくなっていた。


しかし、ミーを慰めるために抱きしめる事はあっても、今回のような……ミーが認めたくない熱のこもった接触はなかったではないか。


ましてや、……キス、するなんて、とミーは思わず身震いする。


気持ちが悪い訳ではない、しかし、ミーにとって、それは受け入れられる事ではないのだ。


否、受け入れてはいけない、だろうか。


そこにあるのは、ミーに対する食欲であり、その先には命の危機が待っている。


最も、そんな事をキムがする訳がないが、そう信じていたが故に、あまりにも衝撃的だった。


グズグズと鼻を鳴らしながら、おそるおそるミーは指の隙間から、キムを窺う。


と、いつの間にか顔を上げていたのか、真っ直ぐにミーを見つめる紫の瞳とかち合った。


思わずビクリとしてしまうミーを、キムは食い入るように見てくる。


跪いた姿勢のままーーそういえば、なんで跪いてんだろう、とミーは思ったがーー目を泳がせるミーに、キムはス、と目を眇める。


「……ミーを、食べたいと思う……のは、嘘じゃない…」


ゆっくりと口を開いたキムに、ミーはハッとして耳を澄ませる。


「……でも、それは作られた欲求…だよ。……ミーの、甘い香りは…餌、なんだ」


言い聞かせるように、怯える小動物を宥めるように、キムは穏やかに話す。


突然始まったよく分からない内容に、ミーは両手を下げて、知らず首を傾げた。


「……ずっと、苦しかった…。ミーを守り…たいのに、どうしようもなく……おいしいそう、で」


そこで悩ましげに顔を歪めるキム。


「……だから触れ、たくても…触れたら、止まらなく…なりそうで。……ミーを、傷つけてしまう…かも、って思ってた」


その言葉に、ミーは耳を塞ぎたくなった。


やはり、キムの行動の裏にあったのは、食欲だった。


ともすれば勘違いしてしまいそうな言い方だが、ミーの心にもたらしたのは悲しみだ。


……やっぱり、食べたいんだ、と震える呟きがこぼれた。


気づけば止まっていた涙が、思い出したようにまた流れ出す。


今度は拭う事もできず、呆然と泣くミーにキムは目を丸くして、一瞬手を伸ばそうとして、躊躇うように止めた。


それからそっとミーに近寄り、指の背で目元を拭う。


何も見えていないように瞳を揺らすミーを見下ろして、キムはもどかしそうに言葉を続ける。


「……違うよ、ミー。……それは餌、なの…。……むしろ、食べられるの、は…オレの方」


……だから、泣かないで、と額を合わせてきたキムから逃げるように目を閉じて、ミーは数秒考える。


そして、………………え?と瞼を開いた。


『……むしろ、食べられるの、は…オレの方』?


意味不明な言葉を聞いた気がして、ミーの涙腺は停止した。

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