・107・灯る火
明らかに困惑を顔に乗せたミーに、キムはなぜか切なげに眉を下げる。
「……もっと早、く…こうしたかった」
熱に加えてしっとりした響きが混ざる、キムの声音。
それに心臓がキュッと締まり、ミーは思わず胸を押さえた。
本当にどうしたのかとキムに問えば、キムはわずかに口角を上げる。
それは笑みを深めたように見えるが、ミーからすれば、泣きそうなのを我慢しているのが分かってしまった。
一体なにがどうなっているのか。
キムの常にないその様子に、ミーもだんだんと冷静になり、同時に心配になってくる。
そう言えば、ヘキサになっている時は、ミーに対する食欲が抑えられないのではなかったか。
いや、今はミーもヘキサであるから、その可能性はないだろう。
それに、暴走したように見えたのは、ミーに危機感を抱かせるためだったはず。
しかしそれならば、ミーがちゃんと対応した今も同じような行動をしてくる事と矛盾が生じる。
むしろ、以前のそれに加えてキムの苦悩が増しているようにさえ思われた。
ミーが必死に思考していると、キムはゆるりと首を横に振る。
「……でも、これからは…もうガマン、しなくても……いい、し」
終わりには掠れたキムの言葉が聞き取れず、聞き返そうとしたミーの首筋に、キムが顔を寄せた。
すりすりと顔を押しつけ、柔らかい唇がミーの肌に触れる。
そこだけまるで火がついたかのように熱くなって、ミーは衝撃に身を強張らせた。
なにをーーーーしてるん、だろう。
反射的にキムの服を握り、口を開いて息を飲んだまま、ミーは硬直した。
一瞬、キムの感触も体温も自身の身体の感覚さえ消えて、全てが真っ白になった。
それは本当に、数秒の事。
我に帰ったミーは、自分の中に充ちていく感覚から目を逸らしながら、キムの背中を強く叩いた。
やめてよ、キム。私の事、食べたいんでしょ……!と怒気を込めた言葉と共に。
それはミーがキムに初めて向ける、本気の怒りだった。