・106・ミーの成長
キムは、一瞬呆気に取られたように口を開いて、ゆっくりと苦笑した。
「…………ありがとう」
唐突な言葉に、……なにが?と意味が分からずミーは眉を寄せて首を傾げる。
「……オレ相手、でも…すぐに警戒すること。……ちゃんと、危機感持ってね」
どこか嬉しそうな、娘の成長を見た父親のような反応に、ミーは気まずく頷いた。
確かに、自身の危機感のなさは今回の事件が起きてしまった一因でもある。
ヘキサアイズになったキムはなんだかコワイから、そうならないようにしなきゃ、と咄嗟に対応した事が嬉しいようだ。
これが前からできていれば、リリに襲われる以外の道があったかもしれない。
キムが今朝からおかしかったのは、もしかしたらミーにこのような危機感を抱かせる事が目的だったのだろうか。
それなら、今まで過剰に暴走する事もなく、事件後に様子が変化したのも納得がいく。
キムはミーを守ると宣言し、おそらく、それはミー自身が自衛する意識を持たせる事も含まれていたのだろう。
ミーはそう思考して、あぁそういう事だったんだ、とホッとした。
キムのあの尋常でない視線の強さも、声が持つ熱も、それにもかかわらずいつもと同じ優しい温度も、皆コワくてたまらなかった。
それはミーの知らないキムで、リリと同じようなーーミーを捕食しようとする者と同じように感じていた。
安堵したのは、それもこれもミーが自身が狙われる存在である事を自覚し、警戒心を持つための行動であったなら、もうあのような事をしないだろう、と無意識に考えたからだった。
キムは、表情を苦笑からいつもの儚げな微笑に戻し、立ち上がってミーの横に座った。
それも間に距離をあけず、肩と肩が触れ合う、ピッタリとした位置に。
困惑してミーが身体を離そうとすれば、やんわりとキムが腕を回し、まるで抱きしめるかのように、力を込める。
キ、キム……?と、戸惑いからか細くなった声を上げれば、キムは覗き込むように視線を合わせてきた。
「……キレイな、青。……初めて見た、時から…そう思ってた」
わずかに熱のこもった低音に、ミーの背中を痺れが走る。
透き通った紫に真正面から見つめられて、その美しさに、視線を逸らす事ができない。
知らず頬が赤くなっていくミーは、キムの行動に内心かなり混乱していた。
もうあのようなコワイキムにはならないと思ってたいたのに、やっぱりなっている。
しかし、今は今朝のような暴走している感じではなく、ちゃんと正気のようにも見える。
それならばなぜ、キムはこんな事をしてくるのか。
片手が頬に触れ、もう片方の手は、そっとミーの髪を撫でる。
近すぎる距離にキムの体温を感じて、ミーの中によく分からない感覚がこみ上げてきた。
それの正体を掴むのが恐くて、ミーは唇をきつく結んで、抑え込もうとする。