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六角瞳  作者: 有寄之蟻
真相編
101/114

・101・発端の男

ス、とウォーに目線をやったキムが、


「……アイツはもう、いないよ」


はっきりと断言する。


「ーーなぜ、そう思われるんですか?その根拠は?やはり、貴方は何か知っているんですねっ」


ウォーは目を見張って、弾かれたように身を乗り出す。


しかし、キムは妖しげな笑みを浮かべたまましばし沈黙し、一つの言葉を紡いだ。


「………………芝崎タチ」


「っ!それは……!……その男がなんだと言うのです?」


その名前に一瞬さらに目を大きくした後、ウォーは訝しむように目を眇めた。


全く聞き覚えのない名前、そして二人の異様な様子に、話についていけず、ミーはひどくモヤモヤとした。


自分がここにいる必要はあるのだろうか、とまで思えてきて、撫でられていた手をそっと抜き取る。


それにキムが視線を向けてきたが、目が合う前に反対側に顔を背けた。


見た事もなく、あの時のリリにも似た色を持つキムの瞳を、これ以上見たくなかった。


リリに関する事情聴取が終わったのなら、他の話はキムとだけすればいい。


キムの雰囲気に対する恐怖とモヤモヤとが混ざり合って、どこか投げやりな気持ちで、ミーは小さくため息を吐いた。


けれど、そんなミーの様子に気がつかないのか、ウォーは話を続ける。


「芝崎タチーー貴方達を誘拐し、ヘキサアイズに変態させる人体実験をしていた容疑者ですが……確かに彼も行方が掴めていません。しかし、なぜそれをキムさん、貴方が知っているのでしょうか」


ミー達を誘拐した男と聞いて、なるほど、とミーは納得する。


あの男はそんな名前だったのか、と思い、どうでもいいな、とも思う。


それに加えて、どうやらその芝崎タチも、リリと同様に行方不明のようだ。


ミーは反射的に、あの事件の事を思い返す。


そういえば、ミー達が脱出しようとした時、地下の施設に男の姿はなく、初めに拘束されていた部屋に大量の血液が残っていた。


ミーが目覚めた時には既にそうなっていたが、結局、男は生きているのだろうか。


それとも、もう死んでいるのか。


ウォーが行方を掴んでいないということは、まだ生きているのかもしれない、とミーは考えた。


「……芝崎タチも、もういない」


ゆっくりと答えるキムの声音は、気のせいか沈んだように聞こえる。


「なぜそう断言できるのです?その理由を聞いているんです!」


語調を強くしたウォーが、ダン!とテーブルを叩いた。


思わずびくりと身を震わせて、顔を上げるミー。


ぱちりとウォーと目が合って、はっとしたようにウォーは口をつぐみ、乗り出していた身を引く。


「……大丈夫?」


横からかけられた優しげな言葉につい振り向けば、先程までの歪んだ微笑は消え、いつもの、ミーのよく知る儚げな表情のキムがいた。


知らず内心安堵して、う、うん、と答える。


そっと背中を撫でた手つきは優しく温かく、もうなんの違和感も抱かなかった。

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