#2 Cross ~生徒会引継ぎ邂逅~
大変遅くなりました。
暑い夏のとある日。
奏、架乃、真緋の3人に届くメッセージ。
その意味とは?
*
とある夏の暑い日の昼時。
昼休みを友達の真智と過ごしていた俺、相楽奏は謎の差出人から暗号らしきメールを受け取った。
『【HHELIBEBCNOFNENAMGAL○IPSCLAR□CASC▽I……】 謎解きに挑戦! 放課後、○□▽室に来ること♪』
「…………なにこれ?」
文面にもう一度目を通してみる。
……。
アルファベットと記号の字列。どうやら、この文字列から記号に入る文字を予想して、その部屋に行けばいいらしい。
「でもさ、この答えってやっぱりアルファベットなのかな?」
真智が画面を見ながら言う。
「まぁ、そうだろうけどな」
俺も画面を見ながらそう返事をした。
「だとするとさ、この答えの『○□▽室』ってどんな部屋なんだろ」
「ん~……」
確かにそれはおかしいことだった。
アルファベットが答えなら、答えの部屋はなにかの英単語の頭文字を合わせた部屋になるのかもしれない。例えばICU(Intensive Care Unit)みたいに。
それとも全く英単語ではないのかもしれない。ただ、部屋の名前の頭文字という可能性もある。校長室ならKT室のように。
……ついついいつものフットプリンティングの癖でいろんな可能性を考えてしまうな。職業病だろうか。
「うん、まずこのアルファベットが文章になってないところを見ると、このアルファベットの並び自体になにか意味があるって考えるのが無難だよな」
「そうだね。でもこんな文字列……」
真智が眉間に皺をよせる。
迷宮入りしそうになったその時。
「…………ん?」
もう一度最初から読み始めた俺の脳になにか電撃のようなものが駆け巡った。それは、
「……な、マガ、ル……?」
それは、『NAMGAL』のところをローマ字で読んだ時だった。
なぜか、なぜかここを読んだ時にとてつもない既視感を見た。
これは……。
――――!!
そうか、これは――――。
*
突然、わたしの机にやってきたのは生徒会執行部の庶務、永坂梓だった。
そして彼はこう言った。
「ちょっと付き合ってもらえないかな?」
その突然の来訪者は笑みと同時にそう言った。
その時。
わたしは一瞬。本当に一瞬。
わたしの心は一瞬惑わされてしまった。
心が揺すられる感じ。なにか強大なオーラのようなものがわたしを強引に揺らがせる。
――どうしちゃったんだろわたし、わたしにはお兄様がいるってのに……。
顔を見る。
整いすぎた顔に、つんつんとはねた茶髪。髪型は一見チャラチャラしていそうなのに、そうとは思えないと感じさせる謎のオーラ。180は超えるであろうという長身でわたしを見下ろす顔の瞳には少年のような幼さも備えている。
まさに、完璧なイケメン。それでいてASが『IQ』? どれだけ完璧なのこの人……!
……まずいな、ドキドキしてるわたし。おかしいのはこの人から滲み出る謎のイケメンオーラ。頭がくらくらする……。
動揺を隠しながら返事を返す。
「……ど、どういうことですか?」
「いや、ちょっと生徒会の仕事で君に頼みたいことがあってね。場所を移したいんだけど時間あるかな?」
よかった。告白だったらちょっと危なかったかも……。
わたしは頬をパチパチ叩き、気合をいれる。そう、わたしにはすでに夫がいるんだから。
「いいですよ。どこに行きましょう」
「じゃあ第二図書室に行こうか」
「分かりました」
わたしはそう答え、席を立った。そうして先輩に着いていく。
一緒にお昼ご飯を食べていた友達にヒューヒューとか言われてはやされたが、それどころではない。
なぜ生徒会なんかがわたしのトコロに? そして何の用で?
悶々とした気持ちでわたしはその背中を追う。
第二図書室。
第三校舎の一階に位置する図書館。第一図書室が文学系の書籍や勉強スペースがあるかわりに、第二図書館は専門書や調べもの用のPCなどが陳列されている。また、閉架図書庫などもここに在る。
その第二図書室の中はお昼休みということもあってか、たくさんの生徒が訪れていた。調べものをする者、勉強する者……。
そんな中で、わたしはホワイトボードに文字を書き連ねていく――。
「……、と。こんなものでしょうか」
「ふぅん……。なるほどねぇ……」
そう言いながら永坂先輩は、ポケットから携帯の端末を取り出すとなにやら操作し、その画面にうつるものとわたしの書いたホワイトボードを見比べ始めた。
永坂先輩に連れられてきた第二図書室でわたしは先輩にとあるお願いをされた。
曰く、『さっきの古文の授業黒板をここに模写してくれないかな?』と。
なんでも、話を訊くと、わたしのAS『オートメモリ』の実力を検証するためだそうだ。確かにわたしのスキルは見た目や噂だけではハッキリしない能力である。
なのでわたしは一字一句、その文字の場所から先生の字体までを完全に模写した。眼で見たものを完全にコピーし、完全にホワイトボードにペーストしていく。
わたしの能力では見たものを完全に記憶するだけだが、それは訓練によりいくらでも応用させることができる。
今のは記憶したものを絵のように完全に模写するもの。同じ映像記憶保持者にも持っていないものもたくさんいる。
そうして今まで画面とホワイトボードを見比べていた永坂先輩だが一度頷くと、
「――うん。きみの能力は本物みたいだね、相楽架乃さん」
「はあ……。それは何を見てるんです?」
わたしは携帯の画面について訊いてみた。
「ああ、これはきみの受けた授業の授業黒板の画像だよ。きみのクラスメイトの1人に写真をとるようにお願いしといたんだ」
「なるほど」
生徒会の権限でお願いしといたのだろう。まあこんな人に頭を下げられたらどんな人でも断れそうにもないが。
ともあれわたしの『オートメモリ』は証明されたわけだ。そろそろ帰りたかった。まだお昼ご飯食べてないし。
「じゃあ帰ってもいいですか? わたしまだやることがあるので」
「ああ、そうだったね。本当に申し訳なかった」
そういって彼は素直に頭を下げた。その姿はとてもきれいで、何故かわたしにこの人が謝り慣れているという印象を与えた。
わたしは油性ペンを置き、そこから踵を返そうとしたその時、
「――――で、ここからが本題なんだけどさ」
「え?」
わたしが振り返ると彼の手には1枚の紙が。
そうして生徒会庶務、永坂梓は言った。
「放課後生徒会室に来ること。……おっと、これは強制だよ。なんたって次期会長命令だからね」
そういって彼はニヤリと笑った。
*
「――か……ッ……はっ――!?」
あたしは近づいてきた男に蹴りを放つ。
そうするとその男は信じられないものを見るような目つきであたしを捉えながら豪快に後方に飛んでいった。
そうしてその男は棚に背中を打ち付け、簡単に気絶してしまった。
……あと10人、か。
そのまま思考の暇もないうちに次のターゲットへ狙いを決める。
――――あなた、その茶髪の。
あたしは脚に力を入れる。そうすると――――。
――――――――。
「…………」
――音楽の再生が終わる。それと同時にイヤホンからツーンとした音が聞こえてきた。
手に感触があったので見てみる。そこには先ほど男たちが持っていたであろう竹刀が。いつの間にか奪っていたようだった。
あたしはその竹刀を適当に投げ飛ばす。そして耳からイヤホンを抜きながらあたりを見回す。
「…………全滅、か」
あたしの近くには苦しそうに呻く先輩たちの姿が。数を数えると11人。あたしは意識のないうちに一人残らず始末してしまったらしい。
ふと手元のイヤホンに視線を落とす。
今まで耳元で再生していたのは通称『ヒーリング・ミュージック』というやつだ。
人間の脳波というものは主にα波とβ波でできているらしい。そしてα波というものは人間の脳が覚醒しているが休んでいるときの脳波で、β波は覚醒しているときのものらしく、その中である周波数のα波を脳に浴びせかけることで、活動に支障がでない程度の脳の休息に入らせるというものがヒーリング・ミュージックだ。
そして今あたしが使ったのはこれは市販のヒーリング・ミュージックではない。これは我が夫である奏のお父様が作ってくれたオリジナルヒーリング・ミュージックで、あたしの脳の覚醒を抑制するためのものらしい。
なんでもあたしは運動をするときに常人では考えられないほどの脳の覚醒が起きるらしく、それをこのまま長時間続けると体が持たないらしい。なのでそれを抑制するために開発されたのがこの音楽で、名前は『βブレイカー』。あたしのβ波に対応した特殊なα波でβ波をジャミングし、脳の覚醒を留めているらしい。あたしにはよく理解できなかったけど。
しかしそれには少し弊害がある。そもそもあたしの脳は運動する時にはβ波しかださない。それを食い止めるためのこの音楽だ。なのでその分α波の勢いも強くなる。そうするとα波の能力であたしは一時的に意識を失ってしまう。それほどのα波なのだがあたしのβ波の勢いは殺しきれないらしい。結果、異常なあたしの運動能力は威力が半減するかわりに音楽再生中は意識を失ってしまう。これが唯一の欠点なんだと。
そんな『βブレイカー』のおかげでこのレイプ魔どもを殺さずに済んだわけだが、……これからどうしようか。
奏をよんでからどうするか決める? ……いや、奏はあたしがレイプされそうになったなんて聞いたらコイツらのこと感電死させちゃういかもしれない。あのモードの奏は本当に心配症だからね、えへへ……。
その時。
そうやってどうしようか考えていたあたしのところへ扉の奥から声が聞こえた。
「――いやー、きみのASには感服したよ。まさか万能型なんてこの学園にいたなんてね」
聞いたことのない声だった。あたしは警戒ながら応える。
「どちらさま? まさかこの先輩たちのボス的な方ですか? それとも助けにきてくれた方ですか?」
疲れもあってか、自然と語調が強くなる。
それに対し、
「んー、どちらかというと前者かな。オレがこの人たちを命令したから」
そう言いながらその声の主は扉を開けて、部屋に入ってくる。
その顔を見た瞬間にあたしに衝撃が走った。
「……あんたは……!」
「こんにちは御池真緋さん。生徒会の永坂梓と申します」
言って、その生徒会の犬は頭を下げた。
あたしの頭は疑問符でいっぱいになった。
――どうして生徒会があたしを襲わさせるの? だって生徒会は生徒を守る立場のはずなのに……。
あたしは正直に疑問をぶつけてみる。
「なんで生徒会の偉いかたがこんなことを? あたしの体がそこまで魅力的ですか?」
それに対し彼は、
「いや、それが目的ではないね。目的はもっと別の所にある。きみは魅力的な女性かもしれないけど生憎俺にはフィアンセがすでにいるものでね。これが怒らせると怖いんだまったく……」
そう言いながらその先輩は頭を抱え始めた。事情は知らないけどよっぽど怖いらしい。
「……じゃあ目的はなんです? 内容によっては今からのあたしの行動に違いがでますけどね。……さあ、ルート分岐の時間ですよ先輩」
あたしは冗談めいた調子で、笑いながら答えた。
事実、このときのあたしはかなり動揺していた。なぜなら、
(この人……なんかヤバイ気がする……)
遭った時から感じていた、他人とは一線を画したようなオーラ。のちに大物になるであろう者の圧倒的な王者の風格がこの男から感じ取れた。
まさに、――生徒会。
この一流の原石揃いの梨園学園を手中に収めるだけの風格を持っているとあたしは素直に感じた。
そしてさっきから何を考えているかが全く分からないような表情も今まで相手にしてきた連中とは違った。あたしは覚醒した脳のおかげで人のあらゆる表情の変化が分かる。それでもこの男はあたしにとって別世界だった。
そして、その永坂梓という人物から放たれた言葉はあたしの予想を大きく上回るものだった。
「きみを次期生徒会にスカウトにきた。面接合格おめでとう、御池真緋さん」
*
放課後。
俺は謎の人間からの暗号文通りにある場所に向かっていた。
暗号は解けた。答えは、――『生徒会室』。
簡単に言えば、化学で習った元素の化学式だった。俺が理系的スキルであることを知ってのことか。
【HHELIBEBCNOFNENAMGAL○IPSCLAR□CASC▽I……】。
気付いたのはNAMGALの文字を見た時だった。昔習った周期表の覚え方のロゴが俺に解読方法を教えてくれた。すいへーりーべー♪ というやつだ。
よって□に入るのはカリウムのK、○は塩素のSi、▽はチタンのTiであり、答えはSTK室。あの生徒会室だった。
というわけで今俺は生徒会室に足を向けている。
それにしても、だ。
「どーして生徒会なんかが俺をこんなことしてまで呼び出すのかなぁー」
俺にはどうにもこの理由が分からなかった。
俺は普通の生徒だ。成績もクラスでは結構いい方だし、別に悪さをした覚えはな…………い?
そこまで考えて1つ思い当たる節があったのを思い出した。
「……学園のデータベースへのクラッキング、の事か?」
確かに、今日の昼に俺はクラッキングをした。いやでも、痕跡残さないように気を使ったし、それから犯人が俺だと逆算するほどのハッカーが生徒会にいたとは思えないのだけど……。
でも、それ以外呼び出された理由が思い浮かばないのも事実。
そんなことを考えているうちに場所は生徒会室の前へ。
「……まぁ、入ってみれば理由は分かるか」
俺は口の中で呟くと、思い切って扉を開けた。
すると、
「――あら? って、お兄様!?」
振り返るなり、驚きの声をあげたのはまさかの、
「架、乃……?」
それは俺の義妹である相楽架乃だった。あっちも相当驚いてるみたいだったが。
その表情のまま架乃は俺に近づいてくる。
「お兄様、どうしてここに?」
「いや、架乃こそなんでだ? や、俺は知らないアドレスからここに放課後来いって言われて……」
「そうだったんですか! わたしは生徒会の永坂梓先輩にここに来るように告げられて……」
架乃は不思議そうに小首を傾げた。
というよりも永坂梓? 確か生徒会の人で真智の兄貴だったよな。なんでそんな人が架乃を……?
生徒会室には架乃以外には人はおらず、架乃に聞いてみたところ5分前に来たときから誰もいなかったらしい。
そうして無人の生徒会室で俺と架乃が待つこと約5分。
ガラガラガラ、という音と共に開いた扉から顔を出したのは、
「お待たせして悪かったね、2人とも」
架乃をここに呼んだ張本人、永坂梓と、
「――あれっ? どうして2人がここに!?」
目を大きく見開いて驚く真緋。そして……、
「――相楽架乃、相楽奏。んふふ、ようこそ生徒会へ」
綺麗な金髪を揺らし、ニヒルな笑顔でそう言ったのは、
「はじめまして。次期生徒会長の桐生紅葉よ。これからよろしくね」
この梨園学園の最高権力者と噂される生徒会長――桐生紅葉がそこにはいた。
*
「――で? どういうことです、俺たちが生徒会に入るって」
場所は生徒会室。そこで俺は高級そうなソファに座る生徒会長様にそう尋ねていた。俺の右には真緋、左には架乃の姿も。
「うーん……だからそのままの意味よね」
「いや、も少し説明があってもいいんじゃないですか!?」
俺は勢い任せて机をバンと叩く。その会長の左で秘書のように佇む副会長さんから「まぁまぁ」と言われた。
「というかなぜ俺たちなんですか。その選考理由を教えてくださいよ」
そう言って俺は会長に詰め寄る。今日真智から訊いた話だと次期生徒会の役員はその前の代の生徒会で決めるらしい。ということは俺たちはこの2人から目をつけられて選考されたということになる。どうしてもその理由が気になった。
「えっと~、なんでかって? ――それはもちろんあなたたちが有能だと思ったからだけど」
「有能? 俺なんかよりも仕事ができるやつなんてたくさんいるはずですよ。もう一度探し直した方がいいんじゃないですか?」
俺は少し嫌味気味に言った。
すると会長は、
「いやいやそんなことないわよ。あなたたち3人は素敵なASを持っていると思うけど。……梓、3人のASは?」
急な問いだったのにもかかわらず副会長はすぐに答える。
「御池真緋さんは、SSランクの『身体能力万能型』。相楽架乃さんは、未確定の部分が多いけど少なくともSランク、またはそれ以上の『オートメモリ』、そして相楽奏くんは、Aランクの『情報処理能力』、」
「ほら。まぁ確かに真緋や架乃は他の生徒なんかよりも優秀なASを持ってますよ。だけど俺はたったAランクの――」
でもそこで、
「――に、見せかけたSSランクの『情報処理能力』。」
「……なっ」
「ふふん♪」
俺が突然の副会長の言葉に驚いているなか、会長様は楽しそうに笑いこう言う。
「相楽奏? あなたは自分のASを受験時に偽造したでしょ。わざと力をセーブして、ね?」
言いながら彼女は俺の前に立ち、俺のネクタイを直し始めた。真緋と架乃から「ちょ!?」とか「む……っ」とかの声が聞こえる。
しかしそれどころではない。あの生徒会長が俺の顔の目の前にあるのだ。
桐生紅葉と言えば、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、金持ちですでに企業を立ち上げているというあまりにも高スペックすぎる人ということで生徒には知られている。テレビ局からも今までに何回か密着取材されており、日本で最も有名な高校生として数々の雑誌に掲載されてきた。正真正銘の完璧超人なのだ。気が気でないわけがない。
それでも俺は平生を装いながら答える。
「SSランク? 俺がですか? そんなわけないでしょう先輩。俺はただのAランクのPCマニアなんです…………よッ!?」
「ふふふ……」
「が……ッ……くっ……ッ!?」
今、俺首絞められてますマジで。ネクタイで首キュッってされてますよ俺……!
「んふふ……、面白いコト言うわね相楽奏……」
「ちょ……ッ、まじ……ヤ、バイ……ッ……!」
落ちると思いかけたその時、俺のネクタイは緩み、俺は気道を確保することに成功した。
「ぜーはぁーぜーはぁー」
俺は大口で息を吸い込む。マジかこの人……。
そんな息も絶え絶えな俺に対し会長は、
「わたしの目は誤魔化せないわよ。どんなことがあってもね」
そう言ったのだった。
俺は、
「じゃあ証拠はなんです? 俺が、いや俺たちが生徒会にとって有益な人材であるという証拠は」
「証拠?」
「スキルの価値だけで決めるなんてそんなのは横暴です。なにか他に理由があるんでしょうね?」
「ん、もちろんあるわよ」
「……それは?」
「3人とも厳正なわたしの審査をクリアしたのよ。相楽架乃、あなたには古典の授業の板書の書き写し試験、相楽奏には今日1日あなたの行動を追わせてもらったわ。教室の後ろの防犯カメラでPCの画面を監視していたの。見たところあれはうちの生徒のデータベースへのハッキングだったかしらねぇ」
「なるほど……」
「ぐっ……」
架乃からは納得の声が。これで架乃に関しての謎は氷解したわけだ。
それにしても……盲点だった。まさかあの防犯カメラがPCの画面の内容が読める程度のスペックを持っていたとは……。
だが、次に生徒会長から紡がれたひとことは俺の精神を一発で揺るがさせるものだった。
「それで、御池真緋に関しては実際に戦ってもらったの。――1対11で」
……。
理解が、できなかった。
「……は?」
「だから、彼女には男の生徒11人と戦わせたのよ。シチュエーションは、教室に連れ込まれた美少女に迫りくる暴漢たちの悪の手! みたいな?」
「………………くそったれが」
いつの間にか動いていた体がその目の前の金髪の女に対して腕を振り下ろそうとする。俺は女性に対して手をあげるのは最低なことだと思っている。それでも……!
「――ふざけんなよ生徒会ィィィィィィィィィィィィィ!!」
俺の怒りは一瞬にして沸点を超えてしまったらしい。それほどのことがあったのだけれど。
俺の拳は正確に生徒会長の顔へと吸い込まれていった。いや、そのはずだった。
パチン。
その笑顔のまま生徒会長の女は指をならした。すると、
「く……っ!」
「おいおい、やめてくれよ相楽奏くん。オレのフィアンセの顔に傷をつけるのはさ」
生徒会長の顔と俺の放った拳の間に置かれた腕は俺の怒りの化身をいとも簡単に受け止めた。
だけど、
「どいてください! この女は! 真緋に! 酷いことをしたんですよ!? これが黙って見てろっていうんですかあなたは!」
「まぁまぁちょっとクールダウンクールダウン」
「くッ……!」
俺の腕と副会長の腕力が拮抗しているなか、その重い雰囲気を壊したのは真緋だった。
「ほらね先輩言わんこっちゃない。奏はあたしに何かあると人が変わったように怒るんだから……」
いつものようにおちゃらけた様子で言う真緋。
「まったく……そのようだね」
「はぁぁ……。奏? あたしは別にどこも怪我したわけじゃないから。安心してよ。ね?」
「黙ってろ真緋」
そんなことは――。
「え……」
「お前が怪我してないとかの問題じゃねぇんだよ。こいつらが真緋が傷つくかもしれないようなことをしたってのが問題なんだよ」
「う、うん……」
腕が疲れてきた。それでも口は止まらない。
「なぁ先輩。俺は真緋と架乃だけは絶対に守ってやるととうの昔に誓ったんだよ。あんたらがこいつらの身を危険に冒そうっていうなら俺はどんな方法を使ってでもお前らを壊してやるぜ。……はは、まぁ結局合ってるんだよな、会長さんが言ったことって。確かに俺はAランクどころのハッカーじゃない。その気になればあんたの会社のサーバーや顧客データなんかも粉砕、漏洩してやることだってできる」
「……そう、なの」
そこで架乃が俺の手を掴んだ。見ると真剣な表情の架乃。その瞳は「今は抑えてください」と言っていた。
仕方なく腕を下ろす。それでも俺の怒りはちっとも収まっていなかった。
生徒会長は俺を真剣な瞳で見つめ、副会長は俺に警戒のまなざしを。
対し俺は目の前の女に怒りの目を向け、真緋はオロオロ、架乃は俺を心配そうに見つめる。
「…………」
睨み合うこと30秒。その沈黙を破ったのは生徒会長だった。
そしてそいつは言った。
「それなら決闘でもしましょう。あなたたち3人VSわたしたち2人。あなた方が勝てば奏、わたしたちを煮るなり焼くなり自由にしていいわ。でももしあなたたちが負けたら――」
「――負けたら?」
「無条件で生徒会執行部としてわたしたちのお仲間になってもらいます♪」