#3 Fight ~生徒会水合戦の闘い~
『Awake Skill』。アウェイクスキル、約してAS。それはここ、私立梨園学園にのみ存在する言葉であり、意味するのは【卓越した才能】。自らの資質を開花させたもののみが手に入れることができる最大の武器。
「――と、いうわけで」
――と、いうわけで。
「2年生チーム対1年生チームによる水合戦対決をはじめます」
……らしいです。
「……どうしてこうなった……」
小さく呟く俺の声は先方どころか架乃や真緋にも届かない。
突然の『というわけで水合戦』といわれて意味が分からないと思うのだが、それは俺もなのである。
生徒会室で俺が会長サマを暴行未遂したあの事件から約30分後、俺たち3人と会長副会長ペアはここ、学園の中庭に来ていた。
経緯を簡単に説明すると、あの後会長サマは今すぐ決闘をしようといいだし、それぞれ動きやすい格好になって20分後中庭集合とだけ教えられ競技種目も言われないまま2人は更衣室へと向かってしまった。それで……今に至る。
今の俺たちの服装はなぜか気の合うことに皆学園指定の制服だった。それはここ梨園学園の制服が動きやすいから、というのも、梨園学園には超高校級のスポーツマンが多く在籍していたり、その他にも多くの運動系サークルが存在するので生活中に体操服のような動きやすい服装の出番が必然的に多くなるのだ。というわけで、生地は伸縮性に富み、防水効果付き、冷感素材が取り入られており上のジャケットとネクタイを脱げば体操服なしでも体育の授業ならこなせるレベルの代物なのである。
その理由で俺たちはこの制服のままでの戦闘を望んだ。先方もそのような考えだったようだが。
というか決闘がなぜ今日なのだ。今日はやらなくちゃいけないことが山ほどあるってのに……。誰のせいでこんなめんどくさいこと……ああ、俺か……。
俺が自分の短気な過去の行動を呪っているのにお構いなしに会長は事を進める。
「ルールはさっき歩きながら説明した通りよ。基本的には雪合戦と同じね、この水風船を……」
そう言いながら、桐生会長は淡いピンク色の水風船を右手で持ち上げ、
「相手にぶつける」
といって投げるというか押し付けるようにして隣の永坂副会長の顔で割った。それは破裂して副会長さんの顔面に水が飛び散る。ナニコレ……、あんたこそルール分かってんのか……?
「ちょっと|紅葉≪くれは≫!? いきなりオレにぶつけないでくれないかな! というかぶつけるっていうのソレ!?」
もっともな反応である。
「あら? ルールには反してないはずよ?」
「いやそうだけどさ……、そんな螺旋丸みたいにぶつける雪合戦見たことないでしょ。というか近づいてるうちに当てられて終わりだよ……」
もっともである。……まさか会長ってバカなのか……?
「それはその人の作戦次第でしょ? まぁいいわ。とりあえずこの水合戦を使って相手をびしょびしょにするの、いいわね?」
「まぁ……ハイ」
架乃が困惑の目で答える。
「それで3回水を浴びたらリタイア。チーム内で1人でもリタイアがでたら試合終了、リタイアのでたチームの負け。フィールドはこの梨園学園の敷地全範囲。で、使っていい風船はチームにつき10個だけ。ルールはこれだけよ、オーケー?」
俺たちは首肯し、水風船10個を会長から受け取る。
「それじゃ5時の校内アナウンスがゲーム開始の合図よ。それまで……約20分あるわね。この間に風船に水を入れとくのと、作戦会議、しときなさいよ?」
時計を見ると16時38分。空はまだ明るく、俺たちを見下ろしながら明るく照らす。暑すぎない、絶好の運動日和だ。
そして、ああ忘れるとこだった、と言って会長は補足する。それは、
「報酬を確認しておきましょう。あなたたちが勝ったら私たちをどうしたっていいわ。煮るなり焼くなり、ね☆」
いやさすがにそこまではしないが。だって俺捕まりたくないし。
それにしても、だ。こいつのこの余裕ぶり。これが俺の危険センサーにこの目の前の女が危険な存在であることを教えてくれている。
だいたいこっちは3人、あっちは2人なのだ。その上俺たちのは運動系に関しては無双である真緋がいる。負ける可能性が考えられなかった。
それなのに……、それなのに何故――こいつはこんなに平気なのだ……?
俺の動揺を無視して会長は続ける。
「でもその逆に、私たちが勝ったのなら――あなたたち3人は生徒会執行部として私の部下として働いてもらうわよ?」
俺たちの誰もが顔を見合わせた。
基本的に架乃も真緋も俺がすることを全力で応援してくれる。なのでこんな展開になってしまった事に対して俺に怒っていることはないだろうが、生徒会に入らないといけないというのはなかなかヘビーな要求だった。なぜならこの原石集団の梨園学園を統べる集団の一員となるのだから。生半可な覚悟で勤まる仕事ではないことは容易に想像できるだろう。
それ故にもしも。もしも、のことを考えてしまうのだ。
『もし』この勝負に負けてしまったら――。
架乃たちにしてみたらリスクに比べてリターンが小さすぎるだろう。リターンといえば俺が「よくがんばったね」と褒めて、頭をなでてやることぐらいしかできない。
そのためにも、俺は――、
「必ず勝ちますよ先輩。俺たちの絆を甘く見ないでほしいですね」
「ふふふ。いい勝負、期待してるわね♪」
俺たちの武器となるのはそれぞれの『AS』――俺のハッキング能力――架乃の映像記憶――真緋の身体能力。
そして、今まで培ってきた『絆』だ。
今までたくさんの出来事があった。笑った、泣いた、程度では語れない。絶交状態になったりもしたし、本気で殺されかけた経験もある。だからこその絆だ。
俺は幼馴染と義妹の方を振り返り言った。
「架乃、真緋。俺らの本気、魅せてやるぞ」
俺たち3人はまず体育館近くの水道で水風船に水を入れた。たった10個だったので3分ほどで作業は終了。
その後、作戦会議のために一目のつかない倉庫裏まで行き会議を開くことにしたのだが、
「奏は結局あたしの方が大事なわけ!」
「はい? どうしてそんな考えに至ったわけですか? やっぱり真緋の脳筋頭はわたしには理解できませんね……」
「奏はあたしがレイプされかけたことに怒って、あの生徒会に歯向かってくれたんだよ! これがなによりの証拠!」
「それは違いますよ真緋? あなたの場合、レイプではなくただの喧嘩、いや掃滅です。あなたが一方的に叩いてるだけでしょう」
「や、相手が弱くて……」
「それにわたしが真緋の状況でもお兄様は生徒会に怒ってくれたはずです。ね、お兄様?」
「ま、まぁね……」
「く……っ!」
「実際、真緋なんかよりわたしのほうが奏お兄様と接している時間は長いんですよ。心理的にも、ぶ、物理的にも……」
恥ずかしいなら言わないでくださいそして嘘つかないでくださいメンドクサイから。
「は、ちょ……物理的ってどういうことなのっていうかまさかあたしが寝てるうちに2人はまさかしょ――」
「うるせーな! 心理的にしか近づいてねーよ。架乃も嘘言わないこと、いいね?」
「はいお兄様……」
「それじゃあ作戦会議にうつろうk――」
「でもお兄様も悪いところはありますよ? わたしたちのことになると本当に短気なんですから……」
架乃がプーと頬を膨らませて怒ってますという顔を作る。それでも俺には何だか嬉しそうに見えるが?
「まぁ、あたしたちを大切に思ってるってことでいいじゃない。ほんとにファミコンなんだから」
「ファミコン?」
「ファミリーコンプレックス」
「コンプレックスじゃねーよ。そしてどっかのゲーム機が思い出されるからその略禁止な」
確かに過保護すぎるのかもと自覚はしているが、どうにもこの性格は治りそうもない。
「でもすまなかったよ。俺の喧嘩にお前らを巻き込んじゃって」
「顔を上げてくださいお兄様。わたしはお兄様の行く道についていく所存ですよ。いつまでもこの架乃を頼りなさってください♪」
……よくできた妹です。目頭が熱くなるぜ……。
「奏を傷つける人はあたしが許さないからね。あたしは奏を守る係で、奏はあたしにご奉仕してくれればいいの」
……真緋は本当に頼りになる存在だ。その彼女がこんなことを言ってくれるのがすごく嬉しい。ただ、普通配役が逆な気がするがそれはツッコまないでおこう。つかご奉仕って俺は何をすりゃいいんだ。
「ありがとう2人とも。必ず、勝とうな」
「はい!」
「うん!」
それから俺たちはやっと作戦会議をし始めたのだった。
ゲームスタートまで、残り11分――。
そして来る午後17時。
放送部の刻を告げるアナウンスが校内に鳴り響いた瞬間勝負は始まった。
俺は教室棟1階、情報管理室――通称コンピューター室にいた。そして携帯しているノートPCの画面を見ながらキーボードを操作している。放課後の喧噪が扉の外から聞こえる中、カタカタという無機質な音が響く。
なぜこのようなことをしているのかというと、3人で決めた作戦で俺の役割が実戦係ではなく情報収集係だからである。
今回の戦闘でキーとなるのは俺は『球数』、『個人のASの応用性』、だと思っている。
『球数』というのは、チームに与えられた水風船の数が10個というところだ。相手は2人、そして俺たちは3人。こうなると1人に割り当てられた水風船の数はあちらが5個、こちらが約3個ということになる。一見すると相手のチームの方が弾数が多いだけに有利に見えるがそれは間違いで、注目しないといけないのは人間の手が2本しかないということである。つまり1人が持てる最大数は多くて3つ、そして投げ合いをするのなら2つが限度だろう。たしかに、ポケットなどにストックを入れておくなどの手があるが今回の弾は水風船だ。多くは入らないし、走り回れば割れるのが当然の帰結であろう。
つまり1人あたりに割り当てられた弾数は相手の方が多くても装填できる数は双方同じなのだ。よって、数打てば当たる、という戦法は有効ではなく、無闇に球数を減らし補給のところを狙い撃ちされるリスクが増える。銃ゲーで最も無防備なのがリロードの瞬間であるのと同じで、このゲームでもいかに手持ちの2球で相手を仕留められるかにかかっているだろう。正確な射撃が求められるということだ。
そして『ASの応用性』。
架乃のデータベースによると、副会長――永坂梓のASは『IQ』。なんと165ものIQを有している本物の天才、そして何より脅威なのが文武両道、文理体のどの科目において一切の欠点が見つからないほどの完璧超人であるということ。頭がよくて運動もできる、そして顔もいいとかマジチート野郎である。お前は絶対許さない。
だが問題なのがここからで、永坂梓のASは驚異的だが本当に怖いのはあのパツキン生徒会長の方だ。
生徒会長――桐生紅葉。そのASは、
「……不明、か……」
一切の情報が存在しないということ。
俺がさっきからこのコンピューター室の横でPCをいじっている理由の1つに、学園の|集積情報体≪バンク≫にハッキングをして生徒会長の情報を手に入れようとしているのだが、
「ヒットなし、か……」
ASの情報が完全に存在しないのだ。
架乃にも訊いてみたのだが、一切のASに関しては情報がないという。巷の噂では、『妙なカリスマ性をもつ』とか学生女社長ということもあってか『経営術』などのASの推測がたてられているがハッキリとした根拠はないとのこと。分かっていることは、ただあの女はかなりヤバイ女だということ。なんというか、悪い予感がしてならないのだ。
何かと一戦交えようとする時、俺が一番怖いのが情報がないことだ。情報戦で完敗していて、実戦で勝てないということはハッカーであるこの俺が身にしみいるほど分かっている。だから怖いのだ。あの化け物と何の情報もなしに衝突することが。
俺は苛立つ気持ちを抑えて、このハッキングは諦めて次の作業にうつることにした。ウィンドウを閉じ、次の標的のパスを選択する。
ゆえに、この2項目から分かることは『的確な命中力で相手に策を練られる前に潰す』ということが先ほどの作戦会議で出された結論だった。
永坂梓は天才、そして未知数な桐生会長。この2人にはなるべく情報を与えないほうがいいはずだ。なにせIQ165がいるのだ。どんな奇策をされるか分かったものではない。
幸い、2人と接触したのが3人とも今日が初めてだ。なので情報も少ないはず。この状況下で短期決戦をすることが俺たちの勝機だ。
なので、俺たちの作戦はこの通り。
まず3人のASの有効性から考えるに、俺は『情報収集係』。やることは学園内に配置された監視カメラ全43台の映像データをハッキングで盗み出し、桐生紅葉と永坂梓の居場所を常にマップして戦闘要員の真緋たちに伝えるのが仕事だ。
そして真緋は完全な『戦闘要員』。AS『身体能力――万能型』がもっとも活きる役割だ。真緋には相手へのアタックを専門して行ってもらう。
で、この俺の与える情報と真緋の実行の中継地点となるのが、『補助要員』である架乃だ。真緋と共に行動し、俺の与える敵の情報を受信し頭の悪い真緋に代わってその場での作戦指揮を執るのが主な仕事となる。
そして架乃には水風船の補給係もやってもらう。これでリロードの時間を極端に短縮できてかつ真緋は少なく4つの弾を装填できる。
以上が俺たちの作戦だ。1人でも機能しなくなった時点で他の誰かがうまく機能しなくなる。1人の責任が大きい作戦だ。
それでもこれだけの策を練らねばあの2人には勝てそうになさそうだった。それは架乃も真緋も同意見。2人とも口をそろえていうのは「あの2人は危険だ」と。
だから俺はまずこの監視カメラのハッキングを成功させなくてはいけない。
この学園の監視カメラは全機が無線で録画データを送信しており、学園にある4台のWi-Fiのオープンスポット(学園の敷地内でのみ使用できる。ロジックは学園の塀の上にあるアンテナのジャミング電波が原因らしい)を使い、バンクにデータを送っているらしい。
俺は今回それを利用することにした。
やり方は案外簡単だ。まずウイルスを使って43台の監視カメラの設定をいじる。最寄りのオープンスポットにウイルスを流しこみ、その感染したスポットは他3基のスポットにそのウイルスを送信。そしてそれによって感染させられたスポットは繋いでいる監視カメラに対してもウイルスを送信、感染させる。そうして監視カメラたちは自分の録った録画データの管理者権限を俺のPCアカウントに変更。録画データ、つまり動画のことなのでデータ量が多いことが予想されるので、そのデータをコンピューター室のPCからケーブルをつなぎ有線で受信させる。どうしても無線だと33台の録画データは重すぎるのだ。フリーズしてしまうことが考えられるのでここはわざわざウイルスまで流して有線にした。それでも43台の映像を見るのにノートPCでは処理落ちしてしまうし画面が小さいので全範囲見渡せない。それはコンピューター室にあるPCを使って処理の分散化、そしてスクリーンに映像を映すことにより確実に先輩方の居場所を突き止める。これが作戦の本筋だ。
「…………よし、分散コンピューティングの準備は完了。そしてデータの受信開始」
エンターキーをターンッと押すと俺の支配下にあるコンピューター室のPC10台が一斉にデータの受信を開始し、そのデータをスクリーンに映しはじめた。
そこには学園中のデータが存在していた。
校門の近くで誰かを待っている女子生徒、教室で補習を受けている男子生徒、職員室で談話している先生たち……。
「相変わらずセキュリティ万全だな……」
その光景に目を奪われていると、ポケットの中のスマートフォンが振動を俺に伝えた。
電話で、相手は架乃。
「もしもし」
「お兄様? どうですかハッキングの方は」
腕時計を見ると17時4分。案外時間がかかっていたようだ。
「ああ、成功したよ。ちょっと待ってな…………」
俺は目を凝らし2人の姿を探す。するとすぐに特徴的な金髪を見つけた。
「えっと会長サマを発見。今はー、ああ、副会長さんと教室棟1階廊下を西から東に移動中。このルートだとたぶん中庭に行くつもりなんじゃないか?」
「ん、了解しました」
「それじゃあどう攻める?」
「うーんと…………、ではわたしたちは本館棟から2階に上がり渡り廊下を通って教室棟2階に向かいます。そして2階から中庭の2人にむけて狙撃します。索敵は頼みますよ兄さま」
「ああ、近づいたら教えるよ。すぐに連絡できるように通話モードのままにしておいてくれよ?」
「わかりました」
「じゃあ真緋にかわってくれるか」
「…………」
「信頼してるよ架乃。がんばってな」
「はい♪ では真緋にかわりますね」
年頃の女の子ってめんどくさいな……。
「もしもーし」
「真緋か? どうだ調子は」
「もちろん万全ね。必ず成功させるわ」
「うん、信じてるからな。じゃあがんばって」
「うん。奏もサポートがんばってね」
「おう。じゃあな」
「はーい」
耳からスマートフォンを離し、そのままボタンを押さずに通話モードのままにしておく。そしてスピーカー通話モードにだけしておく。
「…………頼むぞ架乃、真緋」
俺が売った喧嘩に2人を巻き込んだのは本当に申し訳ないと思っている。それでもそんな俺に嫌な顔せずについてきてくれる2人のことが俺は本当に大好きだ。
だからこそ、
「絶対に守ってやる……」
俺はスクリーンに目を戻した。そして鮮やかな金髪のロングヘアを探す。
そしてそれは俺の言った通り中庭へのルートを進んでいるようだった。すぐに架乃に連絡する。
「架乃、順調に中庭に向かっている。あと15から20秒で着くかも」
「……了解です……っ」
走っているのだろう、少し息切れの音が聞こえたが返事が早かったところをみると順調にことが進んでいるように思える。
そう、順調に。
――――だが。
事はそう簡単に進まない。あの人たちは進まさせてくれない。
違和感に気付いたのはその直後だった。
監視カメラ17――教室棟1階廊下を東側から西側に向けて移している――映像だ。そこには敵である2人が映っていた。
永坂梓は水風船を1つずつ両手に持っている。そして何故か背中にギターケース。
そして会長――桐生紅葉は、
「タブレット端末……?」
水風船を持つわけでもなく、そして周りを監視するわけでもなく、ただ一心にタブレット端末を操作している。
永坂梓も妙だ。こちらもただ前だけをみていて、全く自分が狙撃されるわけがないとでもいうように警戒心がなかった。
それは、まるで――――、
「まさか…………!」
俺は他のカメラの映像を確認する。監視カメラ19の映像――そして気付く。
2人が警戒することを知らない理由。
なぜタブレット端末を持っているか。
――そして思い出す。桐生紅葉が言っていたこのゲームのルールを。
(チーム内で1人でもリタイアがでたら試合終了、リタイアのでたチームの負け)
鼓動する心臓を必死に落ち着かせ、次は監視カメラ18の映像に目を向ける。そして確信するのは――、
「架乃! いいかよく聞け!」
「は、はい!? どうかなさいましたか!?」
「会長たちは中庭には行かない!」
「え? それはどういう――」
「違ったんだよ。あの人らは俺らを探して動き回ってたんじゃない。てっきり俺らがあの人より上を考えてて、俺らが追ってる側だと思ってた……」
「お兄様? だからどうなさったんですか!?」
やはり、……一筋縄ではいかないようだ。
「いいか、あの人たちの行き先は――」
俺はテーブルの上に置いてあった念のための水風船を掴みながら言った。
「コンピューター室だ! つまり狙いは俺だ! 2人で俺を狙うつもりなんだ!」
「な……っ!?」
スマートフォンをひっつかみ窓へ走る。素早く錠をあけ窓を開けた。
「会長がタブレットで俺と同じく監視カメラの映像を見てる! 管理者権限は俺にしといたんだけど、たぶん会長は俺よりもこの学園のネットワークにおいては高次の権限をもってるんだと思う」
「そんな……っ」
「それで今気付いたんだ。会長は中庭に行こうと思ってたんじゃなくて俺がいるここ――コンピューター室に向かってるって。もちろんこの部屋にも監視カメラがあるからそれで会長は俺が1人でいることを狙って俺のところに来ようとしてるんだと思う!」
向かう先は中庭なんかじゃなかったんだ。中庭とコンピューター室は方向が同じだからまったく気づかなかった。
「じゃ、じゃあどうすれば……!」
架乃の泣きそうな声が聞こえる。
俺は自分に落ち着けと連呼しながら、架乃に次の命令をしながらここから脱出を試みる。
「俺はなんとか逃げて中庭に2人を誘い込む! そこからお前らで援護、そして狙撃してく――」
コンピューター室から出ようと俺は窓のサッシに足を掛けた――が、
――パンッ!
扉の開く音と共に、俺の背中を何かが打った。そしてそれは弾けた音を発しながら、俺の背中を濡らした。
驚きと焦り。2つの感情に苛まれ俺は窓からバランスを崩して派手に落ちた。
――ひとまず、逃げないと……!
痛む左肩を右手で抑えながら俺は右折。落ちた時の衝撃で割れてしまった2つの水風船を尻目に中庭に向かって走る。
そして横目に見えたのは、鮮やかな金髪と獲物を狙う虎の如く光る双眸だった――。




