持つという選択
重さは。
消えない。
分けても、減らしても、渡しても。
形が変わるだけで、残り続ける。
なら。
どうするか。
朝。
講義室の空気は、静かだった。
重いまま、落ち着いている。
(慣れたな)
この感じにも。
席に着く。
紙はない。
課題も、まだ出ていない。
少しだけ、間がある。
その時間が、妙に長く感じる。
(何か来るな)
そんな気配。
やがて、老女官が口を開く。
「本日は、最終判断の確認を行います」
短い言葉。
「各自、これまでの選択を踏まえ、
最終的な方針を提示しなさい」
それだけ。
シンプル。
でも。
(まとめ、か)
ここまでの全部。
選択。
基準。
優先順位。
責任。
それを一つにする。
紙が配られる。
白紙。
また、何もない。
だからこそ、全部書ける。
ペンを持つ。
すぐには動かさない。
少しだけ、考える。
(どうするか)
選択肢は、もう出ている。
分ける。
引き受ける。
流す。
それぞれ見てきた。
だから。
(どれでもいい)
選べる。
でも。
(選ばないといけない)
今回は。
リリアは、小さく息を吐いた。
そして、書く。
短く。
余計な言葉は入れない。
自分の方針。
それだけを。
書き終える。
見直さない。
そのまま、提出。
紙は回収される。
講義室は、静か。
誰も話さない。
少しして。
「数名、発表してもらいます」
老女官の声。
名前が呼ばれる。
一人、前に出る。
説明する。
内容。
方針。
理由。
評価が入る。
淡々と。
次。
また一人。
同じ流れ。
(いつも通り)
でも。
(重さが違う)
これが、最終。
ここで決まる。
「リリア」
名前が呼ばれる。
立つ。
前に出る。
視線が集まる。
特に気にならない。
紙は、もうない。
頭の中にある。
「方針を述べなさい」
短い指示。
リリアは、少しだけ間を置いた。
そして。
「私は」
静かに言う。
「選択の結果を、そのまま持つことを前提に行動します」
それだけ。
シンプル。
ざわめきはない。
でも、視線が少し変わる。
「具体的には」
老女官。
「分散も、固定も、状況に応じて選びます」
続ける。
「ただし」
一拍。
「最終的な責任は、自分で持つと決めています」
それで終わり。
余計な説明はしない。
沈黙。
数秒。
「……一貫性がありますね」
老女官が言う。
「変化を許容しつつ、責任の所在は固定する」
「はい」
「中途半端とも言えますが」
「そうですね」
否定はしない。
「しかし」
わずかに間。
「現実的です」
それだけ。
「以上です」
席に戻る。
視線は、すぐに外れる。
次の人が呼ばれる。
講義は続く。
でも。
(終わったな)
自分の中で。
決めた。
それでいい。
講義が終わる。
静かに、解散する。
廊下。
歩く。
特に、何も考えない。
ただ、少しだけ軽い。
(持つって決めたからか)
分からないけど。
「さっきの」
セレナが並ぶ。
「納得しました」
「そうですか」
「変えることを許容しつつ、逃げない」
「そんな感じです」
「私は」
彼女は言う。
「固定したまま、全部持ちます」
「そうですね」
それが、彼女のやり方。
揺れない。
「でも」
少しだけ笑う。
「どちらも、持ってますね」
「そうですね」
形は違うけど。
重さは、同じ。
少し歩く。
アマーリエも来る。
「ねえ」
軽い声。
「なんかさ」
「はい」
「結局、みんな持ってない?」
笑う。
「分けても、押し付けても、最後どっかで持つじゃん」
「そうですね」
「ならさ」
肩をすくめる。
「最初から自分で持っといた方が、楽かもね」
その言葉に、少しだけ考える。
(楽、か)
たぶん、違う。
でも。
(納得はする)
それでいい。
三人で歩く。
静かに。
同じ方向に。
中庭。
ベンチに座る。
空は、少しだけ明るい。
(王冠より重いもの)
それは。
たぶん。
(選んで、持つこと)
そのもの。
第9章は、ここで終わる。
重さは、消えない。
でも。
どう持つかは、選べる。
そして。
次に来るのは――
最後の選択。
王冠を取るか、取らないか。




