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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
王妃にならないものの発言権

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発言していい理由

 発言には、理由がいる。


 正しいことを言うだけでは、足りない。


 誰が言うのか。

 なぜ言うのか。


 それが揃って、ようやく言葉は意味を持つ。


 朝の講義は、少し形式が変わっていた。


 円卓。


 全員が、同じ距離で座る配置。


(珍しい)


 序列を曖昧にする配置。


 けれど。


(完全に消えるわけじゃない)


 座る位置や視線で、なんとなく分かる。


 誰が中心で、誰が外側か。


「本日は、自由討議とします」


 老女官の声。


「議題は一つ」


 間を置く。


「“王妃候補でない者に、発言権は必要か”」


 空気が、少しだけ動いた。


(来た)


 予想していなかったわけではない。


 でも、思っていたより早い。


 そして。


(真正面からだな)


 遠回しではない。


 はっきりとした問い。


 数秒の沈黙。


 最初に口を開いたのは、セレナだった。


「必要だと思います」


 即答。


 迷いはない。


「理由は?」


「制度の透明性のためです」


 静かな声。


「候補者だけで意思決定を完結させると、

 外部からの検証が不可能になります」


 数人が頷く。


 納得できる意見。


「ただし」


 彼女は続ける。


「最終決定に関与する必要はない」


 線を引く。


「発言は許可するが、決定権は持たない」


 バランスを取った結論。


 綺麗な答え。


(セレナらしい)


 誰もが受け入れやすい形。


「他に意見は?」


 静かに、視線が動く。


 数人が、似たような意見を重ねる。


 発言権は必要。

 ただし制限付き。


 完全否定は、出ない。


 完全肯定も、出ない。


 調整された空気。


(で)


 自然と、視線が一箇所に集まる。


 リリア。


 少し遅れて、口を開く。


「不要だと思います」


 一瞬、空気が止まる。


 予想外ではない。


 でも。


(やっぱり、そう言うか)


 そんな空気。


「理由を」


「責任を持たない発言は、意味を持たないからです」


 静かに言う。


「結果に関与しないなら、

 その発言は、ただの意見でしかない」


「意見でも、価値はあります」


 すぐに返したのは、アマーリエ。


「ありますね」


 リリアは頷く。


「でも、それは“参考”です」


「それで十分では?」


「十分かどうかを決めるのは、発言者ではありません」


 小さな沈黙。


「責任を持たないなら、

 価値の保証もできない」


 淡々とした言い方。


 強くはない。


 でも、逃げ場もない。


「では」


 別の候補者が口を開く。


「あなたは、発言しないべきだと?」


「はい」


 即答。


 空気が、わずかに揺れる。


「自分で?」


「はい」


 もう一度。


 迷いはない。


 数秒の沈黙。


 その沈黙の中で。


(でも)


 誰も、完全には否定できない。


 理屈としては、通っている。


 だからこそ、困る。


「では、なぜ今発言しているのですか?」


 静かな問い。


 核心。


 リリアは、少しだけ考えた。


 そして。


「求められたからです」


 それだけ答える。


「この場で、意見を求められた」


「だから、答えている」


 シンプルな理由。


 でも。


「それは、責任とは別です」


 線を引く。


 発言と責任。


 意見と決定。


 それを、切り離す。


「……矛盾していませんか」


「していますね」


 あっさり認める。


「なので」


 少しだけ間を置く。


「本来、この立場は存在しない方がいいと思っています」


 静かな一言。


 それは、第6章で言った言葉と同じ。


 でも。


 今は、意味が違う。


 制度の中で。


 公の場で。


 はっきりと、言った。


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を返さない。


 否定も、肯定もできない。


 その中で。


「……面白いですね」


 ぽつりと、老女官が言った。


 全員の視線が、そちらに向く。


「存在すべきでない立場にいる者が、

 最も制度の欠陥を理解している」


 淡々とした評価。


 感情はない。


 でも。


(見てるな)


 ちゃんと。


「発言権とは、与えられるものです」


 老女官は続ける。


「ですが」


 一度、視線を巡らせる。


「その重さは、立場によって変わる」


 誰も、言葉を挟まない。


「あなたの発言は軽い」


 リリアに向けて。


「ですが」


「無視はできない」


 小さく、息をつく。


 それだけで、十分だった。


 軽いのに、消えない。


 責任がないのに、残る。


(面倒な位置だな)


 改めて思う。


 討議は、そのまま終わった。


 結論は出ない。


 まとめもない。


 ただ、それぞれが考えを持ち帰る。


 廊下。


 一人で歩きながら、考える。


 発言権。


 必要か、不要か。


(どっちでもいい)


 少なくとも、自分にとっては。


 言っても、言わなくても。


 最終的に決めるのは、自分ではない。


 でも。


(それでも)


 さっきの空気を、思い出す。


 完全には無視されない。


 軽いはずの言葉が、残る。


「……面倒」


 小さく呟く。


 関わる気はない。


 でも、完全に外にもいられない。


 その中途半端さが、少しだけ重い。


 第7章は、ここから始まる。


 発言していいのか。


 してはいけないのか。


 その答えは、まだ出ない。


 ただ一つ。


 言葉は、もう無視されない。

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