同じ結論にはならない
結果は、遅れてやってくる。
すぐに分かるものもあれば、
少し時間が経ってから見えてくるものもある。
今回の課題は、後者だった。
数日後。
評価が、まとめて開示された。
これまでの討論、選択課題、共同課題。
それらを総合した中間評価。
講義室は、静かだった。
誰も騒がない。
誰も声を上げない。
ただ、それぞれが紙に目を落とす。
(……来たか)
リリアも、自分の評価を開いた。
項目ごとの評価。
分析力。
安定性。
調整能力。
どれも、悪くない。
むしろ、高い。
けれど。
最後の一行。
――決断力:低
小さく息を吐く。
(まあ、そうなるよね)
驚きはない。
選ばないという立場を取り続けた以上、
当然の結果。
視線を上げる。
周囲も、それぞれ結果を受け止めている。
セレナは、少し離れた場所で紙を閉じた。
表情は変わらない。
でも。
(上がってる)
空気で分かる。
評価は、良いはずだ。
しばらくして、老女官が口を開いた。
「今回の評価は、現時点での傾向を示すものです」
淡々とした声。
「今後の課題設定にも反映されます」
つまり。
(この流れは、続く)
選ぶ者は、より選ばれるように。
選ばない者は、その立場が強調される。
調整ではなく、分化。
講義が終わり、人が動き出す。
ざわめきは、小さい。
でも、確実にある。
リリアは、静かに席を立った。
廊下に出る。
足音が、少しだけ多い。
「評価、見ました」
横に並んだのは、イーサ。
「見ました」
「予想通りですね」
「ええ」
短いやり取り。
「問題は?」
「ありません」
そう答える。
本当に、問題はない。
この評価は、間違っていない。
自分の選択の結果だ。
「では、続けますか」
「続けます」
迷いはなかった。
イーサは、少しだけ頷いた。
「分かりました」
それ以上は言わない。
中庭。
夕方の光が、少し柔らかい。
人影は、まばら。
以前より、やはり少ない。
それぞれの場所が、決まっているから。
ベンチに腰を下ろす。
紙を、もう一度開く。
決断力:低
その一行を、しばらく見つめる。
(否定はできない)
決めないことを、選んできた。
だから、決める力が低いと評価される。
正しい。
でも。
(それでも、いい)
少なくとも、今は。
足音が近づく。
顔を上げると、セレナだった。
「……座っても?」
「どうぞ」
少し距離を空けて、彼女が座る。
沈黙。
特に、気まずさはない。
「評価、どうでした?」
先に聞いたのは、セレナ。
「それなりに」
「決断力」
「低いですね」
あっさり答える。
彼女は、小さく笑った。
「正直ですね」
「隠す理由がないので」
「そうですね」
少しの間。
「私は、高かったです」
「でしょうね」
「嬉しいです」
「それは、良かったです」
会話は、淡々としている。
でも。
少しだけ、柔らかい。
「でも」
セレナは、前を見たまま言う。
「同じ結論には、ならなかったですね」
「なりませんでしたね」
「これからも?」
「たぶん」
短く答える。
彼女は、少しだけ目を細めた。
「残念ですか?」
「いいえ」
リリアは、首を振る。
「その方が、自然です」
同じ考えの人間ばかりでは、
意味がない。
違うからこそ、残るものがある。
「……そうですね」
セレナも、否定しなかった。
風が、少しだけ吹く。
静かな時間。
ぶつかったあとに残る、
妙な落ち着き。
勝ったわけでも、負けたわけでもない。
ただ。
違うまま、残っている。
(それでいい)
無理に揃える必要はない。
同じ結論に、なる必要もない。
王妃になる気は、ない。
その気持ちは、変わらない。
そして。
選ばないという選択も、変わらない。
それがどう評価されても。




