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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
選ぶ者と選ばない者

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同じ場所にいるだけ

 空気は、変わっていた。


 目に見える変化ではない。

 誰かが声を荒げたわけでも、

 決定的な出来事があったわけでもない。


 ただ、同じ場所にいるはずなのに、

 少しずつ立ち位置がずれていく。


 そんな感覚。


 朝の談話室。


 以前なら、全員が同じ机を囲んでいた。

 距離も、視線も、曖昧だった。


 今は違う。


 自然と、席が分かれる。


 誰がどこに座るか、

 誰の隣を避けるか。


 誰も言葉にしないまま、

 配置が固定されていく。


(……分かりやすい)


 リリアは、窓際の席に座りながら思った。


 選ぶ者。

 選ばない者。


 ただそれだけで、

 ここまで空気は変わる。


 セレナは、中央にいた。


 周囲に、数人。

 会話は控えめだが、確実にまとまっている。


 あそこが、今の“中心”。


 一方で。


 リリアの周囲には、誰もいない。


 避けられているわけではない。

 ただ、来ないだけ。


(楽でいい)


 そう思う。


 無理に関わらなくていい距離。


 午前の講義は、いつも通り進んだ。


 課題。

 確認。

 評価。


 内容は、特別なものではない。


 けれど。


 誰が発言するか、

 誰の意見が拾われるか。


 それが、少しずつ変わっている。


 セレナが発言すると、

 数人が頷く。


 別の候補が補足する。


 流れができている。


(ちゃんと“選ばれてる”)


 能力だけじゃない。

 関係も含めて。


 リリアは、何も言わなかった。


 求められない限り、口を出さない。


 それが、今の立場。


 昼。


 廊下で、アマーリエとすれ違う。


「……静かね」


「そうですね」


 短い会話。


「やりやすい?」


「どうでしょう」


 リリアは、少しだけ考えて答えた。


「やりやすくは、ないです」


「でしょうね」


 彼女は、少し笑った。


「でも、嫌いじゃない顔してる」


 図星だった。


「かもしれません」


「変わってるわね」


「よく言われます」


 それ以上、会話は続かなかった。


 夕方。


 中庭。


 人の気配は、まばら。


 以前より、確実に少ない。


 それぞれが、

 それぞれの場所にいる。


 同じ空間に、いない。


(分断、か)


 大げさな言葉ではない。


 ただ、自然にそうなっただけ。


 選ぶ側は、選ぶ側で固まる。

 選ばない側は、孤立する。


 どちらが正しいとか、

 そういう話ではない。


 ただ、そうなる。


 リリアは、ベンチに腰を下ろした。


 風が、少し冷たい。


 しばらくして、足音が近づく。


「ここにいましたか」


 イーサだった。


「珍しいですね」


「少しだけ」


 彼は、隣には座らなかった。


 少し距離を置いて立つ。


 それが、今の距離感。


「どう見えますか」


 リリアは、前を見たまま聞く。


「綺麗に分かれています」


「ええ」


「予想通りです」


 淡々とした声。


「問題は?」


「まだ、表に出ていません」


 少しの間。


「出たら?」


「面倒になります」


 短い答え。


 リリアは、小さく息を吐いた。


「ですよね」


 分かっていたことだ。


 分かれているだけならいい。


 問題は、それがぶつかるとき。


 でも。


(まだ、いい)


 今はまだ、静かだ。


 無理に動く必要はない。


 夜。


 部屋に戻り、灯りを落とす。


 静かな時間。


 外のざわめきも、届かない。


 選ばれる人がいる。

 選ぶ人がいる。


 そして。


 選ばないまま、残る人間がいる。


 王妃になる気は、ない。


 その気持ちは、変わらない。


 ただ。


 その立場が、

 こうして形になるとは思っていなかった。


(同じ場所にいるだけ)


 本当は、それだけのはずなのに。


 少しずつ、遠くなる。


 同じ王宮の中で。


 第6章は、静かに始まる。


 大きな音は、まだしない。


 けれど。


 確実に、どこかがずれている。

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