最初の決着
結論が出ない議論は、
いずれ、強制的に終わらされる。
その日が来たのは、唐突だった。
課題発表。
形式は、これまでで最も単純。
「王妃として、最も適切な一名を選び、理由を述べよ」
ざわめきが、広がる。
選ばれるのではない。
選ぶ側に立たされる。
(……来たか)
リリアは、静かに紙を見つめた。
王妃の定義が揺れた直後に、
“誰を選ぶか”を問う。
意図は明白だった。
曖昧なままでは、終われない。
誰かを選ぶことで、
自分の定義を固定させる。
そして同時に、
他者を切る。
制限時間は短い。
相談は禁止。
ただし今回は、補佐官の介入も明確に禁止されていた。
リリアは、何も書かなかった。
ペンを持ったまま、止まる。
(選ばない、という選択は)
許されるか。
答えは、分かっている。
許されない。
それでも。
紙に、ゆっくりと文字を落とす。
――該当者なし。
理由。
王妃の定義が確定していない現状において、
単一の最適解は存在しない。
未確定の基準での選定は、
制度の歪みを固定化する危険がある。
よって、現段階での選定は不適切。
書き終えた瞬間、
周囲の気配が変わる。
視線。
息遣い。
わずかな苛立ち。
(分かってる)
これは、逃げに見える。
だが。
(それでも、これが一番マシ)
提出。
一人、また一人と前に出る。
名前を書く者。
理由を並べる者。
慎重に言葉を選ぶ者。
誰もが、誰かを選び、
誰かを切った。
発表は、すぐに行われた。
老女官が、順に読み上げる。
「第三候補、アマーリエ」
複数票。
「第八候補、セレナ」
こちらも、複数。
票は、割れている。
だが、偏りはあった。
最も多く名前が挙がったのは――
「第八候補、セレナ」
小さなざわめき。
セレナは、驚かなかった。
ただ、静かに立ち上がる。
「暫定的評価として、
本課題における最適解と認めます」
拍手は、なかった。
ただ、受け入れる空気。
そして。
「補佐官」
呼ばれる。
リリアは、前に出た。
「該当者なし、か」
「はい」
「理由は、記載の通りだな」
「はい」
老女官は、しばらくリリアを見ていた。
「評価は――」
一瞬の間。
「保留」
予想通りだった。
可もなく、不可もなく。
だが。
(外されなかった)
それで十分。
その日の夜。
候補者たちの空気は、明確に変わっていた。
誰が選ばれたか。
それ以上に。
誰が、誰を選んだか。
関係が、固定され始めている。
セレナは、静かにリリアに言った。
「選ばない、という選択」
「はい」
「嫌いではありません」
少しだけ、笑う。
「ですが、勝てませんよ」
「でしょうね」
リリアも、否定しない。
「勝つ気がないので」
その答えに、セレナは目を細めた。
「それでも、残る」
「残ります」
「厄介ですね」
「よく言われます」
短いやり取り。
だが、はっきりしていた。
最初の決着は、ついた。
だが、それは終わりではない。
むしろ。
(ここからが、本番)
誰が上にいるのか。
誰が誰を支持するのか。
構図が、見え始めた。
王妃になる気は、ない。
それでも。
王妃が誰になるかという流れの中に、
完全に組み込まれている。
十三番目の婚約者は、
ついに“外側”ではいられなくなった。




