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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
幼少期編
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14.事前の顔合わせ

 風邪という雪合戦の名残を体から排除し終わった頃には、また、新しい年が始まろうとしていた。


 年が明けるということは、また新年の挨拶をしなくてはならないということで、つまり王都に向かう。そして、俺には王宮での勉強会が待っている。

 本格的なシーズンはもう少し後からだが、社交シーズン、という意味では年が明けてすぐ始まるといっても過言でない、らしい。この一年である程度生活様式も学んだのだ。


「うん、勉強会があるのはわかってた」

 だけど、開催日は知らされてない。王都にある屋敷に到着するや否や、父と俺だけ談話室の方に移動し、すると立派な身なりの男性がいた。

 男性は王宮からの使者であり、追い返す訳にもいかないので待機してもらっていた、と此方の屋敷の家令が父に耳打ちしていた。

「使者のロバートと申します、フタバ殿のお迎えに参りました」

 真面目そうな使者は、騎士団の人らしい。赤い鎧が輝いていた。どうやら勉強会の前に顔合わせするとのことだ。

 本日の午後から行うため、今日の午前中までに王都に到着する候補には迎えが言っている、とロバートは言う。ということは、今日の正午前後に到着予定の旭もギリギリ参加させられるのだろう。時間がなさ過ぎて半ば拉致に近い形で連れてこられそうだが。

 もしかすると、旭に適当な言い訳で断られることを回避するためかもしれない、と若干考えたものの、王家がただの伯爵家に対して回りくどいことをしないと思う。何かあれば上から命令すればいいんだし。

「それで、フタバ殿、参加していただけますか?」

「はい、ぜひ」

 そんな圧をかけなくても、ちゃんと参加します。だからその怖い笑顔をやめてください。


 王宮、第一王子の住まう宮。そこに到着した時には、恐らくほぼ全員が揃っている様子だった。

「カドガン侯爵家長男、フタバ、七歳です」

 着席する前に簡単に自己紹介しておく。後で改めて挨拶しなおすとは思うが、相手に礼儀正しく接するという心がけの問題である。

「これで、あと一人だね」

 そういったのはセドリック第一王子殿下だ。一年ぶりに顔を見たが、顔面の輝きが強化されているように感じる。あと一人は間違いなく旭ですね。だって、婚約者候補は合計五人で、この場に四人女性がいるからだ。

「申し訳、ございま、せん。ホーソーン伯爵家、アサヒと申します」

 王子がそう発言してすぐ、旭が入室してきた。淑女として走ったりはしていないだろうが、注目を集めて緊張しているのだろう。教室に入る時の他人の視線が耐えられない、という理由で誰よりも早く教室に待機しておく人種だから辛いんだろう。

「では、顔合わせを始めよう。最後に来た二人以外は挨拶をしていってくれ」

 俺たちが知り合いだということは、覚えていたらしい。俺は男子が集まっている席に、旭は女子の方へ着席すると、順に挨拶が始まった。


「マーカス・ケイ、六歳だ」

「ユーリス・フォンクライス、七歳です」

「サティ・ユースシス、七歳だよ」

「ニール・クローネ、七歳」

 戦隊ものでいうと熱血レッド枠、知的ブルー枠、不思議ホワイト枠、訳ありブラック枠みたいな感じだろうか。完全に言葉遣いと色合いで決めたけど。

 ユーリスは多分、前のお茶会の時に王子を呼びに来ていた人物だろう。その青い頭には覚えがある。サティは言わずもがな知っている。というか、俺の中でサティは良い奴だ。

 王子は最後に挨拶するらしく、ニールという黒髪赤目の自己紹介が終わると、女子の方に目線を遣った。すると、金髪美少女が席を立った。

「わたくしは、アイリーン・ヴァーノン。六歳ですわ」

 ツインテールの金髪紫目美少女である。金髪ということは王家と近いのだろう。分家あたりかな、と予想がつく。

「私はサナエ・ボイエット、六歳です」

 緑髪ショートカットの女の子である。ボイエットということは公爵である。王家と直接的な血のつながりがない中で筆頭と言われる家なので、いて当然ともいえる。

「クインテット・ランシー、八歳になります」

「ミフネ・ファラデー、八歳ですね」

 残り二人はお茶会の時に見かけた顔だった。取り敢えず、これでこの場にいる面子は王子以外挨拶が終わった。

「さて、今日は一人来ていないけれど、これで大体お互いを覚えたね」

 一人来てないのか。王子は改めて名乗ったりはせず、俺たちが側近と婚約者の候補に選ばれたこと、親睦を深めつつ教養を身に着ける為勉強会を実施することを簡単に口頭で述べた。そして、現時点で要望があれば聞き入れるべく努力することも。


「殿下、発言してもよろしいですか?」

 真っ先に口を開いたのはランシー侯爵令嬢だった。王子が許可すると、彼女は頭を垂れたまま、はっきりとした声で言った。

「私は、一人娘なので婿を取ります。なので、候補を辞退させて頂きたいのです」

 確かにランシー侯爵家は子宝に恵まれなかったと聞いている。現在、侯爵夫人は子を産むには高齢だが、侯爵は新しく妻を迎える気はないと宣言していた筈だ。

「それは考慮しよう」

 恐らく親御さんと相談案件である。もしランシー侯爵令嬢が候補から外れると、残り四人の辞退が難しくなるだろう。察した旭の顔色が悪くなった。


「じゃあ、他にないなら、それぞれ部屋に案内しよう」

 殿下が手を軽く挙げると側仕えであろう人たちが出てきた。部屋に案内とは、どういうことだとうか、いやな予感がする。旭と顔を見合わせた。

「あれ、二人は知らされてなかった?」

「サティ、何を?」

「僕たち、勉強会の間は王宮に滞在するんだよ?」

 連絡来てなかった?と、サティは首を傾げた。いや、そんなの聞いてない。旭はとうとう胃を押さえ始めた。俺もついため息が出る。サティは苦笑していた。


 今、俺と旭の新たな戦いが始まった。俺は頭痛と、旭は胃痛との。そして、やっぱりサティは良い奴だった。


次回更新は6月19日17時予定です。

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