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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
幼少期編
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13.北の冬

 謎の本が光った事件から約2か月、俺は馬車に揺られていた。


 隣の席には父、正面に姉、母は留守を預かる。向かう先はホーソーン伯爵領、季節は冬になっていた。


「フローラ、フタバ、ホーソーン伯爵領に行くから、支度をしなさい」

 そう言われたのは一週間前だった。それから二日前に出立し、途中で宿に泊まりつつ馬車に揺られて向かっている。馬で駆ければ早朝出れば夜中には到着する距離だが、貴族的な体裁などもあるので馬車で時間をかけて向かっているらしい。

 今日の昼過ぎにはようやくホーソーン伯爵邸に到着する予定だ。前回旭たちが来た際とは違って雪が降っているので時間がかかった。しかも伯爵領に入り込むほど積もっている。

「お父様、今回はどのような件で向かわれるのですか?」

「保存食を譲渡するのと、お前とあちらの子息の交流だな」

 姉の婚約により関係が深くなるので、以前より冬の間の物資援助を増やすとのことだ。姉が嫁いだ際の心象を少しでも良くするためでもあるらしい。ついでにアレックスと交流する時間も取れるらしい。

「きちんとダンスの練習もしておきなさい」

「はい、お父様」

 旭に会えるのは嬉しいが、俺の代わりに母が出向いていれば本の謎を解く機会になったかもしれないと考えると、あまり乗り気ではなかった。

 とりあえず、この前の本のことは旭に相談してみよう。蛍光塗料の知識があるかもしれない。少なくとも、一人で考えるより二人で考えた方がいい。


「ようこそおいでくださいました」

「到着が遅れて申し訳ない」

 到着するや否や、親同士は社交モードで話を始めた。子供たちは先に移動しておくように、との指示がありアレックスに従って小ホールへ向かう。

「フローラ嬢、手を」

 アレックスは、流れるように姉をエスコートした。すごい。尊敬の眼差しを送っていると、パチンとウインクを決められた。何故だか既視感を感じる。

「フタバ、お手をどうぞ」

 アレックスに影響されたのか、旭はきりっとした表情で手を差し出してきた。違う旭、お前はそっちじゃない。エスコートされてくれ、逆になるから。

「ア、アサヒ、フタバにエスコートされてやらないのか?」

「でも兄様、フタバは道がわからないでしょう?」

 アレックスは笑うのを堪えつつ旭にそう言った。そして旭は真面目な顔で返事をした。確かに俺は道がわからない。だからって女の子が男をエスコートしようとしないでほしい。

「妥協案で、手をつないだらどうかしら」

 鶴の一声で普通に手を繋ぐことになった。旭は若干不服そうな顔である。不服なのはこちらもだが。


 姉たちはすぐに練習を始めるようだったが、重要ではない俺と旭は好きにしていていいとのことだった。結果、旭に連れられ使用人棟に行き、泊まり込みで働いている使用人たちの子供と遊ぶことになった。

「あ、お嬢様だ!」

「なにしにきたの?」

「みんなで遊ぼうかと思って」

「なにするの?」

「ゆきがっせんしたい」

 旭を見るなり一斉に子供たちが群がってきた。子供たちと言っても年頃は同じくらいだろうが。合計十人の子供たちで、雪合戦をすることになった。

「なんで雪合戦?」

「それはね」

「「しゅぎょうになるから」」

「運動になるからです」

 流石、辺境で国境を守る武闘派の子供たちだった。チーム編成はどちらも五人、旭は同じチーム、味方に三歳の女子が一人と五歳の男子が二人。向こうは最年長の八歳の女子と五歳の男女、四歳の男子と三歳の男子。

 旭が開始を宣言し、それぞれ陣地に分かれるが、これが地獄の始まりだった。


 ルールは簡単。動けなくなったら負け、雪玉に異物を混ぜてはいけない、倒れている奴に追い打ちをかけない、の三つだけである。単純だからこそ、容赦がなかった。

「あれ、まだ動けるの?」

 そう、何発食らっても動ける間は負けてないのだ。倒れるまで何度でも雪玉をぶつけられる。しかも相手による手加減なんてものはない。

『加減したら訓練にならないから』

 ということだ。大人からも推奨されているらしい。最年少の三歳の二人は既にダウンしている。しばらく倒れていたが、先程起き上がって室内に戻っていった。

「何?完全に負けたら中に戻るの?」

「そうしないと風邪ひくよ?」

 変なところで優しいらしい。必死に球をよけ続けていると、壮絶なる五歳四人の潰しあいが繰り広げられているのが見えた。投げる時の目つきが本気である。俺より球が速い。

「そろそろ、限界なんだけど…」

「避けるだけでいいから頑張って」

 旭は序盤に作った壁の後ろで大きめの雪玉を量産していた。壁に結構雪玉がぶつかっても気にした様子がない。

「え、俺も避難していい?」

「もう崩れるけど」

 作った球を抱えて旭は戦場へ再び赴いていった。そして俺は壁に隠れた、が。

「そこにいるぞ!」

 容赦なく雪玉が襲ってきた。本当に崩れそうだ、もう少し頑張ってくれ壁。もはや、壁が崩れる前に上手く隠れるしかないのか。

『必殺・俺は壁…』

 復唱しつつ、そうっと様子を伺う。現在反対側の端が狙われているのでそっと壁の影から出た。同時に壁は崩れた。

「あれ、いない」

「ほんとだ、って、わぁ!?」

 俺を見失って固まっている隙に旭の猛攻が始まった。大きめの雪玉を連続でぶつけて転ばせている。一度転ぶと、既に体力がないので起き上がれないようだ。初参加の雪合戦は、勝利という結果に終わった。

 結局、旭に相談することは忘れていた。ついでに、子供たちが本気で俺を見失っていたのか、旭の猛攻に気を取られていたのかもわからなかった。


 そして散々雪玉をぶつけられた結果、帰った後、俺は風邪をひいた。手紙で知ったが、他の子供は全員元気らしい。何故だ。


次回更新は6月18日17時予定です。

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