特別なあの子に祝福を。
完結します。ありがとうございました。
それから数日後、アカシア辺境伯領から両親と弟がやってきた。
父と母はララを力いっぱい抱きしめ、ケガがなくてよかった。命があってよかった、と瞳を光らせた。
弟のテトラも、つんけんしながら無事を喜んでくれた。
久しぶりに家族水入らずの時間を過ごせて、ララは心の安らぎを得ることができた。
そして、そのまま一行は王城に召集された。
先日の国王陛下との謁見で、褒美の話をされたから、その話かしら、とララはのんきに構えており、先日入ったばかりの謁見室へと、また通されることとなる。
「ララ!」
「ララ、話は聞いたよ。本当に君が無事でよかった」
謁見室を訪れると、そこにはヒューリとカルナがいた。
二人はララをぎゅっと抱きしめ、無事な姿を確かめるように頬や髪をなでた。ふわりと香るルクリアの香りが、とても懐かしい。
「ヒューリお兄さまも、カルナお姉さまも…わざわざ…。妖精たちの力もありまして、この通りとても元気です」
しばらく両家で談笑していると、国王陛下が謁見室へやってきた。そして、またララに言う。
「ララ嬢。君の瞳は父譲りであろう。綺麗な朱色だ」
どくん、と心臓がはねた。変な汗が背中を流れる。
ぎぎぎ…と視線を隣のヒューリに向ければ、ヒューリはにっこり微笑んでいる。では父は?ゴードンを見ても、いつもと変わらぬ表情でよくわからない。
「先日ここで、多くを語れないと申したが状況が変わった。今ララ嬢は真実を知る権利がある。ララ・マイヤー。これが君の本当の名前だ。詳細は両親から聞きなさい」
国王陛下は腰を下ろした。見届けるつもりなのだろう。
ララは両方の両親を交互に見て、話し始めるのを待った。
「…ララ、先ほど国王陛下から話があったように、君の名前はララ・マイヤー。フューエル国マイヤー公爵家の長女として、君は誕生したんだ」
ヒューリは、いつもアカシア領で会う時と同じ微笑みを浮かべて、ヒューリとアカシアとララが生まれたころの話を始めた。
フューエル国での愛し子の扱いについても、この国と大きな差があることを知った。そして、その考えにヒューリたちが疑問を抱き、ララをこの国に逃がしたきっかけになったことも。
ララの瞳の色が変わったことについては、今回膨大な妖精の力を使ったことで、過去にかけた魔法が完全に解け、瞳の色も本来の朱色へ戻ったのだろう、ということだった。
ララは、与えられた膨大な自身の情報に、思考が追い付かなかった。アカシア家の一員として大切に育てられたことは、本当に幸せに思うし、生まれたわが子を手放すことになったマイヤー家の心の苦しみも、考えるだけで胸が張り裂けそうである。
そしてなによりも、ララはこの国の王に感謝をせねばならない。
愛し子とはいえ、隣国の公爵家の娘をこの国の貴族の娘として受け入れることを承諾し、自国の愛し子と同じく保護までしてくれたのだから。
だが、それは裏のない善意なのかはわからない。
それがこの国の王というものだ。
わたしは、この国に、両親たちに何を返せるのだろうか。
謁見室の侍女たちがお茶を淹れなおす、というので、その隙にララは化粧直しを口実に部屋を出た。
頭がおかしくなりそうだ。こういう時に空気の読める妖精たちは絶対に姿を現さない。どうでもいい時に会話に割り込んでくるのに。彼ら、実は賢いのではないだろうか。
あ、とララは顔をあげる。ここはどこだ。
無心でずんずん歩いていたから、周囲をよく見ていなかった。
綺麗な花が咲くここは、王族のプライベートな庭だろうか。
許可もなく入って咎められたら大変だ…と、ララは来た道を戻ろうとし、呼び止められる。
「ララ」
「アレックス様…」
アレックスは護衛を少し離れた場所で待機させ、ララと回廊を歩く。色とりどりの花が、風に揺れていた。
ララは、アレックスも王族なのと、愛し子であることを随分前から知っている相手でもあるので、先ほどの話を打ち明ける。
アレックスは静かに話を聞き、何も言わずにただ相槌をうってくれていた。
「これから、ララはどうありたいの?」
「どう、とは?」
「フューエル国へ戻って、愛し子の対応を変えるべく神殿と戦うとか?」
「まさか…そんな大きなことまで考えられません」
だよね、とアレックスは笑った。なんだか現実味のない大きな話に、ララもつられて笑ってしまった。
「じゃあ、こう考えよう」
アレックスはララの手に指を絡めた。
「ララ・マイヤーはフューエル国の公爵家の長女として、プレネス王国へ来る。そして、この国の第二王子である僕と、婚姻を結ぶ。これで、フューエル国は愛し子をつながりに、プレネスとの関係を良好なものにしていく。なんてどう?」
ぎゅ、と手を握られ、ララの心臓は跳ね上がる。
「アカシア辺境伯は、ララがこの国に滞在する際の家となる。それでつながりは切れない」
「都合よくないですか?」
アレックスはにんまり笑って、ララとの距離を詰めた。前髪が触れそうだ。
「これが、僕とララが結婚できそうな筋書き。ララ、僕と婚約してくれないだろうか」
「良いのですか?わたしは公爵家と辺境伯の娘で、しかも父たちはどちらも曲者ですよ。舅も姑も倍になります」
自分で言って、なんだかおかしくなってきた。ララの結婚相手は、苦労が二倍になるのだ。
「望むところだよ」
ちゅ、とリップ音が小さく鳴って、ララの唇に一瞬触れた、アレックスの唇。
スキンシップ多くないですか…と、抗議するが、アレックスは楽しそうに笑う。
「さあ、一緒に謁見室へ行こう。父には僕の考えを伝えてあるから、あとは義父たちに、ララを僕にください、って挨拶するだけだ」
「それが一番大変そうですね」
アレックスはララの手を引いて歩き出す。
ララは、その手のぬくもりを感じながら、彼と一緒ならきっとたくさんのことを乗り越えられるだろう、そう確信を持てた。
ララの初恋が実った瞬間だ。
『ララとでんか、なかよし』
『しゅくふくを』
────フューエル王国 国法第19条 妖精の愛し子について
・愛し子は、国の平和と安寧の象徴である
・愛し子は、妖精と人類の架け橋である。
・愛し子の人権は一人の人間として尊重される。
・愛し子の出現は、すぐに国に報告し、国はそれを保護し護る義務がある。
国史819年 改正。一部抜粋。
キース(ヒューリとカルナの息子)(登場なし)
「えっ!?ララって僕の実の姉ってこと!?」
テトラ(ゴードンとビアンカの息子)
「はは。僕たちは血のつながらない兄弟ってことさ」