第21話:マチルダの出撃_1
二人の間に沈黙が流れる。先に口を開いたのはエイナだった。
「とにかく、そういうわけだから。ちゃんとマイナスについては理解しておいたほうがいいわよ? あと、昨日ウィッチボットに乗ってから、頭痛が治らないの。ちょっとクラクラする時もあるし。初めてで慣れていないせいだと思うけど、その辺も気にしておくべきね。乗り続けたら、もっと酷い症状になるかもしれないし。……って、アタシより年上の優等生さんは、わざわざ言わなくたってわかってるわよね、そんなことくらい」
「……いえ、やはりこの目で見るのと話に聞くだけとでは、心構えも気持ちも変わってきますので。見せてくださってありがとうございます。申し訳ありません、肌を出すようなことをさせてしまって」
「アタシが自分で見せたんだから、アンタがそんなこと気にする必要はないわよ。……でも、黙っててよね? アンタなら黙ってるだろうと思って、見せた部分もあるんだから」
「もちろん誰にも言いません。約束します」
「当たり前よ」
力強い眼差しで応えたヴァンスに対し、エイナは憮然とした態度で返す。
「そう、ですよね。……それは、薬は効くのでしょうか?」
「一応? 抗菌剤みたいなの塗ってるけど。後よくわかんない飲み薬。これでも昨日よりは随分マシになったのよ? 出てきた直後はベタベタするし変なニオイするし、痛いし痒いしでもう最悪だったんだから」
「察します。その見た目だと、確かにそんな感じなんだろうと……」
「こんな痛いのに、キャス先生その他には叱られるし。あーあ助けに行って損した」
「お二人とも、命ある状態で戻ってこられて良かったです、本当に」
「……アンタと喋ってると、なんか調子狂うわ。部屋に戻る途中だったんでしょ? ……引き止めて悪かったわね」
「いえ、大変貴重な時間でした。ありがとうございます」
「変なの。それじゃ」
「あの! お大事にしてくださいね? 私で良ければ、いつでも医務室に付き添いますから」
「変な噂立てられても困るから遠慮しておくわ。……気持ちだけ受け取っておく」
「そうですか……わかりました。ご無理なさらず」
「……ありがと」
「では、失礼します。お邪魔しました」
ペコっと頭を下げて、ヴァンスはエイナの部屋を後にした。
「……ホント、変なヤツ」
部屋を出るヴァンスを見送り、エイナは大きな溜め息を吐いてベッドへ座った。お腹の反応は、まだ完全には消えそうにない。自分がマイナス反応を出してしまったことも、そのマイナスが希少なシードで起きてしまったことも、彼女は許せなかった。
「はぁー……。よりによって転移魔法とか。なんなのよ、マジで最悪」
自分が特別だと思っている彼女にとって、使えないどころか自身を死に至らしめる可能性のあるシードがあることは、考えたくない事実だ。しかも身体を蝕む反応は大きく、それを無視し無理して使うにも向いていない。
彼女の苛立ちを誰も知らない中、ヴァンスは自分の検査結果を部屋でジッと見つめていた。彼の結果に、マイナス反応はある。数値は低いものの、マイナスという結果に変わりはない。あのお腹を見た後では、自分のこのマイナスがどう作用するか、彼は不安でしかなかった。数値だけ見ても、どれくらいの反応が出るのかはわからない。エイナに、転移魔法のマイナス値がどれほどのものだったのか、あの流れの中で聞けば良かったと、彼は少し後悔していた。
「マイナスという結果は、どれだけウィッチボットのパイロットとしての行動に、影響するのでしょうか……」
自分がエイナほど強くなれるのか心配だった。自分が同じ立場だったとして、彼女のように他人に自分の傷を見せられる自信はない。あれは彼女が強いからできたことだと思っていた。あの状態の肌を誰かに見せたいと思わないし、その話に触れてほしいとも思わない。できれば隠しておきたいし、今日の結果共有だっていい気分にはなれず、本当は自分の適性結果を誰にも知られたくないと思っていた。
「エイナさんは……素直ですね。まっすぐ。ただただ」
候補生たちの中で、エイナをそう評価しているのはヴァンスだけだった。少なくとも素直という評価を下している者は彼以外にいない。誰にでも強気で、自分の意見を貫き通す彼女を、疎ましいと思っている人間も、苦手だと感じている人間もいた。ネガティブな評価ばかりで、それは彼女本人も周りの人間も感じていた。だが今までやってきたやり方を簡単に変えることもできず、もう少し柔和にしたらどうかと指摘もできず、結果お互い何もしない状態が続いていた。
「そういえば、皆さんあの後交流されたのでしょうか……私は出てきてしまいましたが、私とエイナさん以外はあの場にいらっしゃいましたね。もしかしたら、少しもったいないことをしてしまったのでしょうか……。いえ、でも、エイナさんと交流できましたし、マイナスの場合の反応も見られましたし。……悪くはなかったですね、えぇ」
大勢の人がいる場所を、ヴァンスは苦手としていた。一対一なら気にしないが、人が増えると急に緊張してしまうからだ。慣れだと思っているが、今まで一人でも困らなかったから必要以上に集団行動はしてこなかった。
「私も頑張らなければ……。折角候補生として選ばれたのですから」
パラパラと医務室に残っていた候補生たちが自室へ戻り始めたころ、ヴァンスは新たな決意を胸にしていた。




