第15話:実技研修_5
コアの中ではトウヤがゆっくり両手を上げた。するとその動きに連動してオーブも両手を上げた。
『今両手を上げました。外からもそう見えますよね?』
「えぇ! 見えるわ! トウヤさんが両手を上げたのと同じように、オーブも両手をあげてるわよ!」
興奮気味にキャスが答える。
『じゃあ次は……』
ドン――ドン――ドン――ドン――
『足踏みしていますか?』
「初めてにしちゃあ上出来だ! ちゃんと歩いてる。指は動くかな?」
『指、ですね』
指という指示を受けて、トウヤは指をグググッと開いて、それから閉じて見せた。
「しっかり開いて閉じたわ! 問題なさそうね!」
『良かった……! ち、ちなみに、魔法はどうやって使うんでしょう? アレフさんが使った時は、ウィッチボットがそのための予備動作をしたようには見えなかったんですけど……』
「ここで使われちゃあたまったもんじゃないからな。野外実践の時に教えるよ。簡単だから安心しなさい。……簡単だからこそ、気を付けなければならないこともあるがね」
『……! それはそうですね。わかりました。その時を楽しみにしています!』
「いい意気込みだ! それじゃあ、降りる練習もしようか」
『そっか、降りなきゃいけないんだ……。乗る時はコアを握りましたけど、降りる時はコアがないですよね? 中に入っているので』
「その通り。降りる時は『降機』と口に出して言うか、心の中で思えばいい。そうしたらこの距離だ、勝手にまたウィッチボットは固定されて、その後コアが排出されて降りられる」
『そっか、そういえば教科書に載っていた気が……っと……降機!』
オーブの中から黒いコアが出てきた。まだ中にはトウヤが乗っている。そして、下まで降りてきたのをブランが受け止めた。
ピピッ――
中から出てくる合図だ。少しずつトウヤの姿が見え始める。
ピピッ――
コアの色が黒からパールホワイトへ戻り、彼が完全に外へ出てきた。
「今の気分は?」
「なんというか……不思議な気持ちです。魔女との戦いは危険だし何が起こるかもわからないけど、乗った瞬間は凄く興奮してしまって……。何でもできそうな気になりました。気持ちが大きくなっちゃったというか。生身では魔法も使えないから絶対に無理だけど、これなら僕にも魔女が倒せるはずなんだ! 他に怖いものはないんだ! って。……ダメなことは理解していますけど、少しだけ、少しだけ昨日のエイナの気持ちが分かった気がします」
気まずそうに彼は言ったが、誰もそれを咎める者はいなかった。
「乗ってみればわかるが、ワシらが見ている視界とウィッチボットの視界は全く違う。君がそう思うのも無理はない。意識すればそれなりに動く自分よりも魔女よりも大きな機体に、人間では使えない魔法が使えるんだ。空だって飛べるし、武器だって振るえる。……だからと言って、過信すべきではない。それが悲劇に繋がる。自分自身が強くなったわけじゃない。過信だけじゃなく、無知もだ。そこをきちんとわきまえるように」
「はい!」
気を引き締めてトウヤは返事をした。その後に続いて、候補生たち皆も返事をする。
「今回は全員に体験してもらう。次は……」
この後、候補生たちは順にウィッチボットへ試乗した。キャスとブランが考えていたよりもスムーズに進み、それぞれの順応具合に喜んでいる。一律沢山あった青色のシードを使ったが、心配していた拒絶反応もなく、無事に今日の実技研修は終わりを迎えた。
「これでワシの実技研修は終わりだ。みんなお疲れ様。よくやったな」
各々笑顔を見せ、候補生たちはブランにお礼を述べた。
「この後は、搭乗後の検診とシードの適性検査だ。全員医務室へ集まるように。キャス、私はアレフの様子を見に行ってくるから、この子たちのことは頼んだよ」
「わかりました。ブラン先生、ありがとうございました!」
「こちらこそ。久しぶりに楽しかったよ。じゃあ、また機会があれば。……アレフが復活しなかったら、ボットスーツの実習もワシが受け持とう」
「またよろしくお願いします!」
「ありがとうございました!」
「楽しかったです!」
「次も待ってます!」
「また受けたいです!」
口々に放たれる言葉を背に、ブランは手を振って格納庫を出て行った。それを見送ってから、残った全員は一度部屋へ戻り、ボットスーツから制服へ着替えると、医務室へと向かった。
「ここでの検査は、問診と触診を行います。それから、血液検査。今回はシードの適性検査も行いますので、二回採血します」
「げっ、二回も血採んのかよ……」
「現状とシードを服用した後の二回です」
「服用……って、シードを体内に取り込む、ってことですか?」
「そういうことです。現在あるシードを混ぜて作った錠剤があります。それを飲んでもらい、血液の成分変化を見るんです。アレルギー検査のようなものですね。どれくらいの適性があるかで数値が変わります」
「へぇ、面白いな。血を採られるのは嫌だけど。……俺、注射嫌いなんだよ」
「一番お兄さんなのに、パスコったらちっちゃな子どもみたい。ふふふっ」
「笑うなよモカ」
「ごめん。意外で」
モカは同じく候補生の一人で、ダークブラウンのロングヘアが似合う柔和な女性だ。背も平均より高く、パスコよりも年下だが成人済みの大人枠である。声色も柔らかく仕草も女性的だが、目元はキリッとして芯が強そうだ。制服も黒いタイツと合わせてよく似合っている、みんなのお姉さん的存在だ。




