35話 動き出す影
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魔獣化。 その能力は未だ世間に広まっていないとされている。
魔獣化はハースハイトで鍛冶屋を営むウォマー・ロベルトが初めて完成させた技術として、一部で注目を集めており、効果に個人差があるものの、かなり評価が高い。
しかし、様々なバッドステータスが降りかかるため、両刃の剣となっており自分より格上との戦いなど、死が濃い時にだけ一発逆転でその能力を欲しがるものが多い。
「……新……魔獣化……?」
リサードは呟いていた。
魔獣化……その能力ですらこの前まで未解明であったにもかかわらず、早速改良版のようなものが出来ているのだ。 驚くのも無理はなかった。
しかし、彼は同時にワクワクしていた。
「……今のも新・魔獣化の能力の一部なのか?」
リサードは最高技術のステルスを破ってみせた。 このステルスはどんなセンサーも掻い潜るものとして、生産中止になるほど危険なものである。
しかし、一部では出回っているとも噂されており、そう噂がたつのも無理はなかった。 要はそのステルス技術を使ってしまえば探す手立ては無いのだから取り締まろうにも取り締まれない。 そのため、その能力を付与した防具の生産中止にしても、人々が信じきれるわけがなかった。
なぜ、テイラーがその技術を持っているのかは不明だが、確かにリサードはそれを見事に見破った。
そして、驚きとはうって変わり興奮しているリサードにテイラーは答えた。
「新・魔獣化の能力は先程言った大六感の事です。 逆に言えばそれ以上でもそれ以下でもありません。」
「え? じゃあ、あのバッドステータスみたいなものは無いのか?!」
それって完璧に魔獣化の上位互換じゃねぇか……。 まあでも、新しいと付くぐらいだからそれぐらい期待してもいいのか……
そう考えていると「ただ……」と続けるテイラー。
それを聞いてため息をつくリサード。
出たよー……。 ただ。 絶対何かあるやつだろこれ……
「これはあくまで推測ですが、新・魔獣化は恐ろしい防具となりえます。 恐らく、リサードさん以上にその防具の性能を引き出せる人もいませんが、また苦しめられるのもリサードさん以上はいないでしょう。」
やっぱり怪しいこと言ってるじゃねぇか……
「……説明を噛み砕いてよろしく頼む。」
投げやりげにそう聞くリサード。
しかし、────
「すいません。それはできません。」
「は?」
そして、リサードが「なぜ?」と言った顔で顔を傾げる。
「この防具は僕が昔から魔獣化の能力を見て、長い年月をかけて研究し、鉱石を集めてやっと作ったものなんです。 作っておいてアレなのですが、まだ本当に未知数でそれ以上の情報も無いんです。 強いていえば、先程リサードさんが着てみて感じた大六感しか僕にはわかりませんし、むしろリサードさんの方が詳しいと言っても過言じゃありません。 」
だが、いまいち納得が行かないリサードが聞き返す。
「じゃあ、どうして俺がステルスを打ち破れると推測がついた? 何も情報のない中、その考えにどうやって、たどり着いたか気になるな。」
リサードがそう聞くと「簡単です……」と答えるテイラー。
「魔獣化の能力の推測方法と変わりません。 要は魔獣になると解釈して、その機能の向上と推測しただけです。 新・魔獣化ですのでもしかしたらただの魔獣化では見破れなかったステルスを打ち破れるのではないかと思って試したのです。 」
「……ふーむ。なるほど。」
リサードは顎に手を当て説明を聞く。 だが、もう一つ疑問があった。
「俺がこの防具の性能に苦しめられる……ってところが気になる。 だって、バッドステータス無いのに、苦しむところがわからないんだよな。」
すると、テイラーの顔が曇る。
リサードはその表情を逃さず、真剣にテイラー見つめる。
すると、「分かりましたよ……」と渋々話し始めた。
「あの魔獣化の能力に付属していたバッドステータスは本来の機能を阻害するために付いていたんです……」
「どういう事だ……?」
「……魔獣化をそのまま使うと、能力が強すぎるんです。」
「……強すぎる……?」
そうテイラーに聞き返すリサード。
「魔獣化はその名の通り魔獣に近づくという事です。 そして本来は、そのまま何もせず魔獣化を受け入れると戻れなくなるという程強力なものであり、そこまで行けば上出来な方で並の方では、体が持ちません。 そのため、ウォマー先生はバッドステータスで魔獣化の効果を薄めて、あくまで野生化の副産物にしていたんです……」
「……そういう事だったのか。」
「ただ、今回のこの防具は純粋なる魔獣化です。 野生化の副産物で現れた魔獣化とは比べ物にならない純度を誇っています。 そのため、いくら相性の良いリサードさんでも危険が伴うでしょう……。」
だが、「ですが……」とテイラーは自信を持って言いきる。
「この能力をリサードさんが使いこなしたら、あなたに敵はいないでしょう。 ただ、強制ではありません。 これを着てみて、選ぶかはリサードさんに自由が選んで下さい。」
「……………………………。」
リサードはこれを聞いてあることを考えていた。
俺は昔こんなことを言われたら、強くなるためとこの力を求めてたんだろうな……と。
だが、違う……と昔の自分を諭すように考え、目を瞑る。
強くなるためじゃない。
強くなりたいから力が欲しいじゃいけない。
俺は知っている……
強くなりたい、は力を手に入れる理由にはならないことを……
「俺は……」
この力を手に入れてどうしたいか……
今だったら言える。
ただ、彼女を……クロエを守りたい……
リサードは目を開け、覚悟を決める。
「この防具を着させてくれ。」
次は間違えない!!!
「ありがとうございます。 リサードさん……」
そう言って彼は微笑む。
「ぜひ、うちのテイラー工房をよろしくお願いしますね!!!」
「ああ、任されたぜ。」
そう言うと「じゃあ……」と丘の上へと戻ろうとするリサード。
「まだ話があります!!!」
「……ん?」
終わったと思っていたのもあり、歩き出していた足を止める。
「最後に一つだけ、言わせてください。」
「………………………………。」
リサードはテイラーの表情を見て妙な空気を感じ取り、黙った。
「……今回の騒動。 リサードさんの周りにゼーノス側の人間がいます……気をつけてください。」
「なん……だと……。」
……………………………………………………………………………
森の中心地、短めの原っぱが広がり地面がえぐれていたり、木が倒れていたりと戦闘の後が見えるこの森で、案内人の男は驚いていた。
「あなたはッッッ!!!」
案内人の男はそう言うと身を強ばらせた。
「……ここで戦いがあったのね。」
そう青い髪の女、よく見ると水色よりの髪をした女はそう言うと、地面にそっと指をあてる。
そして、
────氷系魔法
「アイス・ロード……」
地面に触れた指の先から氷の道が出来上がる。
「ここからエイドボックスを滑らせれば、ハースハイト王国RORに着くわよ? 」
女がそういうものの、男は首を横に振った。
「……自分で運びますので。」
男はそう言うと、距離をとって白髪の男の死体をそっとエイドボックスに入れる。
すると、フッと笑い話を変える女。
「リサード……知ってるわよね?」
女がそう言うと、案内人の男の眉がピクッと動く。
「……それを知ってどうするんです?」
「……ん? どうするって少し説得にね。」
青い髪の女は腰に手を当てそう言う。
「……リサードさんがその説得に応じなかったら?」
「……少し痛い目を見てもらうかもしれないわね。」
そう言って、舌をぺろっと出す女。
先程まで無関心を装っていた案内人の男の目に敵意が灯る。
「……それを聞いて言うと思いますか?」
「あら? 話さなければ無理やりでも聞くまでよ? リサードはどこにいるの?」
そう言うと、両者とも戦闘態勢に入る。
「私の名はドロア・ログベル。 七星剣の5柱シャーベット・フルムーンとお見受けする。 そして、あなたには注意しろと言われている。 」
ドロアはローブを脱ぐ。 すると、スラッとした筋肉質の体に白い防具を装備しており、肉体だけでも歴戦を感じさせる。
すると、それを見てクスクスと笑うシャーベット。
「あら……笑わせないで。 あなた如きに抑えられる私''達''じゃないわよ?」
「私……''達''???」
「あら? 気づいてなかったの……?」
「なんだと……ッッッ!!!」
後ろを確認するドロア。 すると、
「ばいばーい♪」
────ズドン!
「……ッッッウガッッ!!」
大きなハンマーの横ぶりを思い切りくらい、大きな岩に直撃するドロア。 直撃と同時にビキビキと音を立て、岩にひびを作る。
「あら、早かったのね。」
シャーベットがそう問いかけると、ハンマー振るっていた黄色の髪をした少女は自慢げに鼻を鳴らし、ハンマーを担ぐ。
「……雑魚だったから余裕だったよ?」
それに髪がボサボサの男が付け加えるように小さな声が反応する。
「………でも、少し攻撃を受けてた………」
「……余計な事言わなくていいのよブラッド!!!」
「アリエッタ、"少し''で良かったわね? 」
「……何ですってぇ???」
すると、手を叩く音が上空から響き渡り、低い声が木霊するように響く。
「……馴れ合いは任務が完了してからだ。 我々の任務はなんだ?」
顔に傷の入った男は上空からそう呼びかけると、ピタッと止まる3人。
そして、
「……私達の任務は……」
「「「第6王女、クロエ・ユーフェミアの捕獲!!!」」」
「よろしい。 リサード・ブルオストは後回しでいい。 」
男はそう言うと指をパチンと鳴らした。 白の短髪に茶色のローブを着ており、空中に浮き3人を見下ろしていたかと思うと、ゆっくりと地面に降り立つ。
男はゆっくりとクロエに近づき、エイドボックスからクロエを取り出しゆっくり担ぎ上げる。
「……アバン様。 他の者はいかが致しましょう?」
シャーベットにアバンと呼ばれた男はその問いに対し、キラ、シルビアを見てニヤリと笑い答えた。
「捨てておけ、野生の魔獣の餌にでもなるだろう。」
「わかりました。」
そうシャーベットが返事をすると、アバンは森の方へと引き返した。 それに、シャーベット、アリエッタ、ブラッドという感じで後ろを歩いていく。
すると、────
「……やめ……ろ……」
「あら? なかなかタフね?」
打ちのめされていたドロアが、左手を抑え、足を引きずりながらも立ち上がり4人を睨みつける。
「へぇー。 死んでなかったんだ?」
「…………どうしますか…………?」
ブラッドがアバンにそう聞くと、アバンは「ふむ……」と考え、
「……どうせ何も出来ん。 無視しろ。」
「「「はい。」」」
そして、3人はまたクルッと向き直り、アバンと一緒に森へと消えていく。
歩いていく彼らの気配がどんどん遠のいていき、あるところで消えた。
「く……そ……がぁ……。」
リサードさんに知らせないと……
すると、────
「ドロア!!!」
「バズ……か。」
途中までリサードを案内していた男、バズはボロボロのドロアを寝かせ、肩を支える。
「どうした?! 体は大丈夫なのか?!」
「……俺のことはいい……。早く……リサードさんに……」
そう言うと、バズは深呼吸し息を整える。
「……何があった……?」
すると、肩で呼吸をしながらも必死に伝えようとするドロア。
「……クロエ様が……連れていかれた……。」
「クロエ様が?!」
そう言って、周りを確認するが確かにクロエの姿が見当たらない。
「……ゆっくりでいい。 犯人は見たのか……?」
すると、ドロアはバズの肩に手を置く。
「ああ、この目でしっかりとな。 デミウルゴスが出てくる前にリサードさんに伝えねぇと……」
その時だった────
2人が何かを感じ取る。 首から下げていた赤い宝石が光だし、ブルブルと震える。
「最悪のタイミングだぜ……」
「全くだ……。」
ドロアは舌打ちをして、空を見上げた。
「リサードさんもクロエ様も、落ち着く暇がねぇよなぁ……。」
ドロアがそう言うと、赤い宝石にヒビが入り、砕け散る。 地鳴りが起こり2人は確信した。
一方2人から離れ、ちょうどその場にいたリサードも確信していた。
デミウルゴス……等々おでましかよ。
リサードは黒剣アビスを抜き、構えた。
〖「……怪物退治と行こうか。」〗
そう言って、リサードは駆け出した。
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1話1話切るより一気に終わりまで書きたい病が出ます。。。




