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32 シルカの街へ


「それじゃあシルカの街に行きましょうか」


「おうよ! 早くメアリーの父ちゃん達を助けに行こうぜ!! 」



メアリーとステラさんの話を聞き、事情を理解した俺とルークはメラメラと闘志を燃やしながら剣をとり、遠くに見えるシルカの町を見やる。



「少し落ち着いて下さいお嬢様にルーク」


「ぐはっ!?」


今にも町の方向へ駆け出しそうな勢いのルークに、リーニャは後ろから脳天に手刀を振り下ろすと、ルークは涙目になりながら頭を抱えリーニャに向き直る。



「いきなり何すんだよ姉御!! 」


「そんな勇み足でシルカの町に乗り込んで、いったいどうするつもりですか? 」



リーニャからの冷静な質問と冷たい視線にルークはたじろぎながらも答える。



「だっ、だからメアリー達の父ちゃん達を……助けに、よ」


「ハァー……町にはコランダム子爵家の騎士に加えて、聖騎士がいるのですよ? こちらから馬鹿正直に事を構えてもデメリットしかありません」



たしかにリーニャの言う通り聖騎士は当然として、コランダム子爵家も下手をすると教会と繋がっている可能性があるので味方かどうかわからない、どうやら俺も熱くなって少し冷静さを失っていたようだ。



「リーニャ、何か作戦でもあるの?」


「…………」



俺は何か考えがありそうなリーニャに問いかけると、リーニャは一瞬思案するように目を閉じたあと、再び目を開けると皆にこれからの方針を話始めた。



「さて、大方の道筋は決まったので残るは……お嬢様に剣を向けたこの愚か者共の処分なのですが…… 」



そう言いながらリーニャは、簀巻きにされて転がされている聖騎士達に歩み寄っていくが、例のごとく怒りのオーラと共に冷気も周囲に撒き散らせていたので、俺はリーニャにストップをかけた。



「待ちなさいリーニャ、聖騎士達をどうするつもり? 」


「はい、もちろん彼らには眠って頂くだけです……永遠にね」



やっぱりか、どうもリーニャは俺が絡むと少々過激になる傾向にあるようで、「ウフフ」と笑っているのだが、目が全く笑っていない、それを見てルークは顔をひきつらせていた。


まあ俺もあまり人の事は言えないが、ルナやメアリーがいる前で人間が氷付けになる、なんていうトラウマ物の記憶を幼い彼女達に植え付けるわけにはいかない。



「却下ね、ここはやはりルークに頼むわ」


「そうですか、お嬢様がそう仰るのなら…… ルーク! さっさとこの愚か者達をあなたの雷で塵にしてしまいなさい!!」


「ちっがーう!!」



俺は思わずリーニャに突っ込んでしまったが、これは仕様がないだろう、これ以上リーニャ任せていると危険なので俺はルークだけを呼び寄せ、ルナ達は馬車で待機してもらった。



「くっ、我らをどうするつもりだ」



地面に転がされている聖騎士の一人が怯えた様子で、こちらを見上げながら問いかけてきた。


どうやら先程荒ぶるリーニャを鎮めている間に気がついたようだが、こちらも聞きたいことがあったので丁度いい。



「さあ、それはあなた達の態度次第だけど?」


「おっ俺たちは教会の聖騎士だ! こんなことをしへ!?」



もう一人の聖騎士が騒ぎ出したが、その男が最後まで喋ることは出来なかったようだ。


まあ理由はリーニャの魔法により騒いでいた聖騎士の口のみが凍りついているからなのだが、相変わらず魔法の制御が上手い。



「なっ、何を知りたい」


「お前達がシルカの街でしたことを全部よ」



以外にもそこから聖騎士の男はスムーズに質問に答えてくれた。


ステラさん達の証言と概ね合致していたので嘘は言っていないだろう、終始リーニャの方を気にしていたので、最初にリーニャがもう一人の聖騎士を氷の魔法で黙らせたのが効いたらしい。



「さあ約束通り全て話したのだ、この魔封石を解いて頂きたい 」


「なにを言っているの、寝言は寝てから言うものよ?」



聖騎士の言葉に俺は笑顔でそう答えてやる。ちなみにこの男が言う魔封石とは対象者の魔力の一切を封じる物で、魔法使いや身体強化が使える犯罪者を捕らえる時に使用されるものらしい。



「なっ、貴様約束を違えるきか!!」


「私がお前達との約束を守ってやる義理なんてないわ、でも……命だけは奪わないでいて上げる」



こいつらのした事を考えれば許すことは出来ないし、メアリーやステラさんの存在を仲間に知らされる訳にはいかない。


それに流石に人を殺めるのは躊躇われるのだ。



「それではお嬢様、このもの達はどうするのですか?」


「まだ役にたつかも知れないから連れていくわ、ルーク、ちょっとこっちに来て」


「ん? ああ、いいぞ」



そして流石にシルカの街にこのまま連れて行けないので、しばらく眠ってて貰わないといけない…… だがリーニャに任せると永眠させてしまうので、ルークの出番というわけだ。


だがルークはなまじ魔力が多いこともあり、精密なコントロールはあまり得意ではないので、本番前に側にあった手ごろな岩で試し打ちをさせてみたのだが。



「「…………」」



岩は欠片もなくなり、地面に穴が空いてしまっていた。



「むぐぅーー!?」

「い、命までは奪わぬといったではないか!!」



まあそう思うよね、流石にあれは不味いので何度かルークに練習してもらい、なんとか気絶で済むレベルまで雷の威力を絞らせた。



「よっし! もう手加減はバッチリだ。 いつでもいけるぜアイリ」


「じゃあ、まずそっちからお願い」



俺は未だに口をリーニャの魔法で凍らされている男の方を指差す。


そしてルークは一つ頷くと人差し指にバチバチと音を立てながら小さく紫電を走らせて聖騎士に近づけていく。


すると不意にリーニャがルークに近づいていき、横からルークの肩に手を添えて自分よりも背の高いルークの顔に近づくに様に背伸びをする。



「ちょっ、 姉御!?」


「り、リーニャ?」



突然の事態に焦る俺やルークを他所に、リーニャはいつもと変わらず澄まし顔だ。


そしてルークの頬に、ではなく耳元までリーニャは顔を寄せると「フゥ」と息を吹き掛けると、ルークは「ふわぁっ」と変な声をあげ魔力の制御が少し狂ってしまい、聖騎士の男はくぐもった悲鳴を上げた後パタリと動かなくなった。



「ふぅー、なんとか生きてるぜ」


「まったく、修行が足りませんねルーク」


「俺のせいかよ!」



このままでは拉致があかないので、俺は言い争う二人を静かにさせ、何事か叫んでいたもう一人の聖騎士の言葉をスルーし、今度こそルークに威力の押さえた雷魔法で男の意識を奪って貰った。


その後気絶させた二人の聖騎士を馬車の荷台スペースに積み込んでいる最中に、リーニャが布の様な物を二人の男の鼻と口辺りに押し付けていたので、何をしているのか聞いてみると。



「ああこれですか? これは睡眠薬ですよ」


「へ? 睡眠薬なんて持ってたなら、あんなことする必要無かったんじゃあ…… 」


「申し訳ありませんお嬢様、どうやら失念していたようです」


「アハハ…… そうね、忘れてたなら仕様がないわね」



リーニャの晴れ晴れとした笑顔に乾いた笑いしか出ませんでした。






▽ ▽ ▽ ▽



「うん、ステラさんは執事服もいいけど、メイド服も似合うわね」


「そ、そうでしょうか……今まで女性らしい格好などしたことがないので」



俺たちはリーニャ発案の元、これからの方針を話し合い、予定通りシルカの町に向けて馬車を走らせていた。


ステラさんの執事服は先の戦闘で再び着られる様な状態ではなかったので、変装の意味合いも込めて着替えて貰ったのだが、俺の持っている服ではある部分のサイズが合わない為、必然的にリーニャのメイド服を着てもらっている。



「いえいえ、良くお似合いですよ。サイズの方はいかがですか?」


「はい、少し胸の辺りがキツイようですが、特に問題ありません」


「……それは、よかったです……」


「? ありがとうございます。リーニャさん」



ふむ、どうやらリーニャの胸大きさは、執事服を華麗に着こなすステラさんよりも慎ましかったようで、リーニャは自らの胸に手を当てながら何やらブツブツと独り言を呟いていた。


しばらくそっとしておいた方がいいだろう。


ステラさんは以外とそういうのには鈍感らしく、リーニャに少なくないダメージを与えていたが、本人には悪気はないらしく笑顔でお礼を言っていた。



「はいメアリーちゃん、これ上げる。とっても美味しいんだよ」


「う、うん ありがとう」



すると隣ではルナがメアリーに焼き菓子を手渡していた。


あれはたしか屋敷を出発するときにルナがお母様から貰っていた物だった筈、メアリーはルナから受け取った焼き菓子をおずおずと一口に運ぶと、「おいしい」と小さく呟いた。


心なしか先程よりも表情が柔らかくなったようで、少し安心した。


俺たちが助けると約束したものの、やはりこの小さな女の子にはなかなか受け止めきれない現実なのだろう。


そうして暫く馬車に揺られていると、御者をしているルークから街の門が見えてきたと声が掛かった。



「さて、もうすぐシルカに入るわけですが、ステラさんとメアリーは街の人間に顔が知られている可能性があるので、馬車の外にはでないようにお願いします 」



街に入る前に最終確認を行う、ステラさんは緊張した面持ちでルナとメアリーは不安そうにしている。


ここからは俺の公爵令嬢としての演技にかかっているので、気合いを入れていかなければならない。




▽ ▽ ▽ ▽



「失礼、馬車の中を改めさせて頂きたい」



馬車の揺れが止まり、外から男の声が聞こえてくる。


どうやらシルカの街に着いたらしく、窓から外を覗くとの数人の男達が馬車を取り囲んでいた。


予想していた通り、門には門番の兵士だけでなく騎士も数人おり、物々しい雰囲気だ。



「騒々しいわね、一体何の騒ぎかしら?」



俺はリーニャに馬車の窓を開けてもらうと、目線だけでぐるりと眼下の騎士や兵士達を見回し、不快げに騎士の一人に声をかける。



「こっこれはキャンベル公爵家の! 失礼しました。 現在シルカの街に往き来する全ての者と積み荷を確認せよとの命令がでておりまして、どうか協力を……」


「あなた、一体誰に向かってそんな口を聞いているのかしら、まさかとは思うけど騎士風情がキャンベル公爵家の人間である私に命令をするつもり?」



俺は騎士の男の言葉を途中で遮り、捲し立てるように言葉をならべる。


内心ドキドキではあるが、我ながら高慢ちきな令嬢を上手く演じられているとおもう。



「めっ滅相もありません! どうか平に、平に御容赦を!! 」


「ふん、なら早くここを通しなさい、私も暇じゃないのよ」



想像以上に効果があり、騎士の男は顔を真っ青にしながら平伏しており、俺は少し申し訳なく思いながらも、ここを無事に通過するために追い討ちをかける。



「はっ! おい! 早くここをお通ししろ!!」



騎士の男は勢い良く立ち上がると、直ぐ様門番の兵士に道を開けさせる。


そして部下の騎士に耳打ちすると、その男は馬に跨がり、街の中に入っていく。


おそらく先触れの為だろうが、ステラさんの話によるとコランダム子爵家の屋敷は燃えてしまったようだし、現当主の安否もわからないらしい状態だが、とりあえず屋敷に向かうしかないだろう。


そんな事を考えている内に再び馬車は動きだす。


どうやら無事にシルカの街に入れたようで、俺はようやくホッと一息つけたのだった。





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