21 A級冒険者昇格とアイリ親衛隊
無事ルナに認めてもらえてホッとしていると、タイミングを見計らったようにリーニャとシスターが部屋に入ってくる。
「あらあら、その様子ですと上手くいったようですね」
「はい、ルナも認めてくれました」
「シスター! アイリお姉ちゃんが本当のお姉ちゃんになるんだよ!」
シスターも俺達の様子を見て上手くいった事がすぐ分かったようだ。ルナが嬉しそうにシスターに報告し、シスターはそれを微笑ましそうに見ている。
「お嬢様、良かったですね。でもこの後冒険者ギルドに行くんですから、そのユルユルのお顔をもう少し引き締めておいて下さいね」
ルナが妹、実際は養女になってくれたことが自分が思っていたより嬉しかったせいか、俺の緩みきった表情をリーニャに指摘されてしまう。
俺は思わず両手で頬を引っ張り上げるが、ルナがシスターに嬉しそうに話しているところを見ると、目尻が下がってきてしまう。
結果とても公爵令嬢とは言えないような、面白顔のアイリーン・キャンベルがそこにはいた。それを見ていた我がメイドであるリーニャは、盛大にため息をつく。
しょうがないじゃないか、ルナが可愛すぎるのがいけないのだ。以前から素直で可愛い子だとは思っていたが、自分の妹となった今では100倍増しで可愛くみえる。
誰かが言った。「目に入れても痛くない」という意味が、今なら少し分かる気がするほどだ。
「そんな目で見るな。ここを出るまでには、きちんとしておくから!」
「くれぐれもお願いします。一応公爵家のご令嬢なのですから」
気のせいだろうか、さっきからリーニャの俺に対する態度が刺々しいのだが。うん帰りに何か甘いものでも奢ってやろう、このように普段から小さな不満をその都度フォローすることが、女の子と上手く付き合うコツなのだと、会社のモテる先輩が言っていた。
「アイリお姉ちゃん達どこかにいくの?」
「うん、今から冒険者ギルドに行かないといけないんだ。ルナ明日また来るから、その時は私の家に着いてきてもらうからよろしくね」
「アイリお姉ちゃんのお家! 行きたい!」
明日家に招待すると言ったら、ルナは目を輝かせてよろこんでいる。耳がピンと立って、尻尾も嬉しそうに揺れている。そんなルナをシスターが諭してなんとか落ち着かせていた。
「ではシスター、また明日伺いますので今日は失礼します」
「お待ちしてますね」
「アイリお姉ちゃん、リーニャお姉ちゃんまたね」
名残惜しいが、グラン師匠が待っているのでそろそろお暇することにする。そして外に出るとやはりと言うべきか、ルークは子供達に大変懐かれており、みんなで楽しそうに遊んでいた。
「お待たせ、 なんか楽しそうだな」
「アイリか! ガキどもが遊んでくれってせがむから、仕方なくな」
「遅いぞ、お陰でわしの美しい毛並みがこの有様じゃ」
俺が2人に声をかけると、ルークは憎まれ口を叩きながらも満更でもなさそうな顏をしている。ミューはどうやら子供達に揉みくちゃにされた様で、自慢の黒い毛並みが悲惨な事になっている。かなりお疲れの様子なので、屋敷に帰ったらリーニャにブラッシングをしてもらおう。
「ガキども今日はここまでだ!」
「「え〜〜!!」」
ルークが今日はお終いと子供達に告げると、一斉に抗議の声が上がる。ルークはどれだけ懐かれているのだろうか、意外と先生なんて向いているのかもしれない。そんな子供達 にルークがまた来てやるからと約束してやると、みんな嬉しそうに教会に帰って行った。
「ルークあなたはここで子供達の面倒をみていた方がいいのでは?」
「姉御……俺を体良く追い払おうとしてないか?」
「そんなことありません」
リーニャが暗にここに残れとルークに言う、すると気がついたルークがそれを指摘すると、リーニャはサッと視線をそらす。露骨すぎるリーニャの態度にルークは涙目だ。まったくもう少し仲良くできないのだろうか? いつまでも付き合っていられないので、2人を促して俺たちは冒険者ギルドに向かった。
そして冒険者ギルドの前までやってくると、周りから凄い視線を感じる。悪意は感じられない、というよりどうも好意的な感じなので違った意味で、居心地が悪い。
「ここに居るものは、ほとんどが先ほどの顛末を知っていますからね、獣人の少女を救い悪魔憑きの男を倒す。さらには悪魔により呼び寄せられたマヌケなドラゴンを、A級冒険者達と共に撃退した冒険者アイリ。今この都市で一番の有名人ですから、無理もありません」
リーニャがこの視線について説明してくれる。どうやら公爵令嬢としては、衛兵の人達にしか知られていないようだ。まあ一般の市民と貴族との接点なんて普通はないだろう。まあ冒険者としてはかなり名前と顏が知られてしまったが……。
そして何気にリーニャにマヌケ呼ばわりされてしまったルークは「面目無い」とへこまされていた。これはもうリーニャの怒りが収まるまで、ルークには頑張ってもらうしかない様だ。
そして冒険者ギルドの中に入ると、俺たちを見つけた受付嬢の子が勢いよく駆け寄ってきて、俺の腕を掴むとギルドマスターの部屋まで連行されてしまう。話がややこしくなるので、ルークとミューには待っていてもらう事にする。どうやらかなり待たせてしまったようだ。
そして受付嬢にギルドマスターの部屋に通されると、グラン師匠達とギルドマスターが一斉に視線をこちらに向ける。あまりの凄みに思わず一歩退いてしまうほどだった。
「あの……お待たせしました」
そして俺が意を決して口を開くと、各々が聞きたい事を一斉に話し始める。
「ミューが空間魔法を使えるなんて聞いてないぞ!」
「アイリちゃんがキャンベル公爵家のお嬢様って本当なの?」
「おいおい、お前らその口の聞き方はマズイんじゃないか!?」
「そうっすよ! 俺達不敬罪で牢屋いきっすよ!」
俺は何処ぞのお偉い人のように、何人もの話を一斉に聞く特技など持っていないので答えられない。
そんな感じで興奮気味のグラン師匠達をギルドマスターが何とか諌めてくれる。そんなわけで一度落ち着き、順番に説明を行なった。
ミューの空間魔法に関しては、光属性の魔法より希少なので面倒事に巻き込まれないように秘密にしていた事、それと俺の身分に関しては、実家に秘密でグラン師匠に剣の稽古をつけてもらっていた事を説明して、なんとか納得してもらえた。
「それではこちらの話をさせてもらっていいですかな?」
一通りの説明が終わると、ギルドマスターに話していいか尋ねられたので、それに頷く。
「まずは悪魔並びにドラゴンから市民を守って頂き感謝します。グランの話では、ほとんどアイリーン様とリーニャ殿で撃退されたとか、お二人の功績を考えればAランクに昇格は間違いないですな」
かなりの高評価で嬉しいのだが、グラン師匠達のサポートがあってこそ勝てたのだ。そう説明してみたがグラン師匠に、致命傷を与えたのは俺だと。それにエマさんからは、リーニャの見事な氷魔法あってこそだったと。そこまで言われてしまっては否定するのも違う気がしたので、リーニャと共にAランク昇格の話を受ける事にした。
「では、お二人のAランク昇格はこちらで話を通しておくので、後でギルドカードを受付で更新してください」
「分かりました」
ギルドマスターの話によると、歴代でも断トツの早さらしい。まあ倒したのが普通あり得ないような相手ばかりだったからな、当分は平和である事を願うばかりだ。
「それにしてもあっという間に冒険者ランクも並ばれちまったな……さすがは我が教え子だぜ」
「本当ね、もうどこに行っても冒険者としてやっていけるわね」
「ありがとうございます。これもグラン師匠の教えのおかげです」
「そっそうか? てれるじゃねえか!」
グラン師匠やエマさんには、かなり褒められしまったが実際ここまで早く強くなれたのは、元々の才能のおかげもあるが、グラン師匠やミューの教え方が適格だったのも大きい。なのでグラン師匠にお礼をいうと、顏を赤くしながら照れていた。そこでエマさん達がからかう所までが、いつもの流れだ。本当に仲がいいパーティだと思う。
リーニャとルークにも見習ってもらいたいものだ。まあリーニャも本気でルークの事を嫌っているわけではないだろうが。そんなグラン師匠達のやり取りを見ていると、再びギルドマスターが口を開く。
「盛り上がっている所申し訳ないが、ここからが本題なのです」
「ん? 今回は事件の報告と冒険者ランク昇格の話じゃなかったのか?」
ギルドマスターがここからが本題だと言う。グラン師匠が先ほどの話が本題じゃなかったのか? と聞くと、リーニャがそれに答える。
「お嬢様の件で、事件の報告も兼ねて屋敷に来るように言われたのでは?」
「その通りだ。 公爵様には通信魔道具ですでに事件の報告を済ませたのだが、その時に直接屋敷に来るように言われている。それもアイリーン様と一緒にとの事だ」
やはり広場にいた衛兵から父に話が伝わっているようだ。顏を青ざめさせているギルドマスターには申し訳ないが、ルナの事を話さなければならなかったので、むしろ好都合だ。
「すいません、ギルドマスター。ですが父には私が説明しますのでご安心下さい」
「よろしくお願いします。それとグランおまえも一緒に来い!」
俺は一応ギルドマスターに安心して下さいと、声をかけると少し顔色が良くなった気がした。そして続けてグラン師匠にもついて来いと言う。有無を言わさぬ雰囲気だ。
「なっ何で俺まで!?」
「当たり前だ!! お前がアイリーン様に剣を教えておる張本人だろうが!!
「うぐっ……分かった。お前らも一緒に……」
すぐ様拒否をしたグラン師匠だったが、ギルドマスターに正論を言われて、渋々着いて来る事を了承していた。そしてせめてパーティメンバーも一緒にとエマさん達に声をかけていたが、あっさり断られていた。こういう時人間の結束など脆いものだ。
まあほとんどが俺の所為ではあるので、グラン師匠には申し訳ないが、ここは諦めてもらおう。
「では行きましょうか」
そしてギルドマスターの部屋から出て、ギルドホールに出ると騒ぎになっていた。
「小僧! アイリちゃんとどんな関係だ!」
「そうだ! 俺たちの女神に手を出す奴は許さねえ!」
「うるせえ!! 俺はアイリの第一の下僕だ!」
「羨ましい!!!」
そして聞こえてくるのは、耳を塞ぎたくなるような内容だった。 俺が女神ってどういう事だ?
そんな者になった覚えはまったくないんだが、しかも争っているのはやはりルークのようだ。しかも自ら俺の下僕宣言してるし……。変な噂が立ったらどうしてくれる。俺は女王様になる気はないぞ!
というかすでに1人羨ましいとかいってる奴もいるしまつだ。
「静かにしなさい!」
だがリーニャが一声かけると、全員がこちらに振り向く。そしてリーニャの顏を確認すると全員が、さっきまでの騒がしさが嘘だったかのように、ギルド内が静まりかえる。うちのメイドはとんでもない統率力を持っているようだ。この荒くれ者達を一発で静めるとは流石はリーニャと言ったところか。
「ルーク、この騒ぎはいったい何なのですか?」
「姉御……それがこいつらアイリと一緒にいた俺に急に絡んで来やがったんだ」
リーニャがルークに尋ねるとルークがそう答える。聞く限りでは、ルークに非はないようだ。
そしてリーニャは冒険者の中の見覚えのある奴に話かける。
「あなたは、マックスさんとか言いましたか、どういう事なのです?」
そう騒ぎの中心にいたのは、以前リーニャにコテンパンのされたCランク冒険者のマックスとか言う男だ。
彼は震えながらも、リーニャに答える。
「おっおう、俺はアイリ親衛隊の隊長をやっている者だ。そこのガキがアイリちゃんと一緒にいたんで、どういう関係か問い詰めていたんだ」
なんだアイリ親衛隊って、聞いてないんですけど、いつの間にそんな物が出来ていたんだ。ああ、だんだん頭が痛くなってきた。後ろのグラン師匠達は爆笑しているし、勘弁してほしい。
「まったく許しがたいですね、私に勝手でそんな物を作るなんて、アイリを一番愛しているのはこの私です。マックスさんその親衛隊の隊長の座は、私が貰い受けます!」
「くっ! あんたなら認めない訳にはいかねえな、今からあんたが親衛隊の新しい隊長だ!」
リーニャは何を言っているんだ? 止めてくれるのかと思いきや、何故か親衛隊の隊長の座についているんですけど、しかもマックスも「くっ!」じゃないんだよ。もう駄目だついていけない、誰かこのバカどもを止めてほしい。
「では、新しく隊長になったリーニャだ! 喜べ、本日我らがアイリは冒険者ランクAに昇格した!」
「本当ですか隊長!?」
「勿論だ、今からAランクの承認の証に、ギルドカード更新の義を執り行う!」
ここで今日一番の大歓声が巻き起こった。そして何故かギルド中が見守るなか、受付嬢から新しいギルドカードが渡されたのだが、もう恥ずかしすぎて死にそうだった。
そして無事閉会となり、俺たちは親衛隊の面々に見送られながら、冒険者ギルドを後にした。




