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22 キャンベル家からの呼び出し


冒険者ギルドで、むさ苦しいアイリ親衛隊に送り出され、俺達はギルド所有の馬車でキャンベル公爵家の屋敷に向かっていた。それにしても、知らない間にとんでもない組織が生まれてしまっていた。


今さら止めようにも本日めでたく親衛隊隊長になったリーニャがのり気なので、不可能と言っていいだろう。まあ親衛隊と言っても、別に騎士団のようなものではなく、ファンクラブ的なものらしいが……。


うん、この件は忘れてしまおうと思う。もうすぐ学園にもどるのだし、その内飽きてくれる事を祈ろう。


そんな事を考えながら馬車の窓から流れていく町並みを眺めていると、ギルドマスターに話しかけられる。



「アイリーン様、そういえばそちらの方はどなたですか?」


「ああ、この人はルークと言いまして、新しく私の護衛に雇ったんですよ」



ギルドマスターがルークについて聞いてくるので、初めから示し会わせていた内容を教えておく。ルークもそれに準じてギルドマスターに挨拶をしている。


二人の話しが終わると、俺は気になっていたことを、ギルドマスターに質問してみる。



「そういえば消えた悪魔はどこに行ったのでしょう?」


「おや? アイリーン様はご存じなかったですか、悪魔というのは我々とは別次元で生きる存在なのです。そしてこちらに来るには、人間によって召喚される必要がある。なので召喚主さえ倒してしまえば、こちらの世界に居られないのですよ。それに悪魔は人間に力を与えますが、悪魔自身の戦闘能力はそれほど高くありません」



俺が消えた悪魔について質問すると、ギルドマスターが詳しく教えてくれた。通りでみんな悪魔の行方を気にしない筈だ。悪魔憑きの人間を倒した時点で、勝手に帰ってくれるらしい。


まあ今回は最期にとんでもない置き土産を置いていったわけだが……。



「なるほど、ありがとうございます。勉強になりました」



俺がギルドマスターにお礼を言うと、グラン師匠が「だが」と続ける。



「例外ってのがある。まあ数百年前の歴史上の話しだがな、魔王の存在だ。その時代、魔王に召喚された悪魔達は、かなりの強さを持っていたらしいぜ? 悪魔憑きの人間なんかよりもずっとな。勇者によって魔王が倒されるまで、かなりの被害がでたらしい」



俺はグラン師匠の言葉に絶句してしまう。まさか魔王なんてものが存在していたなんて、しかも勇者まで。なんか今とんでもないフラグが立ってしまった気がするのだが……。


俺が顔を青ざめさせていると、隣に座っているリーニャが自分の胸元に俺を抱き寄せる。

するとリーニャの胸が俺の顔に押し付けられて、幸せな気分になってくる。決して大きくはないが、この顔に丁度フィットする感じが実に素晴らしい。先ほどまでの陰鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれる。


そうだ、そんな昔の魔王の事で今心配するのは、するだけ無駄だ。それにいざとなれば勇者がなんとかしてくれるだろう。それよりも今はこの幸せを噛み締めておこうと思う。



「グラン殿お嬢様が怯えているではないですか、そんな大昔の話を持ち出さないで下さい」


「ああすまんな、だがよ……、当の本人は幸せそうな顔してるぜ?」



リーニャがグラン師匠に俺を怯えさせた事を責めると、グラン師匠がそんな事はないのではないか? と指摘する。するとリーニャが視線を下げ俺と目があう。



「……」


「お嬢様、そんなに喜んで頂けるならこのリーニャ、いつでもこの胸をお貸ししますよ?」


「ちっ違うから! 今のは何かの間違いだから!!」



リーニャはここぞとばかりに、ニッコリ笑ってそう言ってくる。俺は慌ててリーニャから距離をとり、今のは何かの間違いだと必死に否定する。


まずい、最近完全にリーニャのペースだ。最初のころは警戒してた事もあって、きちんと拒否の姿勢を取っていた……と思う。だが今はこの世界において、信頼できる数少ない人間だ。心を許しているせいか、リーニャの行為を受け入れそうになっている自分がいる。


これは危険だと、俺は改めて自分を律することにした。ルークやミューは勿論、グラン師匠 もこの俺とリーニャのやり取りに慣れてきているので平気そうだが、ギルドマスターは何か見てはいけない物を見てしまったかのように、視線を泳がせていた。


まあ常識人であるギルドマスターが、公爵令嬢とそのメイドがこんなやり取りをしていれば、そういう反応になってしまうのも頷けるというものだ。これからは身内以外の人間が居るところでは、気をつけようと思う。


そうして暫くすると屋敷が見えてきた。ここからは気を引き締めていこう。



馬車が屋敷の前に着くと、キャンベル家の使用人が出迎えてくれる。



「お帰りなさいませ お嬢様、皆様ようこそおいで下さいました。旦那様がお待ちです」



慇懃に挨拶を終えると、「ではこちらに」と言って屋敷に入っていくので、俺たちも後をついて行く。

ミューはいつも通り俺の中に避難している。そしてグラン師匠とルークは周囲を興味深そうに見ていて、ギルドマスターとリーニャがそれを注意している。



「それにしてもアイリは本当に、キャンベル家のお嬢様だったんだな」


「前からそう言ってるじゃないですか」


「いやー普段のお前さんを見ていると、あまりにも貴族には見えなくてな」



たしかに東地区にいる時の俺が一番自然体でいられるので、そう言われるのも仕方ないだろう。だがここ最近ではリーニャに貴族としての立ち振る舞い方やマナーを学んでいるので、その気になればお嬢様オーラだって出せるのだ。気を抜けば直ぐに霧散してしまうが……。



「私だってその気になれば貴族っぽくできます」



俺はそう言って、姿勢や顔の表情、歩き方に至るまでリーニャの教え通りにする。するとグラン師匠の目が見開かれる。



「おお! なんか貴族のお嬢様っぽいぜ!」


「さすがアイリ!」


「これくらい当然です」


「静かにしてろグラン!」


「ルークうるさいですよ! それとお嬢様、少し落ち着いて下さい。ちなみにそれは褒められていませんから」



グラン師匠とルークが貴族みたいだと驚いてるので俺は得意げにしていると、前を歩いていたリーニャギルドマスターにそれぞれ注意される。



「「すいません」」



そして暫く歩いて行くと大きな扉の前で止まる。たしかここは応接室だった筈だ。そして使用人の人が中に俺たちの来訪を告げて、許可出たのか中に通される。


室内はかなり広くこの人数で入ってもまだまだ余裕があるくらいだ。そして部屋には大きな机が置いてあり、対面にそれぞれ椅子が用意されている。すでに奥の席には父が座っており、そのすぐ側には50代の男性が立っている。口髭を綺麗に整えており、オールバックが特徴のキャンベル家の筆頭騎士であるゼノだ。



「お待たせして申し訳ございません、お父様」


「うむ、とりあえず席につきなさい」



父に促され、俺とグラン師匠、ギルドマスターが席につき、リーニャとルークは俺の後ろで控えている。

そしてそれを確認した父が話を切り出す。



「まず東地区にて現れたという悪魔憑きにドラゴンからこの都市を守ってくれた事に感謝する。被害もほとんど無かったと聞く、後ほど褒賞の方もキャンベル家から出そう」


「ありがとうございます。サンマルクスの冒険者は大変優秀ですので」



父がまずこの都市を守ってくれた事に礼を言う。それにたいしてギルドマスターが優秀な冒険者のお陰であると返す。



「そうだな、それでその優秀な冒険者だが、我が娘も含まれているのではないか?」


「そっそれはですな……」



やはりその話が来たか。父からの問いに、ギルドマスターは何と答えていいかわからず、口籠ってしまう。

父の鋭い視線と公爵としてのオーラに、萎縮してしまっている。冒険者をしていることを口止めしていたのは俺だ。ここはフォローに回ろう。



「お父様その件に関しては、私から説明させて頂いて宜しいでしょうか?」


「まあ良いだろう、説明してみなさい」



父から許可も出たので、俺がこの体の転生してからの話を大まかに説明した。



「なるほど、魔力はあるが魔法は飛ばせないので冒険者になり剣を覚えたと……」


「はい、それでギルドマスターには私が無理を言って、秘密にしてもらいました。なので積は私に」


「ふむ、最近のお前は変わったと屋敷の皆が言っておったが、なるほどグラン殿の剣の教えの

お陰かもしれんな。だがもう少し公爵家の者として、責任ある立場の人間として行動しなさい。衛兵からお前が悪魔憑きに1人で戦いを挑んだことも、ドラゴンの撃退にA級冒険者と共に向かったことも報告されている。今回はグラン殿たちが一緒にいたから無事で済んだかもしれないが、いつもそうとはかぎらないからな」



どうやら父の認識では、俺はグラン師匠達のオマケくらいに思われているようだ。まあつい最近まで碌に走れもしなかった娘がそんな事を言っても信じられないだろう。だがそこでグラン師匠がフォローしてくれる。



「あのー、いいですかい公爵様」


「無礼者が! 未だにまともな言葉使いもできんようだな、グラン!」



すると今まで沈黙を守ってきたゼノさんが、声を荒げる。というかグラン師匠と知り合いだったようだ。



「相変わらずだな、ゼノさん」


「良いゼノよ、それでこのグラン殿と知り合いか?」


「はっ! 失礼しました。昔剣の指導を少々」



そうだったのか、それにしても世間は狭い。ゼノさんは俺の師匠の師匠だったわけだ。そして納得した父はグラン師匠に続きを促す。



「それで、グラン殿話とは?」


「はい、今回のドラゴン撃退では俺達ではなく、お嬢様とリーニャ嬢そこのルーク力です。その証拠に今回お嬢様とリーニャ嬢はAランク昇格してますよ」



グラン師匠の話す内容に、父もゼノさんも驚いている。父がギルドマスターに確認すると、それを肯定され信じられないと2人の顔がいっていた。ルークについては、ドラゴン撃退に貢献し私が雇ったという設定だ。



「にわかには信じられないが……それでそちらは何故ここに?」


「お父様、そこのルークはかなりの実力をもっており雷属性の魔法を使います。私の護衛として雇いました。」



ここにきて雷属性を持つ人間の登場に、父は貴族の顔になり「そうか」と一言だけ良い、頷いた。貴重な属性を持つルークを囲うのは賛成らしい。ここで俺は本日の本命を話す事にする。



「それとお父様 、もう1人私の側に置きたい者がおります」


「もしかすると光属性の魔法を使った獣人の子供の事か?」



やはり父も知っていたようだ。先ほどのルークの話をした時より、明らかに雰囲気が変わった。ルナは獣人であるが光属性を持つものだ。絶対に食いついて来ると、リーニャも言っていたが予想通りだった。



「はいその通りです。すでに本人と現在の保護者である者には、話をとおしてあります」


「……そうだな、光属性を持つ者は貴重だ。教会に嗅ぎつけられる前に、こちらに取り込んでおきたいと思っていたし、その判断は貴族として正しい。だが……教会は必ず難癖をつけて奪い来るだろう」



私がすでに話をつけてある旨を言うと、父は再び目を見開いて驚いていた。あの娘がそんな貴族的に行動している事が信じられないのだろう。だがやはり教会が問題だと思案顔になる。



「それも問題ありません。その子は私の養女として、引き取りますので」


「なっ! 確かにそれであれば教会も文句を言えないだろうし、我が領の貴族達も何も言わぬだろうが……それは、今の自分の置かれている立場をも考慮してか……」



俺がルナを養女として迎い入れると伝えると、父は珍しく狼狽えていた。やはりそれが一番問題ない方法だと気がついていたのだろう。王子に婚約破棄された立場も含めてだ。だが流石の父も傷心であった娘を政治的理由で、利用するのを躊躇っていたのだろう。


それも獣人の孤児だ。いくら光属性を持つと言っても、貴族意識の高い自分の娘がそんな事を言うとは夢にも思わなかったのだろう。しかし同時に悲しげな顔をしていた。



「アイリーン、キャンベル家の為とは言え、お前に無理はして欲しくないのだ……」



なるほど父はどうやら王子に婚約破棄された俺が、償いの為に無理をしているのではないかと心配しているようだ。



「なにか誤解されているようですが、私は無理などしていませんよ? その子はルナと言うのですが彼女は私にとって、とても大切な存在ですから」



俺がそう言って微笑むと、父は「そうか」と言ってリーニャ視線を向ける。



「リーニャよ、お前どう思う?」


「はい、お嬢様の言う通りかと、その娘もお嬢様の事を本当の姉の様に慕っております。そもそも今回お嬢様が悪魔憑きと戦ったのは、その娘を助ける為でしたから」


「わかった、リーニャまでそう言うのであれば嘘ではないのだろう。そのルナとか言ったか、アイリーンの養女として迎い入れる事を認めよう」




父がリーニャに再度確認し、リーニャがいかに俺がルナを大切に思っているかを、説明してくれる。そしてようやくルナを養女にする件が認められた。リーニャが間違いなく成功します、と太鼓判を押してくれていたが、実際に認められるまで不安だったのでようやく一安心できた。


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