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私は死ぬ前の世界に存在した乙女ゲームにそっくりな世界に生まれ落ちた。


以前、妹が楽しそうにやっていた乙女ゲームを横目で見ながらも、途中からきゃあきゃあと姉妹二人でハマりだしたゲーム。


私は殿下が好みで、妹は義弟のクオルを気に入っていたから、二人のエンドしか知らない。

しかも私がエレンを傷付けるのはイベントで、あれは殿下のルートだ。

ゲームの中の私、ルシアがあそこで魔法を放ち、殿下がエレンを庇い、負傷する。

殿下を傷付けるつもりがなかったルシアが取り乱しているところをクオルが取り押さえる。

城へ戻った殿下の傷はそこまで重症のものではなかったが、殿下を傷付けたとしてルシアは幽閉。

本来ならば、処刑されるはずだが、心優しいエレンの願いで幽閉となる。


そして殿下とエレンが結ばれる、というエンディングだ。


だがしかし。

実際は、私が魔法を放つことを戸惑い、クオルの魔法で私は崖下へ落ちた。

ならば、エンディングはどうなるのだろうか。


そして、私を介抱しているのは誰なのか。

とは思いつつ、既に私は予想がついている。


恐らくエレンだろう。

あの心優しいヒロインのことだ。

殿下やクオルを説得して、私を介抱しているのだろう。

脇腹には薬みたいなものが塗られているのがわかる。

他にもあちこち手当てをした様子が伺える。


正義感が強くて優しいヒロイン。


よくある悪役令嬢の転生物はヒロインも転生者で逆ハールートを狙うビッチだが、このゲームのヒロインは清廉潔白。

まあ、魅力的な少女だし、ゲームなので途中までは逆ハーチックになることもあるが、飽くまでヒロインは一人の男性しか選べないし、恋を育むのもノスタルジックなものだ。


キスなど、結ばれた後でしかスチルはないのだが、それまでのしそうでしない、あのもどかしさに悶えたものだ。


こほん。


ゲームを思い出してうっとりし始めた自分が気恥ずかしくて、誰もいないのに咳払いする。

脇腹が痛い。

うむ、ただの馬鹿である。


それにしても、誰もいないのかしら。


痛む脇腹を抑えつつ、体を起こす。

くうううう!痛いっ!痛い!


また眠ってしまおうかとも思ったけれど、現実逃避より情報収集の方が大事だと、自身を叱咤し起き上がる。

立ち上がろうとしたけれど、足にも痛みが走り座り直す。

我慢すれば歩けないこともなさそうだけど、敢えて痛みを我慢する必要もないと大人しく座って考える。


ここに置いて行かれたのかしら。


この怪我で一人置いていかれたとか、私はどうすればいいんだ。


そんな不安と同時に、前世の記憶を思い出してから、以前の自分とはすっかり違う考え方になっていることに気付き、それをどう周りに説明しようか悩み始めた。


一人にされたのかという不安。

前世を思い出した自分。

殿下の想い人への殺人未遂という罪から、今後の身の振り方をどうすべきかという迷い。


そんなものを考えていたから、すぐ側まで近付いていた人物に気付かなかった。


「あの怪我で起き上がれるんだ」


びくり、と震え、顔を上げた。


「いっ…つ」


脇腹が痛む。

声を上げようとした口はそのまま痛みの唸りへと変わっていた。


「横になってなよ。致命傷は治したけど、それでもまだ大怪我なんだからさ。傷に効くお茶も用意してあげる」


銀髪の短い髪をした少年。

年は同じくらいだろうか。

濃紫の瞳は髪と瞳の色の組み合わせがとても珍しい。

羽織っていた濃紺のローブを近くの椅子にかけると、器に火を掛け始めた。


「あの、貴方は?」

「俺?まあ、旅人かな。君は貴族でしょ?なんか揉めてたみたいだね〜。崖下にいた俺のところに転がり落ちてきたんだよ」


私を貴族とわかってて、あまりの気軽さに驚く。

旅人と言ったが彼も貴族なのだろうか。


「魔法放たれたみたいだね。誰かに襲われでもした?」

「えっと、まぁ」

「あ、いいよ。詳しい話されたら面倒ごと巻き込まれそうだし。本当なら無視したかったんだけど、流石に目の前で女の子が死にそうになってたらそうもいかないし」


さらりと冷たいことを言う。

というか、この人が私を助けてくれたのか。

エレンだと思ってたから予想外だ。


「ま、護衛の人かなんかがそのうちくるでしょ。お茶でも飲んで待ってなよ。これ作ったら俺は行くからさ」

「え!?」


ここに一人で置いていかれる?

護衛なんてくるわけがないのに。


「い、いや!置いていかないで!」


縋るように私は少年の服を掴んだ。

脇腹や足が痛むのも構わずに、少し離れた彼の元まで歩いて。

驚く彼に、私も自分の行動に驚いた。


「あう、痛……」


衝動的に動いている間は我慢出来た痛みが、今更ズキズキと痛む。


「そのうち、君の身内が来るでしょ。そんな不安がらなくても。とは言ってもお嬢様がこんな小屋に一人きりはキツいのかな?」


うーん、と悩む彼に私は思ったことをそのまま口にしていた。


「貴方、旅人なんでしょう?私も連れて行って!」

「はあ?」

「お願い、お願いします。どうせ今更戻れない」


さっきまでの冷静な自分はどこに行ったのだろう。

自分は幽閉されるのだろうと茫然と考えていた。

自分の罪を思えば仕方ない。

そう思っていたはずなのに。


「お願いします……」


僅かな希望を見出した私は懇願していた。

幽閉は嫌だ、と心の底から助けを求めている。

そんな自分の浅ましさに嫌気がさしながらも怖いものは怖い。

性格は変わったが根本的な部分は変わらない。

この身勝手さ。

罪を償わなければと思いつつ、再び彼らに会うのが怖い。

両親もどう思っているのだろう。

私に仕えていた侍女たちや屋敷の者たちもどんな目で私を見るのだろう。

以前までは人の目なんて気にもしなかった私だが、前世の人の目を気にする自分が、自分のしていたことを理解した自分が、今更怯えるのだ。


溜息が一つ、頭上で落ちる。

祈るように手を組み、目をギュッと瞑って震える私に呆れていることだろう。


「面倒くさいなぁ」


ぽつりと落とされる、彼の本音。


わかってる。

絶対迷惑かけるもの。

彼を巻き込むことに罪悪感はあるが、それでも自分を優先させたい私。


「俺さ、師匠と一緒に旅してるんだよね」


諭すように、肩をポンポンと叩かれ、顔を上げる。


「師匠が許可したら、別にいいんじゃない?」


呆れつつも、笑っている彼に、一瞬目を奪われた。


「聞いてる?」

「は、はい!ありがとうございます!」

「いや、まだ決まったわけじゃないから」


苦笑する彼に、私は真剣な表情でこくりと頷く。

まずは、彼のお師匠様に許可を得なければ!




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