雨
「ハァ、ハァ、ハァ」
今思うといつから降っているのだろう。気付いたときには雨が降っていた。
そして隊長と約束した事が頭から離れないままずっと走り続けていた。
暑い夏の日に帝国がクラリス領内に進攻したため所属している師団は橋を防衛している騎士団と橋周辺を防衛している師団の援軍に向かうため東進する。そこで国内に住む戦える人民に戦時徴集し戦力の強化することにあたり部隊を指揮する士官や下士官を常備軍から引き抜き部隊を再編成することなった。
歩兵中隊の副中隊長として長年勤めてきたが、といってもまだ3年しか経っていないが。徴集された人民で編成された歩兵部隊の中隊長として任命された。副中隊長から中隊長に任命されて中尉から昇格は無かったが中隊長になれて嬉しい。だが、正規の常備軍に比べて練度の劣る彼らを率いて戦うのは大変難しいであろう。
我々常備軍は日頃から訓練を受けているが彼らは隊列を組む訓練などを受けておらず。本番でいきなりやれと言われてでき無いかもしれない。それに我々は人を殺す訓練のお陰である程度抵抗は少ないかも知れないが、いきなり徴集された人民は自分の死よりも人を殺すことを恐れて敵を殺す事ができる無いのではと思う。
所属している師団は徴集しながら東進し着々と戦力の強化が行われていた。
ずっと東進していたが海沿いの方に進路を変更して進軍することになった。
理由は敵が真っ直ぐ西進してくるのと海沿いに進軍してくる二手に別れたため。所属している師団は海岸沿いの敵を迎え撃つことになった。
コバルトと同じ規模の港を持つ都市ケロッグの郊外にて敵を迎え撃つ事となった。
ケロッグは元々どこにもある小さな漁村にだったが。一度帝国領になったクラリス時代に帝国本国領に近くて小さな港もあったため帝国との交易で栄え。ライトニング王国の交易では西のコバルト、帝国との交易には東のケロッグと呼ばれるぐらい発展した。
だが敵を迎えつ準備は出来たのだが。一向に帝国軍はやって来ない。敵は進路を変え違うところを進軍しているのではと思われたが。偵察部隊の報告によると帝国軍の進度は亀の様に遅いらしい。
「いいか、その長槍で突いたらすぐに引き抜きんだ。突いて少し時間が経ってから引き抜こうとしても突き刺さった所の肉が盛り上がって槍が抜けなくなるから注意しろ」
「はい、隊長」
隊長かなんかいいな。
「元気にやっとるか」
「あっ。隊長」
この人は元いた中隊の中隊長で上官である。右手にいろいろな色が付いたブレスレットをしている。
「見たところうまくやっておるようだ」
中隊に居た頃はこの人によく怒られた。靴をもっと磨けだの声が小さいだの。
「なんとか頑張っております、隊長」
「頑張りたまえよ」
当初予定されていた帝国軍の会戦まで時間ができたため徴集された兵士たちを訓練出来たのは良かった。
これで少しは練度も上がっただろう。徴集された者のほとんどは長槍と胸部だけで腹部は保護されない胸当
てだけの装備である。一部持参した者や都市守備隊や冒険者以外は軍から支給された貧弱な装備だけで、彼らがそれで敵と戦わなくてはならないと思うと気の毒になる。
数日が過ぎた
ざっと見たところ2万はいるな。敵は2つに部隊を分けているから1部隊あたり1万の戦力だろう。
対してこちらは3万の兵力を3部隊に分け3方向から攻めて敵を叩く作戦でいくようだ。
中央に主力の常備軍で両翼に徴集された兵士で編成された部隊が配置で自分の中隊は左翼から攻める。
うん?ここからだとよく見えないが敵後方に並んでいる大きな筒はなんだ。あんな重そうな物を引っ張って来て一体何に使うのか。
そんな事を考えながら各部隊が突撃の体制を取り合図を待つ。
皆が胸の鼓動が高まりながら、まだ突撃しないのかや死にたくないと思いながら待っていると。
全軍突撃の合図が鳴り。走り出す。
中央から魔術兵が放った上級魔法の大きな火の玉が飛んでゆき、それに続くように長槍を装備した歩兵が後に続く。両翼には魔術兵が居ないため常備軍より分けられた弓兵が射程距離に入ったら射ることになっている。弓兵による敵陣形が乱れたとこに槍兵が突撃していきさらに敵陣形の傷口が開いた所に剣を使える者や冒険者などから編成されている剣兵が突入していく。
だが、敵は常備軍でこちらより練度が高くうまくいくとは限らない。弓兵からの攻撃に素早く体制を立て直されたら逆にこちらが返り討ちに合う。だけど、敵は3方向からの攻撃に兵力を分散しなくてはならず陣形の厚みが薄いため数に物言わせて攻め続ければ突破は可能かもしれない。
上級魔法は敵陣形の前で落ちたか。
上級魔法による中央攻撃は失敗したが、皆大きな声を上げながら突撃しているため士気旺盛だ。これならいけるかもしれない。敵は槍・・・いや槍では無く棒をこちらに向けているが、なんの真似だ。まぁいいそろそろ弓兵が射程距離に入るだろう。
ドーーン
まるで雷が落ちた音が響き渡る。
ドカーン
一瞬世界が止まったみたいに足が止まる。
皆が何が起きただと思い音がした中央方向を見る。
そこには大きな穴が出来ていた。
その音の正体を探そうと最初に音がした敵後方を見ると大きな筒が煙を上げている。そう煙を上げている筒こそがこの現象を引き起こした犯人であると理解した。
「足を止めるな進め」
誰が言ったか分からないがその場だけ時が停止していたように止まっていた時間が進み出し前進を開始し始める。
弓兵が射る体制に入り射ようとしたとき。
ドーン、ドーン、ドーン
あの大きな筒が一斉に鳴り始めた
明るい空に夜空のときに輝く星のように10個以上の光球が飛ぶ。
常備軍がいる中央めがけて光球が落ちていく。
ドカーン、ドカーン、ドカーン
常備軍の陣形が煙に包まれる。
そして煙が薄くなり状況が見えてくる。
そこには地面にたくさん穴が空き。居たはずの兵士が無残な肉片に姿を変え横たわり。腕や足が無く呻き声を上げながら苦しむ兵士。
一体何なんだあの光球は。所属していた師団の精鋭の戦友たちがあんなことになるなんてありえないだろ。
それより原隊の隊長や皆は大丈夫なのか。
パン、パン、パパン、パン
さっきの雷よりは小さな音が戦場に鳴る。
両翼の一番前に居た兵士が悲鳴を上げながら倒れる。
倒れた先には帝国軍が居る。今起きていた悲惨な事に目を奪われ敵が接近していることに気がつかなかったのだ。帝国軍兵士が持っていた棒から煙が出ている。
そして大きな雄叫びを上げながら槍兵が突撃してくるではないか。
「まずい。槍を前に突き出して陣形を密にしろ」
そう言うが1番前の兵士には聞こえず。兵士たちは迫り来る恐怖に浮き足立っていて今にも武器を捨てて逃げ出しそうだ。
誰か1人が逃げ出す。そうすると我さきにと次から次へと逃げ出す。
敵が迫っているのに逃げ出せば背中から簡単に殺されるだけなのだが。
「逃げるな、戦え。」
他の指揮官が怒鳴るが。もう統制を取ることは不可能。敵からすれば格好の獲物になってしまった。
その後全部隊は壊走し退却する。この戦い戦闘では無く殺戮・・・いや虐殺であった。
ザー、ザー、ザー
自分の中隊は他の部隊や指揮下の小隊とも外れ直接指揮していた小隊40名余りと敵と追撃を振り切り退却している。
退却する時、敵に追撃され部隊はケロッグか来た道に退却する2つに分かれた。
あのままケロッグに逃げていたら最後には全滅していただろう。
なんとかここまで来たら大丈夫だろう。徴集された部下たちも疲労で体力が限界が近い。
ここで一旦休もうと言おうとしたら。
「走れー。敵が来るぞ」
後方から友軍が走ってくる。それより敵の追撃部隊が迫っている。
休めると思ったがまた走る。
どうやら逃げて来た部隊は常備軍の生き残りみたいだ。
「おぉ、生きていたか」
走りながら聞こえてくる声に覚えがあった。
「隊長、生きていたんですね」
原隊の中隊長たちは生きていた。
「まあな。それより敵が迫って来ている。このままでは敵に追いつかれる部下をもっと早く走らせろ」
皆は一生懸命生きるため走るが。常備軍の兵士に比べ徴集された兵士は長時間走ることに慣れておらず。このままでは敵に追いつかれる。どうすれば。
「我々が敵を足止めする。その間に退却しろ」
「隊長、それは」
隊長が言った言葉を瞬時に理解した。隊長は自分たちが敵を足止めするからその間に逃げろと。
「俺たち軍人が日頃から民の税金で食って生きているのに彼らを見捨てて先に逃げることはできない。だからお前は彼らを連れてなんとしても生き残れ。これは俺とお前との約束だ」
そう言い隊長は足を止め
「これより我が隊は最後の突撃を行う。ここで敵を一人でも多く倒し友軍の撤退する時間を稼ぐ。全員抜刀」
「クラリス王国のために」
「クラシス王国のために。隊長に続け」
隊長は敵に向かって走って行き。原隊の皆も敵に突撃していく。
その姿は死地に向かうにも関わらず死に対して恐れることなく立ち向かう英雄の姿だった。
脳裏にその姿を焼き付け自分は隊長との約束を守るため部下を連れて走る。
コバルトでは第6師団が到着し。港では物資の揚陸が行われていた。
避難してきた人が労働力として確保できて良かった。彼らも生きるために働かなければならない。
「雨が降ってきたか」
「おーい、シー君」
まるで神様がこの戦争で亡くなった人に悲しんでいるようだ。
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