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人造魔王ツヴェル

 荒廃した街。

 廃墟と呼ぶには大きすぎる。かつては栄華を極めたのではないかと推測されるが、今は見る影もなく朽ち果てている。

 数百年前は大陸を統一したとまでも言われた機械帝国の首都は、ある日を境に巨大なゴーストタウンと化した。


 その場所に住まうただ一つの生き物、と言っていいかは微妙ではあるが、動きを止めた旧首都でいまだ蠢くモノ。


 ヒトの手により生まれ、ヒトを愛しヒトを喰らう、異形の魔王ツヴェルである。



 世の中では、旧首都が滅亡した原因は彼方より来たる魔王により占領され、人々を虐殺し蹂躙したためだと言われている。


 確かに魔王によって滅ぼされた、しかしその魔王は侵略者でも来訪者でもなく、帝国の闇により生み出された生物兵器の成れの果てであった。


 かつての帝国では、人を人とも思わない……彼等にとって人間以外の亜人たちや奴隷たちは人ではなく家畜と同列だったのであろう……神をも畏れぬ非道な実験が繰り返されていた。


 例えば皮は美しい女性だが内部に機械が組み込まれた暗殺兵器。

 あるいは様々な魔物を継ぎ接ぎに縫い合わせた生物兵器(キメラ)

 はたまた全てを取り込み全てを飲み込む突然変異させられたスライム。

 その他数々の異形たちは帝国最大の暗部、新兵器開発室で管理、製造されてきたのだった。

 それらこそ帝国最大の武器にして大陸を統一せしめた力であった。



 しかしある一人の研究員の、何のことはない小さなミスによりそれらは瓦解する。


 それは一つの確認ミスから始まる。

 研究員が突然変異体のスライムの実験を終え、スライムに飲み込まれないよう特別処理された培養槽に戻し、培養槽を点検してから部屋を出る。その際うっかり、培養槽についた小さなひび割れを見逃してしまったのだ。

 小さなひび割れから漏れ出したスライム。

 それはじわじわと床を侵食し階下へと至り、手当たり次第に全てのものを飲み込み始めた。たまたま廊下をあるいていた研究員、強力な酸、経過観察中の生物兵器(キメラ)、開発途中の細菌、全てを取り込み続け、職員達が異変に気づいた時にはもう対処のしようのない事態になっていた。

 スライムが嫌う薬品、希少なそれを研究員の中でも権力を持つもの達はこぞって自らに塗り逃げ出した。だからと言って助かるわけでもなく、崩れ落ちる瓦礫によって押しつぶされ死んだ。

 その異形の生き物が動きを止めたのはそれから数日後。帝国の中枢部の人々を全て喰らい、辛くも生き延びた人々は街を捨て、首都に残ったのはソレだけとなった時だった。

 その姿はこの世の恐怖を煮詰めたような、様々な怪物を縫い合わせ、その中に機械がそれらと絡み合うように埋め込まれていて、そして中心には巨大な顎と共に一人の女、人格調節前の機械人形が半ば取り込まれたような形で生えていた。


 数多の生命を取り込んだそれに意識はなく、その破壊衝動は単なる本能によるものであった。しかし帝国が滅んだ後も生き続けたモノは、長い時を経て自我を手に入れたのだった。

 彼女(・・)は膨大な知識を持った。それはかつて食らった研究員達のもの。だが、他のものと触れ合わない彼女の精神は未だ幼く、未熟なものに過ぎない。

 故に彼女は知らない。彼女を討伐せしめんと時々この地を訪れる不思議なイキモノを目にした時に感じる暖かい何かの名前を。


 彼女を哀れんでくれるモノがいた。彼女を救ってくれようとしたモノがいた。一部とはいえ人間の姿も持つ彼女に名前をつけてくれたモノもいた。


 しかしツヴェルはそれらのモノを全て食べてしまった。

 そのモノたちを食べてしまう時に感じる不思議な痛みの名前をツヴェルは未だ知りえない。自らの人である部分の、目に当たるところから出る生暖かい液が何であるかも理解できない。


 哀しき魔王は今も尚旧都をさ迷い這いずる。

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