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小さな夜の夢に
真夏の白い花の咲く森の奥に
ちいさな、ちいさな泉があって
夜になると訪ねていた
真夜中の日付けが変わる頃になると
妖精が集まってくるときがある
妖精たちはみな
ほうっと淡く光りながら透き通る羽を動かして
泉の水を手で掬っては
空へ放っていた
すると、春の空が生まれて
小鳥が飛び立っていくときや
海の青が生まれて
美の女神が微笑んでいたり
花降る街の裏通りを
乙女らが笑いながら通り過ぎて行ったりもした
ある日、きれいなグリーンの光が生まれて
初夏から盛夏に移り変わるときの
雨上がりの雫になった
指先で触れてみると、それは冷たくて
夏の香りがした
どこかで蝉が鳴くような気がして
耳を澄ませているうちに
また元の森に戻っていて
月明かりが泉に映っている
妖精たちはどこかに去って
誰の気配もなかったから
泉に手を浸してみる
そっと、少しだけ
そうして取り出した手を
軽く振ってみたけれど
妖精じゃなかったから
何も素敵なものは生み出せなくて
泉には自分の平凡な顔が
森の木々とともに映り込んで
水面に揺れていただけだったから




