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白い世界

 白という単色で統一されたこの景色には、こどもたちの甲高い声がよく反射する。

 私の中にもくわんくわんと響いて。共鳴して揺れはじめていた私の輪郭が、どこかへ溶け出してしまいそう。

 

 じわじわと薄まってゆく自分の存在。

 この白い白い風景の中に私はゆらめいて消えかける。吹雪の中の視界のように、そこにあるはずのものすら見えない白い世界。その白い寒さの中を……私は探している。

 

 え?

 探しているって何を?

 

 時々自分の中にわきあがる感覚……デジャヴュのように、初めてなのに私が馴染んでいる何かを感じる。

 私の記憶のむこうがわにあったはずの何か? それともどこかで読んだ物語のワンシーン?

 

 分からない。分からない。

 けど……

 

 私は夢の中でぼんやりと白い街を歩いていた。

 全部が白い街。

 建物の壁も屋根も看板も地面も樹も空も何もかも白くて。

 ……人は?

 

 居た……

 でも白い服を着て肌の色も白くて……顔が真っ白で……のっぺらぼうみたいに。それでも夢の中の私は怖がっては居なかった。しかもその真っ白い人たちと一緒に遊んでいる。

 

 私、ちっちゃい。

 私もその人たちもみんな小さいの。まるでさっきの小学生たちみたいに……

 小学生……そういえば……じんじゃに……?

 じんじゃ。

 ………………何だっけ。

「咲季! 咲季!」

 その声で、目が覚めた。彼の顔がそこにあった。

 ……ここは?

 

 

 

 白い部屋……一瞬、自分の足元が揺らいだような気がしたけれど、すぐにそこが病室だと気付く。

「寮の管理人さんから連絡があったんだ」

「……私……なんでここに居るの?」

「咲季が倒れたのを目撃した小学生が居てね、救急車を呼んでくれたんだって」

「私……倒れた……んだ……」

「雪道にはまだ慣れていないからかもね。それに、なんか引越し疲れとかが重なったのかもしれない」

 えーっと……パン屋さんを見つけたのは覚えてる。その後に倒れたの?

「しかもさ、咲季が救急車に運ばれるとこに偶然、寮の管理人の奥さんがちょうど通りかかって。俺に連絡が来たんだよ」

「……そっか……」

「ケガとか特にはなかったみたい。地面が雪だからクッションになったんじゃないかな」

「……私、どのくらい寝ていたの?」

 白い部屋の、病室の、窓を探す。白いカーテンがかかっているけど、開けても向こうも真っ白いのかな。

 部屋の中を、外につながりそうなところを探してさ迷う私の視線。彼はその先をちゃんと追っかけて、私の欲しい言葉を答えてくれる。

「んー。数時間ってとこかな。外はもう暗いよ」

 

「幸一さん」

 ぎゅっと、彼の手を握った。とても、暖かい。

 

「特に問題はなさそうだから、意識が戻ったら帰ってもよいってよ」

 彼の手が優しく頭を撫でてくれる。安心できたからかな。ようやく、倒れたときのことを詳しく思い出してきた。

 商店街の外れ、神社につながる曲がり角。

 ……そっか。私、あそこであのまま倒れたのか。

 救急車呼んでくれた小学生にも寮の管理人の奥さんにも感謝しなきゃ。

 でも倒れるって……引っ越し程度でそんなに疲れるって。

 たくさんの恥ずかしさと理由の見つからない不安とで、白い雪の中にそのまま潜り込んでしまいたくなる。救急車呼んじゃったって事実が、すごいオオゴトに発展した気がしていて、私は心配性の母の顔を思い出してはまた更に申し訳ない気持ちになるのだった。


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