暗闇の中のもの
電気をつけることをためらう理由なんてない。そうよね?
暗いのは怖い。
でも、明るさの中に真実が映し出されてしまうことはもっと怖い。
「遺体が残らなかったって」
どうしてあの言葉が今頃浮かぶの?
心臓の鼓動が早くなる。
でもね、咲季。もしそれがおにいちゃんだったら?
私が忘れ去ってしまったせいでずっと見つけてもらえなかったおにいちゃんだとしたら?
この闇の中に、かつておにいちゃんだったものを見つけたら。もちろん、この闇の中にそれがある確信は……それどころか記憶もない。
ただどうしても、心の中がざわついているだけ。理由はわからないままで。
小さく深呼吸。
呼吸が少し楽なこの部屋でよかった。
心の中で「おにいちゃん」と呼んでみる。
私、おにいちゃんたちを探しに来たんだよ。だからおにいちゃん、咲季のこと守ってね。
携帯を前へとかざして、ライトを再び点けた。
……暗い。
って私、目を閉じちゃってるじゃない。
電池もったいないんだから、ちゃんと向き合おうよ私。
今度こそ。
私は薄目を開けながらもう一度ライトを点けた。
携帯のライトが照らす室内はそれほど広くもなかった。
そう、室内。通路とかじゃなく、小さな。
扉に対して縦長で大きさは6畳もないくらい。扉が開くのを邪魔していたのは、かつて大きな長椅子であっただろうモノだった。元長椅子のフレームは金属製で、よく見ると地面にできたくぼみに脚の一本ががっちりはまっている。
のっぺりとコンクリートのような質感の壁と天井は何もなく部屋自体はがらんとしているが、ところどころに何かが散らばっている。
埃と蜘蛛の巣とがその何か判別のつかないガラクタを、まるで雪が覆った街のように全て白く埋めつくし、もっと近づかないとそれぞれのガラクタが何であるのかはわからなさそう。
雪、みたい。
その白が、外とつながっているようにも思えてほっとする。だけど相変わらず心の底がざわついている不快感は消えないまま……なんだけれど……でも何かが、さっきまでと違う気が……ずっとしている。
私の記憶が答えを知っているのかしら。
ううん。いまはこの部屋を探そう。
あらためて、この狭い殺風景な部屋を見渡す。できることといったら「雪」に覆われたガラクタを掘り返すことくらい。
ただこの「雪」に手で直接触る気にはならない。私はつま先で、それらのガラクタを一つづつ、ころん、ころん、と転がしはじめた。
錆びてなんだかわからなくなった空き缶。
あ、こっちの缶詰は未開封だわ……どっちにしろ錆びてパッケージが分からない缶詰の中身なんて食べたくないし。
子どもが持ち込んだとおぼしきメンコの束や、いつのものか分からないマンガ雑誌。うわ。このマンガ、ちょうど開いた形でガビガビに固まってるわ。
ラジオかナニカ……けっこう生活感があるわね。
そうやって一つづつ明かされてゆくたびに、私の中の不安は春の陽射しの下の雪のように少しづつ融けてゆく。
いくつめだったろうか。そんな私の脚が急にチカラを失くした。
今まで見つけたものたちが錆や汚れの黒や茶や灰色ばかりだったのに対し、ひときわ目立つ黄色いものがころんと転がったの。
見覚え、ある。




