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階段

 暗闇の入り口。

 石造りの階段が下へと続いている。ここから中へ降りていったはず……ああそうだ。あの頃はみんな、家から懐中電灯を持ってきていたわ。

 だんだん思い出してくる。

 このペースを、思い出してゆくリズムを、壊したくはなかった。このまま先へ行きたい。明かりはないけど……待って。

 

 ……ポケットの中の携帯に気付き、取り出す。カメラ用の補助照明を点けてみる。フラッシュよりは弱いけれど、待受画面よりかは明るい。電池がどのくらいもつかはわからないけどこの明るさはなんとかなる明るさ。

 逆に言えば、迷っている時間がもったいない。

 

 扉を見る。子どもなら楽々通り抜けられるけれど、大人だとちょっとキツイかもくらいの隙間がその奥の闇を開いている。

 あの鳥居が巨人の口なら、ここはまるで喉ね。

 そうよ。

 ここ。

 ……見つけたのは確か……そう! ナオ君!

 そして、この階段を下りたところにいくつも部屋があって。

 ……えーと。かくれんぼをはじめたんだよね。それから……なんだっけ……

 かくれんぼをしたところまで思い出したのに……

 

 頭が痛い。

 このカビ臭い地下からの臭いのせい?

 子どもの頃は気付かなかったけれど不快な臭い。拒んでも侵入してくる絶対的な不安感。呼吸が自然に浅くなる。出来ることならば触れていたくない匂いだもの。

 ……この奥だったよね?

 自問する。

 そこから先を思い出すことを、自分の脳が拒んでいるようにさえ思える。

 

 なんで?

 どうしたのよ、咲季。

 なんで!

 ……ここまで来たんだから……

 …………おにいちゃんが、みんなが、待っているんだから……

 

 靖子さんの笑顔が、えりちゃんの笑顔が、ふと浮かぶ。

 靖子さん。あなたのお兄さんも見つけられるといいな。チカラを貸してね。

 

 体を少しづつ押し出してゆきながら階段に手をつく。バランスを崩さないよう前へ下へと降りながら、体を中へ誘い込む。

 なんとか全身を忍び込ませて階段に座りこみ、体を反転させる。階段をちょっと降りれば、大人も普通に立てるくらいには広くなっている……うん。覚えていた通り。

 ハンカチを取り出し、口に当てる。直接は吸いたくない空気だから。

 携帯のライトを幾度かオンにして周囲を照らす。TVドラマで見る防空壕みたいな雰囲気の造り。

 階段をおそるおそる降りてゆく。

 確かに来たことがあるわ。ここへ。

 おにいちゃんや、おにいちゃんの友達たちと一緒だった。

 降りてすぐ、右側に扉があって。

 その奥にひろばがあって。

 ちがうよ。あれはひろばじゃない、こうちょうせんせいのへやみたいだよ、って。

 ……誰かが言ったのよ。

 

 ひろば?

 そこは思い出せない。

 ……あ……私は見ていないんだ。その「ひろば」を……私はそれを耳で聞いていただけ!

 でも……なんで?

 呼吸が浅くなるせいか、頭もあまり回らなくなっている気がする。

 えーと……そうよ……奥に行くのが恐かったからよ。

 おにいちゃんたちは自分の懐中電灯を持っていたけれど、私は持っていなくって。でも置いていかれるのはいやで。泣いて戻ろうとしたっけ……

 ……んー……あれ?

 私は泣いたの?

 戻ろうとした?

 そして?

 だけど数を数えたのは覚えている。そこはハッキリと。

 数を数えたのは……私が鬼だったから、だよね?

 帰りたかったのに……鬼を、した?


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