思い出話
私は、そのまま家の話になる。
「私たちが東京から越してきた時にリフォームして……」
予想通り!
靖子さん、やっぱり東京にしばらく居たわね。だって……こっちっぽくないもの。雰囲気。
「ご主人さんとは東京で知り合ったんですよね?」
「はい。私、大学が東京だったんですけれど、そこで知り合った友達の結婚式で出逢いまして」
「あら! うちも同じです! 友達の結婚式で出逢ったってとこ!」
「あらー! おそろい!」
「こういうこともあるんですね」
靖子さん、なんだか話しやすいわ。
久々に、学生時代に戻った気分。
「付き合ったばかりの頃はまだ寿司職人だったんですよ」
「へぇー」
「で、私がパン屋の娘だって言ったらいろいろ尋ねてきて」
「それは、付き合う前? ……だったら口説きのテクニックかもぉぉ!」
「そういうことは照れて教えてくれないからどっちか分からないんですけど、確かまだ……付き合う前だったような……」
「それでそれで?!」
「彼、三人兄弟の真ん中なんですけど、お兄さんも弟さんも寿司職人修行されててね。ご実家はそんなに大きなお店じゃないから三人も職人はいらねぇだろって」
「芯から江戸っ子気質ですね」
「そうなのよ。で、もともと洋食好きだったのもあって、イタリアンに転向してピザ職人になったんですよ」
「寿司からピザって、ずいぶん……そんなに簡単には転向って出来ませんよね?」
「そうですね。最初は苦労していたみたいです。でも付き合うようになって、えりを身ごもってからは特に頑張ってくれて……」
「失礼して聞きますけど……ひょっとして、できちゃった婚?」
「……恥ずかしながら」
靖子さんの頬が桃色に染まる。幸せをおすそわけしてもらった気分。
ああ。
私、いま幸一さんにすごぉぉぉぉく逢いたい!
「いいじゃない! 愛がある証拠よ!」
私のテンションが上がったのにつられたのか、靖子さんも若干早口になっているみたい。
「もともと食材の目利きが得意だったのもあって、馴染んだ後はうまくいったみたいなんです」
「素敵な話ね」
そこで靖子さんの興奮が少しおさまったのを感じる。
「……でも、二年前」
声の大きさも高さもぐっと控えめになって。
「父が腰を痛めて入院したのをきっかけに、うちのパン屋を継いでくれるって言い出して……本当にありがたいことです」
「あら。大変なことがあったのですね」
あのパンなら都心でも充分にやっていけるだろうご主人の腕。
……ここの商店街、シャッターが閉まっているとこ多かったわ。ここでやってゆけるのかなぁ、なんて。よそ様のお家のことなのにちょっと心配になっちゃったりする。
靖子さんはといえば土間のほうをちらっと見る。そうよね。自分のお母さんには聞かれたくないわよね
「そうなんです。えりも幼稚園のお友達みんなと別れて、小学校から一人でこちらへってことで……はじめは泣いてばかりだったんですけどね……今はなんとか元気に」
そうか。だから数年前までは毎年パーティーをしていたのね。
「とてもよい子ですよね、えりちゃん」
「いえいえ。あわてんぼうで気が強くて……そのへんは彼に似たんでしょうね……」
不意に、ねじりはち巻きのいなせなえりちゃんの姿が脳裏に浮かび、思わず吹き出しそうになってしまう。確かに似合いそうなのよね。
「似てるわ……さすが親子……」
あ、私の受け答え、いまちょっと変だった。自分の中だけで話が進んじゃったわ。
あわてて二の句をつぐ。
「じゃあ、ますますホームパーティやってあげないと、ですね」




