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微かな違和感

「いいですね! やりましょう! 私たちも皆でわいわいやるの好きなんです」

 楽しいことを考えるって、心には何よりもよい薬になる。

 私の呼吸が、温かい空気に馴染んでゆく。

「くりすますっ! くりすますっ!」

 えりちゃん、よっぽど嬉しかったのか、くるくるとテーブルの周りを回っている。

 

 ……何周目かしたとき、えりちゃんが運んできた風に美味しそうな匂いが混ざっていた。香ばしいふんわりとした匂い。

 ……パン……じゃない…………お芋?

 入り口のドアがゆっくりと開き、小柄で白髪の老婦人が土鍋を手に入ってきた。

「えりちゃんや、ばーばがお芋ふかしたわよ!」

「おいもー!」

 靖子さんが土鍋を受け取りにパタパタとスリッパを鳴らす。

「こちらは母です。こちらは、あの社宅に最近越してこられた高野さん」

 優しそうな老婦人は靖子さんに土鍋を渡すと、ふんわりと会釈した。

「はじめまして。靖子の母です」

 私も慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「はじめまして。高野咲季と申します」

 その時の老婦人の目から、一瞬ふわふわが消えたような気がした。

 

 それはほんとうに一瞬のことだった。気のせいかもって思ったくらい。

 いや、本当に気のせいだったかも。私が疲れているだけかもしれない。

 

 老婦人、えりちゃんの頭をなでるとにこりと笑った。

「あらあら。お客さんがいらっしゃるなら、お芋足りないわね」

 机の上に置かれた土鍋の蓋が開けられると、演歌歌手のステージのスモークようにわーっと湯気が広がってゆく。中からしっとりと飴色に輝くサツマイモが……

「えりちゃん、ばーばはもっとお芋ふかしてくるからそのお手伝いしてくれないかしら?」

「おばあちゃんのおてつだい、するー!」

 えりちゃんは両手をあげてぴょんぴょんとジャンプする。そして「ぱーてぃ!」と小さな声でつぶやくと、くふふっと笑いながら土間へと駆け出していった。

 

「お客さんだからって気を利かせて、えりのこと面倒みてくれたんだわ」

 ここの家の人たちはみんな、心地よい気配りをしてくれる。私はこのぬくもりの中ですっかり温まっていた。

 でも。

 ことあるごとに「ぬくもり」とか「やさしさ」とかそういうものを確認している自分自身に対し、ちょっとだけざわついた嫌悪の感情も抱えているのも事実。私は何でこんなに「安心」を求めようとしているのか。

 ……考えたくない……だけど考えちゃうことからは逃れられない。考えるのすらも恐いナニカが、私に近づいてきて居るみたいに感じる寒気。それはどんなに温まっても逃れられない凍え。

 えりちゃんや靖子さんたちと一緒に居るから、平静を保っていられるのかもしれない。

 ……あーあ。外に、あの真っ白い雪の中には戻りたくないな……

 ?

 違う。

 いま、雪にほっとした。

 私、雪の白に……ほっとした?

 

「あっちの土間で、お店とうちと母たちの家がつながっているんです」

 えりちゃんと老婦人が土間の向こうに消えたあと、靖子さんが説明してくれる。

「二世帯! いいですね!」

 東京に居るお母さんたちのことを思い出す。

 心配性のお母さん。興味がないフリしながら何度も私に同じことたずねるお父さん。二世帯だと幸一さんが居心地悪いだろうけど、でも、できるならば近くに住んであげたいなってのはある。

 こうやって子どもの面倒見てもらえるってのもやっぱりいいなって思うし。


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