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「で、ここでこの公式を使うの」
「なるほど⋯」
私が時々一人で利用するお気に入りの喫茶店。その片隅の席で、周と勉強会をしていた。周は真剣な顔をして私の説明を聞いている。周のノートは、綺麗にまとめられている。
「意外と綺麗な字を書くのね」
「意外は余計⋯解けた」
周は嬉しそうに私を見る。少しあどけない表情で、またもや私の心臓はうるさく鳴っている。
「やっぱり頭良いんだな、大学どこ行くの?」
「⋯国立の医大目指してる。両親とも医者だったの、亡くなったけど」
「⋯そうか、悪かったな」
周は少しバツが悪そうな顔をする。
「ううん、大丈夫。そうだ、ここのコーヒーめちゃ美味しいんだよ」
無理に笑顔を作って話題を変える。
「また下手くそ」
周がまっすぐ私を見て言う。初めて会った時もこのまっすぐな瞳だった。
⋯ああ、私はこの瞳に惹かれだんだ。
「花菜のこと教えて、今までの事とか」
周が優しい笑顔で話す。私は少しずつ話し始めた。幼い頃母が病気で亡くなったこと、父と九州の無医村で暮らしていたこと、父が亡くなってからは叔父の家で生活していること。
「そっか、頑張ってるんだな」
周は大きな手で、私の頭を優しく撫でてくれた。それだけで涙が溢れる。
「やだ、ごめん」
「大丈夫」
「⋯周、お父さんみたい」
「ちょっと待て、俺は20代だ」
「おじさんじゃん」
私は泣き笑いで周を見た。周は今まで見た中で一番優しい顔をしている。
「私も、周の事、知りたい」
私はまっすぐ周を見て話した。
「良い話なんて無いぞ。⋯シングルのお袋がいて、俺はまともに学校にも行かなかくって、そんな俺をお袋が今の棟梁の所に無理やり連れて行ってな⋯」
周の話を聞きながら、私は胸がほんわか温かくなるのを感じた。




