第14話:最終ラウンド:棒術決闘
数世紀前、〈闇の時代〉が始まる前に、人間には二つの種族が存在することが発見された。
ひとつは、生まれながらにして奇妙な力を持ち、その力は十歳を迎えた時に目覚める〈異能者〉。
もうひとつは、まったく普通の人間であり、他の人々と同じように暮らしていたが、その数の少なさから〈孤立者〉あるいは〈忌み子〉と呼ばれていた。
時の流れとともに、さまざまな系統の力が現れ、それらは十の氏族に分類された。
月の一族(最初にして最も偉大な一族)。
闇の一族。
血の一族。
蝶の一族。
植物の一族。
雪の一族。
火の一族。
水の一族。
風の一族。
岩の一族。
それぞれの氏族には強力な長が存在し、彼らは〈十人の族長〉として知られていた。
だが、その均衡は〈灰の子らの惨禍〉によって崩れ去った。
それは〈影時〉――〈影の時代〉において布かれた〈追放の掟〉によるものであり、一部の氏族を滅ぼすことを目的としていた。
だが誰も知らなかった。
その掟は〈カゲモリ〉の仕業ではなく、さらに強大で深淵なる闇の力によって生み出されたものであったことを――。
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このラウンドは、これまでとはまったく異なるものだった。
協力でもなければ挑戦でもない。
生徒同士が真正面からぶつかり合う、一対一の対決。
その中で、多くの出来事が起こった。
まず、マリー・スミスは敗退となった。
彼女は戦闘中に爪を出してしまい、それが不正行為と判断されたのだ。
一方で、カミカ・キラスは自ら棄権した。
敗北したわけではない。
ただ、カゲモリの誰かからこう告げられたのだ。
――目立つな。
――影の中で動け。
任務を終えた後は、誰にも記憶されない存在でいるべきだと。
だからこそ彼女は勝者になることを望まなかった。
カゲモリが彼女を表舞台から遠ざける判断をしたのも、結局は組織自身の利益のためだった。
ヒナ・サクライもまた敗れた。
準決勝目前まで勝ち進んだものの、立ちはだかったのは黄金星評議会の一員――ハルマ・カイト。
彼の前に力尽きた。
リン・シリガミも同様だった。
試合中に棒を落としてしまい、ルール上敗北が確定した。
そして他にも、多くの生徒たちが圧倒的な実力差の前に敗れ去っていった。
現在、巨大スクリーンに映し出されているのは四人。
そのうち三人だけが表彰台へ上がれる。
そして一人だけが頂点へ辿り着く。
キキョウ・クロハナ。
ハルマ・カイト。
ノブヒト・タケ。
フブキ・コリヤマ。
――。
今、闘技場で繰り広げられている光景は、誰もが想像を超えるものだった。
氷の一族と岩の一族。
二人の激突。
どちらも強い。
どちらも優秀だ。
そして、どちらも勇敢だった。
フブキ・コリヤマは、ノブヒト・タケにとって最高の好敵手だった。
木刀同士がぶつかり合うたび、鋭く重い衝突音が闘技場に響き渡る。
勝利への執念が、その一撃一撃に込められていた。
その熱気と迫力が、観客たちを釘付けにしていた。
ノブヒトはその勢いを利用した。
フブキの意識が一瞬逸れた瞬間。
包帯で固定された負傷した足が滑った瞬間。
彼は容赦なく攻撃を叩き込んだ。
だが、フブキは倒れても諦めなかった。
木刀は折れていない。
そして何より――心も折れていない。
彼の脳裏によぎったのは、ヒナ・サクライの言葉だった。
――あなたには頭脳がある。
――それだけで十分、強さの証明になる。
そうだ。
彼はそれを信じていた。
力だけが強さではない。
筋肉だけで人は強くなれない。
だからこそ、自分の頭を使う。
それが彼の戦い方だった。
対するノブヒトは正反対。
短気で、豪快で、そして頑固。
だが、その攻撃は決して無秩序ではなかった。
祖父から教え込まれた戦闘術。
戦士が守りを疎かにしやすい場所。
肩。
太腿。
そうした隙を正確に狙う技術。
だからこそ、この戦いは激しさを増していった。
木刀を振るう速度が上がるたびに衝突音も大きくなり、
観客席の熱狂もさらに高まっていく。
――攪乱。
フブキの頭の中にあった作戦はそれだけだった。
勝ちたいなら。
相手に隙を作らせるしかない。
負傷した足から体重を移し、
無事な足で踏み込む。
今度は木刀を狙わない。
両足をしっかり地面に固定し、
荒く乱れた呼吸を整える。
そして――振り抜いた。
誰にも見えないほど速い一撃。
ノブヒトの死角を突く攻撃だった。
鈍い衝撃。
激痛にノブヒトは息を呑む。
目を赤く染めながらも、木刀だけは絶対に手放さない。
しかし、その瞬間。
フブキは勝負を決めにいった。
全力。
ありったけの力を込めた最後の一撃。
木刀が宙を舞った。
ノブヒトの手から離れて。
勝負ありだった。
ノブヒトは深く息を吐いた。
胸を満たすのは悔しさ。
それでも彼は受け入れていた。
完敗だったかもしれない。
だが、それでもここまで辿り着いた。
ベスト4目前まで。
そして何より、正々堂々と戦い抜いた。
その時だった。
地面に座り込む彼の前に影が差す。
顔を上げると、
そこには誇らしげに微笑むフブキの姿があった。
フブキが勝者に相応しくないなどと、
そんなことは絶対に言えなかった。
彼は知恵を使った。
努力した。
勝利を掴み取った。
フブキが差し出した手には、
敵意も憎しみもなかった。
あるのは敬意と誇りだけ。
ノブヒトはその手を掴み、
力強く握り返した。
このラウンドは親友同士を敵にした。
だが、どんな状況でも友は友だ。
互いの実力を認め合い、
互いを誇りに思う。
二人の間に憎しみなど存在しなかった。
「正々堂々だったよ、ノブヒト」
フブキは誇らしげに笑った。
握られた手から伝わる温もり。
それに応えるように、ノブヒトも笑みを浮かべる。
「お前もな。頭を使うのが本当に上手かった」
その瞬間、
観客席から大きな拍手が巻き起こった。
フブキへの祝福。
そして同時に、ノブヒトへの称賛。
確かに彼は敗者だった。
だが、人々の尊敬と喝采を勝ち取ったのもまた事実だった。
教師たちでさえ、その健闘を称えていた。
そして次なる試合。
準決勝。
対戦カードは――
キキョウ・クロハナ VS フブキ・コリヤマ。
誰もが息を呑みながら、その戦いの始まりを待っていた。




