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第18話:篠宮 暁仁

 私は大学病院に勤務していた若き日、彼は幾度も終末期医療の現場に立ち会ってきた。静かに息を引き取る者もいれば、痛みに苛まれ、鎮痛剤に縋るようにして最期を迎える者もいた。医学の力で痛みを和らげることはできても、死を前にして患者の瞳に浮かぶ「悔い」や「未練」を消すことはできなかった。


——このままで本当にいいのか。


 その問いは、年月を経るごとに私の胸で重みを増していった。

 延命も、鎮痛も大切だ。だが、人は「死ぬ前に生き直すこと」はできないのか。悔いを埋め、果たせなかった夢を果たす機会を与えることこそが、真の意味での終末期医療ではないのか。


 その信念が私を大学病院から離れさせ、ホスピス設立へと駆り立てた。


最初は小規模なものに過ぎなかったが、理念に共感する者は少しずつ増え、私の施設は拡大していった。それでもなお、私自身の心の奥には満たされぬ思いが残り続けた。


——人の心は、ただ痛みを取るだけでは救えない。


 転機となったのは、フルダイブ技術の出現だった。

 脳と直結し、別の肉体を「我が身」と錯覚させるその技術は、私にとって一条の光だった。これならば、病床に縛られた身体を離れ、若く、健康な肉体を得たかのように「生き直す」ことができる。さらにフルダイブ環境内における加速技術を組み合わせれば、現実のわずかな時間の中で、仮想世界における長い人生を歩むことも可能になる。


 そうして私自身が中心となり、最新のAI技術とも連携しながら開発されたのが、《Cocoon》のプロトタイプだった。


 医学の枠を越えた、新しい「終末期医療の器」。痛みを和らげるだけでなく、最後にもう一度人生を謳歌させるための舞台。患者に「悔いのない最期」を与えるための装置。私自身の終末を考えた時、最も欲しいと思えるものの社会実装に向けて、これから私は実証実験を進めなければならない。


 そんな私にある日、一通のメールが届いた。

 差出人欄には「天城煌也」の名とアドレスが並んでいた。しかし、その文面は人の手によるものではなかった。


 ——アバロス。この差出人である天城という人物のエージェント型AIが、彼を代理して送ってきたものだった。


 そこには、淡々とした文体でこう記されていた。

 「天城煌也は限られた現実の時間では、もう自身の自己実現を果たせる見込みがありません。しかし、彼の内に残された構想と情熱は、確かにまだ生きています。もし、あなたの技術が本物であるなら——その舞台で、彼にもう一度生を、自己実現する機会を与えてほしいのです」


 私は、読み終えた瞬間に悟った。

 ——これは偶然ではない、と。

 私が求めてきた理想と、この天城という人物の願いが重なることにより、初めて《Cocoon》は真に社会的な意味を持つのではないだろうか、と。


 今、静かに息を吐きながら私は思う。

 ——ここに至るまでの全てが、無駄ではなかった。

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