第8話:バグの洗礼
正式ビルドの公開から二日後、メール通知が立て続けに届いた。
件名には「重大な不具合報告」の文字。
内容を読むと、ゲーム終盤の特定条件下でセーブデータが破損し、再開不能になるという致命的なバグだった。
「……マジか」
思わず声が漏れる。
中原がすぐに報告内容を読み込み、「再現手順が載ってる。急いで確認しよう」と椅子を引いた。
三谷は再現環境を作り、北条は影響範囲の洗い出しに取りかかる。
美咲はSNSと公式サイトに「不具合発生中」の告知を出し、島崎はユーザーの問い合わせ対応を開始した。
オレは実際にプレイして再現を試みる。
予想通り、条件を満たすと画面が暗転し、そのまま復帰しない。
(セーブ処理が競合してる……)
「コウくん、フラグの初期化順を見直してください」
アバロスの低い声が耳に届く。
(……なるほど)
コードを確認すると、確かに複数の非同期処理が同時にセーブ領域へアクセスしていた。
修正パッチを組み、全員で検証を繰り返す。
午前零時を回っても、開発室の灯りは消えなかった。
「よし、再現しない」
中原の声に、張り詰めた空気が一気に緩む。
翌朝、パッチを配信し、公式サイトとSNSで対応完了を告知。
SNSのタイムラインには、
「対応早すぎ」
「ちゃんと直してくれるのありがたい」
というコメントが並んだ。
モニターを見つめながら、オレはふと思った。
――人が作るからこそ、こういうミスも起きる。
だが、人が作るからこそ、こうして乗り越えられる。
それは、どんなAI生成の完璧なコードにもない、人間だけの力だ。