91話 真実と朝ごはん
「お待ちください、剣聖様!」
そう言われているが、私は構わず進んでいく。実力行使にでるならでたらいい、ただそんな生ぬるいものでは、私は止まらない。
誰か止めてと懇願する声、だがそれは一方通行で終わる。誰も行動に移そうなんてことは思わず、ただ傍観しているだけであった。
「ここか」
私が足を止めたのは、取り調べ室と書かれたドアの前だ。ドアの前には、二人の警備がこちらを見ている。
「ここに用があるんだ、入らせてもらうよ」
「それは、剣聖様でお通しはできません」
右側にいた男が、やんわりと静止させようと声をかけてくる。
そんなことに目もくれず、私は一歩踏み出した。
「……」
左側の男は、魔法を放とうとしていたが直前で辞めた。魔法を打ち消したからだ。
超至近距離からの砲撃魔法を撃とうとした割には、魔力量が圧倒的に少ないという致命的な魔術師だ。
「相手を選ぶんだな」
私は、ドアを開けた。
ドアを開けるとそこには、イデリアと私の捕まえた男が座っていた。
イデリアは、振り向くことはなく黙ったままだ。
その代わり男の方は、私の顔を見るなりにこやかな笑顔とともに手を少しあげて振ってくる。
なんとも余裕な表情を浮かべているのが、鼻に付く。
「何しにきたの? めんどくさいからって、あの場から離れたのにどうして戻ってきたの?」
私の顔を見ることなく、イデリアは言ってきた。
「その男に確かめたいことがあったんだよ」
「確かめたいことって?」
「お前たちがなぜ、あそこまでの魔力の攻撃ができたか知りたいんだよ」
男は、再び笑みを浮かべる。その笑みは、興味を持ってくれて嬉しいといった表情なのだろうか? そんな感じが頭に過ぎる。
「イデリアに匹敵しそうな勢い、あれはどうやったんだ?」
私はシンプルに質問をした。変な風になるより、シンプルの方が、よっぽど簡単に解釈できて楽だからだ。
「そのことかい。あれは、色々な感情をごちゃ混ぜにしてそれをぶつけただけだ」
「嘘つけ、あれはどう考えても命、髪、魔力の安全を度外視した魔法だったはずだ」
男からは、笑顔が消えることはない。ただ、私の言葉を頷いて聴いていた。
「なんだそこまでわかっていたのか、あぁあれは、あと先のことを全て度外視し、生まれたものさ」
「そんなことをしたら、あなたたちの体が持つはずがないわ!」
イデリアが割って入る形で、話に加わってきた。その発言は、私も似たようなことを言おうとしていたので、考えていることは似てるんだなと思った。
イデリアは立ち上がり、机を叩く。
「レヴェル! あなたはそんな子ではなかったはずでしょ」
「先輩、人っていうのは簡単に変わるものなんですよ、先輩を殺すにはこれしかなかったです」
イデリアは、何も言えなくなっていた。それもそうだろうと私は思う。お互いに慕いあっていたはずなのに、いつの間にか亀裂は決定的となり崩壊させる。
「剣聖様、聞きたいことはそれだけですか?」
「あと一つ、本当の黒幕はどこに居る?」
取り調べ室は、凍り付いたかのように時間が進むのが突然止まったような感じになった。
最初に口を開いたのは、レヴェルの方だ。
「何バカなことを言っているんだい? そんなことがあるはずなかろう」
ただその言葉は、少し震えて聞こえていた。
「ここに来る途中、殺し屋と思われる人物と出くわしたんだよ。ソイツらの目的は分からんが、狙いはお前だろう」
レヴェルは、黙ったまま下を向いた。イデリアはピンときているようだ。
「でもそんな奴、普通はアリアを狙われないよね?」
「私が存在に気が付いて、その瞬間に襲ってきた」
「なぜ、ソイツが俺を襲うと思った?」
「奴は雇われた殺し屋だった、まだ任務が遂行できていないみたいなこと言っていたからね」
私は、起こったことをそのまま伝える。二人はまだ半信半疑みたいな所はあったけれど、一様は信じてもらえただろうと自分勝手に思うことにした。
それからは、特に意味もない会話が続いただけだった。そうして支部を出る頃には、辺りはだんだんと明るくなり始めていた。
「今日は、徹夜しちゃったな」
後悔と反省の感情が入り混じったような声がでた。私はそんなことを思いながら、仲間の元に戻る。
部屋に戻ると特に変わった様子はなく、二人ともまだ眠っていた。
私も、疲れ切った体を少しでも癒すためにベッドに潜る。そのまま私は、眠ってしまった。
「きて……きて……起きて!」
体を揺すりながら、声をかけてくるので重たい瞼が少し上がる。
覗き込むように起こすのは、耳の生えた女の子。それはナズナである。
「あ、おはよう」
私は、声を振り絞るように言った。それに伴って、返事が返ってくる。
「アリアおはよう! 早く朝ごはんを食べに行こうよ!」
ナズナはいつもと変わらない、元気いっぱいで話しかけてきていた。
それにホッとしたのか、また眠ってしまいそうになる。
「おい起きろ、朝ごはんに行くぞ!」
今度はフェクトが体を揺さぶって起こしてくる。
「あと六時間、寝かせて」
「アリアが夜中に抜け出すのが悪いんだろ、早く行くぞ」
布団を剥ぎ取られ、私は渋々起きたのだった。そしてなぜか、フェクトに出て行ったことバレてると、その数分後気がついた。
「朝ごはん、朝ごはん、何をたべようかな〜」
リズムカルに歌いながら、ナズナは街中を歩いていた。私は、完全に顔が死んだ状態で歩いているのが、激写された。
もちろん気がついていたが、そんなことを言う気にもなれないため、完全にスルーした。
「あら誰かと思えばアリアたちじゃないの! おはよう」
最初誰だか気が付かなかったが、顔を見て思い出した。
「イデリアあんたも元気だね、私より寝てないはずなのに」
「そりゃね、これぐらいのこと普通だしね。朝ごはん一緒に行かない?」
「え、行きたい! どこに行くの、早く行こう」
ナズナは、完全にイデリアに懐いていおり、断りきれず、私たちも着いていくことになったのだった。




