92話 一見さんお断りのバイキング
私たちは、朝ごはんを食べにバイキングを専門とするお店に来ていた。
それを選んだのは、イデリアだ。イデリアは、ここに何度か来たことがあるらしく、慣れた様子なのが窺える。
「ここって高いんじゃないの?」
私は、内装、食事の種類、クオリティを見て思わず口に出てしまった。そして極め付きは、ここは一見さんお断りの会員施設であることだ。
今回、イデリアの紹介と私が剣聖であることで入ることを許されたお店なのである。
「何言ってんの? アリア、会ったばかりの子に金貨五百枚の箒を無償で渡せるくせに」
「なんで知ってんのよ」
「いや、あんな大々的に新聞に載ってたら、誰でも気がつくだろ」
フェクトにそう言われて私は、何も言い返せなくなった。そんなことをしていると待ちかねたのか、ナズナの頬が大きく膨らんでいる。
「あ! ごめんナズナ、ご飯を取りに行こうね」
そう言ってその場から逃げる私。なんとも視線が痛く、胃がキリキリしてくるのだった。
「さっきは災難だったね、ご飯でも食べて元気だそう!」
ナズナは、二人から程よく離れたタイミングで、そう言ってくれた。
「ナズナ、ありがとう! 何食べる?」
ナズナの頭をなぜると、とても可愛らしく気持ちよさそうにしている。それを見ているだけで、先ほどまで痛かった胃が嘘みたいに回復した。
後は食事選びだ。朝から豊富な種類に、悩んでしまう。
「どれも美味しそう。夜中、殺し屋と死合ってから余計お腹空いてるんだよね」
「私も、昨日の怪我を直すために随分と寝てたから、お腹空いてる」
そう言って私たちは、目の前の豪華絢爛の食事たちに、心奪われるのであった。
「随分と長いこと時間が掛かったわね」
イデリアは、少し怪訝な顔で言う。
「確かに時間が掛かったわね、それはごめんなさい。二人も取ってきて」
何を話していたかは知らないが、どこか打ち解けた様子の後ろ姿を見送りながら、私はご飯に目線を落としたのであった。
「アリア、美味しいね!」
ナズナは、満面の笑みを浮かべながら言う。よっぽど美味しかったのか、いつもよりテンションが高いと思う。それもそのはずかもしれない。ナズナは、昨日の戦闘でだいぶ大怪我をおっていた。
そのため、いつ起きるか全くわからないところを彷徨っていたようなものだ。
それだけ、ナズナが体験したことは大きいものだった。
「ナズナ、昨日は本当にごくろうだったわ」
「全然大丈夫だよ、あの人のおかげで戦い方が見えた気がするし!」
「戦い方?」
私はわからず聞き返してしまった。
「民間人を守りながら戦う方法だよ!」
ナズナは自信たっぷりに言う。
「それはいいことだね、今度の組み手はそれを含めてやってみるのはアリだね」
「それほんと、私早くやりたい!」
そんなことをしていると、二人が戻ってきた。二人も初めて会った時に比べたらだいぶ仲良くなっている。
王都にいる間、私たちは一緒にいることが多かった、それも相まって二人もだんだんと打ち解けていたが、今見るとより打ち解けている感じがあった。
「二人ともおかえり!」
「ただいま、ここのパンが絶品らしくてよ、ちょー楽しみだよ」
大好物を前に、魔神としての威厳なんて一切ないように見えた。
「アリアはこの国にいつまで滞在するの?」
「まだ決めてはいないけど、近いうちには出る予定だよ」
「そうなんだ、そしたらまだ一緒に居られるね」
「何言ってんだ、イデリアは仕事だろ? 私たちは近くにあるダンジョンに潜ろうと思ってるし」
ダンジョンとして、耳がビクッと張り立つナズナ。とても目をキラキラさせながらこっちに視線を送ってくる。
それとは対照的なのは、フェクトだ。お前はアホだとでも言いたげな表情で私を見てくる。
「フェクト、何か文句あるの? 喧嘩なら買ってあげるよ」
「そうじゃねぇよ、バカヤロウ……」
「主人にバカヤロウだってフェクト! ご飯を食べ終わったら、ぶん殴ってやる」
私は、美味しい食事を頬張りつつ、フェクトに睨みつけていた。
そうして賑やかな食事も終わりを告げる。会計を済まして、寂しくなったサイフ袋を眺めながらため息がでる。
そして宣言通りフェクトを殴り、私たちはイデリアと別れた。
「アリアアリア! いつダンジョンに行くの? 今すぐ行こうよ!」
「ちょっと落ち着きなさいナズナ、落ち着きのない子には、ダンジョンには連れて行かないわよ」
そう言うと、ナズナはさっきまでが嘘のように静かになった。
「アリア、そんなことよりなんであんなことを言ったんだよ」
「あんなこと?」
私が首を傾げていると。フェクトはため息まじりの声で話し出していた。
「イデリアのことだよ、せっかく久しぶりに会ったのにあんなこと言わなくてもいいだろ?」
「別に大丈夫だよ、気にしてない気にしてない」
頭を殴られたのは言うまでもない。ナズナはそれを見て、怒っていたがすぐに宥めて喧嘩にはならなかった。
「ギルドに行ってみようか? ここに来てまだ入ったことなかったからな」
「クエストを受けないと、お金ないもんな」
フェクトは嫌味を言うかのように、言ってくる。私はそれを心の中では怒りつつも実際はスルーした。
ギルドの近くを通ると、外に聞こえるぐらいの声で叫んでいる。
昨日とは、大違いだ。そう思っていると、ギルドのドアを突き破り大柄の男が吹き飛んだのだ。
「え、何事!?」
思わず声が出てしまう。驚いた様子ではあるが、大柄の男に私は駆け寄ったのだ。
「大丈夫ですか、どこ痛む所とかありませんか?」
しゃがみ込み声を掛けるが、気絶してしまっている。
「フェクトは、私と一緒に。ナズナは、犯人だと思われる人物を探して!」
二人に指示して、私はまた視線を落とす。
「ポーション出してくれる?」
「もう準備できてるから、これを使え」
ポーションを直接掛ける。見た感じ効いているのが分かる。私はフェクトにここは任せ、ギルド内に入るのだった。




