87話 魔術師殺し登場
……
剣聖が星を眺めている時、魔法界の仮支部地点にいたイデリア。
次々と報告が飛んでくるのを捌いていた。
「あの二人とも、少しは手加減というのを覚えてほしいわ」
思わずそんな言葉を吐き捨てる。報告に上がるのは大体、フェクトとナズナのことだからだ。
その報告のほとんどが、ダークウィッチーズの構成員に対する、討伐報告ばかりだ。
魔法界の支部構成員だけでは、後手に回るばかりで生け取りが未だに出来ていない。
そして何より、イデリアにはこれ以上に頭を抱えることがあった。
そんななか、慌てた様子で入ってくる支部員。息を切らし、肩で呼吸をする始末だ。
「ご報告します。剣聖様も討伐を開始されました! このままでは、生け取りができません!」
「やはりですか、ご報告ありがとうございます」
私は、心の中でため息がでる。部下のいる前で、やるわけにもいかず癖になってしまっていた。
「イデリア様、ラースル様がお見えになったそうです」
ここで一番会いたくない人だ。
「通してください」
そういい終わるやいなや、すぐさま扉が開く。
「イデリア、元気にやってるかい?」
「エルフ族のあなたが、なんのようですか? 今、忙しいのですが」
早く帰れって思うが、それが簡単に実っていたらこんなことは思わない。
「いやね、たまたま偶然通りがかってよ、会いたくなって来たんだよ」
「嘘つけ! 先ほどまでグータラ寝ていたくせに、用がないのなら帰ってください」
「私の部下を連れてきたんだけどな」
ありがたいのは、嘘ではない。ただ、このままでアリアと会ってしまう。
それが何よりの、胃痛案件になりそうだ。
ラースル隊は、とてつもなく魔法戦線においても相当な実力者だ。それも相まって、鼻について仕方がない連中の集まりだ。
それは、アリアをぶつけたらどうなる想像ができる。
「ありがたいお話なのですが、お断りさせていただきま」
断りを入れようとした瞬間の出来事だった。突然、エルフ族の一人が屋根を突き破り落ちてきた。
……
「ねぇ、イデリア。コイツら何?」
「落ち着いてアリア。話せば分かるから」
イデリアは、大量の汗を掻きながらなんとか場を収めようとしているのがわかる。
それでもやったら行けないことがある。
「私のフェクトを、攻撃させるなんてどういうこと?」
「え、待ってどういこと? 私何も知らないんだけど」
「質問を質問で返すな、さっさと答えろ。私がエルフ族を殺しにいって、お前を殺す」
それに割って入ったのは、黙って聞いていたエルフ族の男だった。
「聞き捨てならないな、それに今の剣聖はここまで血の気の多いやつなのか」
次の瞬間、剣と魔法がぶつかる。ただ、それで済めば良かったのだが状況は、悪い方へと行きたがるものだ。
男は、尻餅をついて命乞いをする始末。
「俺の部下が悪かった、なのでこれ以上はやめてほしい」
「イデリア、こんなことしている暇があると思ってんの? 今優先すべきは、国の方でしょう」
イデリアは、何も言えそうにない顔をしている。それが正解だとわかっているからだろう。
だが、ここでコイツと揉めるべきではないのだろう。でも、それを私がぶち壊したということか。
私は、合っているか分からない答えに無理やり結論をつけた。
「流石に血が登っていた。先ほどの言葉謝罪する。申し訳なかった」
「私も悪かったわ、エルフ族の皆様にちゃんと伝えておくべきだったわ」
そんなときだった。ナズナの気配が弱まりかけていることに気がついた。
そしてその周りには、魔法界の支部員と思われる気配も感じ取れた。
「イデリア私行くわ、あなたもごめんなさい」
私はそう言い残して、その場を後にした。完全に、この展開は予測していなかった。
わざわざエルフ族がでしゃばってくるような事案じゃないとたかを括っていた。
それが裏目にでた。私の失態だ、そう心の中で反省する。
そして、何より気になったことがある。それは、ナズナだ。
ナズナがそう簡単に倒れるわけがないのだ。それなのに、ここまで気配が弱っているのは、よっぽどのことがあったからだ。
そう思ったら、あの時すぐに足が動いていた。
「ナズナ! 大丈夫か」
屋根から屋根へと移動していき、開けた大通りに出る。そこにナズナは倒れかけていた。近くには、魔法界の連中も怪我をしている状態で居る。
ナズナの奥には、大柄な男がナズナに視線を向けていた。
「アリアごめん、この子たちを守って」
「しっかりしろ」
なんとか、倒れ込む前に抱え込んだが息をするのがやっとのほどだ。
「貴様は誰だ?」
大柄の男が、私に向けて話しかけてくる。並大抵の魔法使いでないのは、気配を見れば分かる。
「剣聖だよ、お前がこれの黒幕か?」
「俺の命もここまでだな。まぁ、そんなのはどうでもいい。俺のは、デースだ」
その名前はどこかで見たことがある、そう確信した。
「お前もしかして、賞金首か?」
「ご名答、魔術師殺しっていう二つ名もあるみたいだな」
魔術師殺し、十年ほど前に頻発した事件だ。被害者は全員魔法界の魔術師ばかりだった。
それの容疑者として上がったのは、以前から魔術師を毛嫌いし、反魔術師派を設立させた男だった。それが目の前にいるコイツなのだろう。
そして疑問に思っていたことがようやく解けたと思った。なぜナズナが、あんな行動に出たのか。
「ナズナは、そこで見ている魔術師を守っていたというわけか」
「あぁ、必死になって守っていたさ。嬉々として、攻撃を受けていたようにも見えたがな」
私は、腰にかけていた剣を抜きそして構えた。
「どっからでもかかって来い! 覚悟は決まってるいだろ」
私は、そう言いながら不適な笑みを浮かべていた。心の衝動が抑えられない、テンションの昂りを感じる。
「剣聖も獣人の娘同様大概だな」
魔術師殺しは、呆れた顔をしつつもどこか私と同じく不適な笑みを浮かべるのだった。




