88話 黒幕
二人はお互いに見合ったままで、動こうとはしなかった。お互いがわかっているからだ、下手に動くとこの勝負は一気に終わってしまうからだ。
「随分と慎重に動くんだね」
「相手が剣聖じゃなかったら、速攻攻めるけどな」
よく言うわ、私はそう言いかけたのをグッと押し殺した。魔術師殺しの戦闘スタイルは、楽しんで殺すタイプだ。
段々と痛めつけて行き、助けを呼んだとしても、駆けつけた援軍までも殺す男だ。
魔法界としては、厄介極まりないやつだと思っていると師匠も言っていた。
「考えてみたらそうか、私相手に勝てる戦法なんて持ち合わせてないもんね」
「まぁ、そうだな。でもよ、お前だって守もるのがあるだろ」
魔術師殺しを中心に、地面が毒々しいというか毒の魔法が発動する。
「へぇーこれで、じっくりと殺すんだ」
第三者から見れば今の光景は、完全に興味津々の子供のように見えるであろう。
それが気に食わない様子なのが、私から見れば丸わかりだ。
「顔、怖いわよ」
「その自信、ボロボロに折ってやる! ポイズン・ランス」
地面に生成した毒を、槍状に形状変化させたか。それを避ければ、後にいる魔術師に当てるって戦法だと推測できる。
「そんなあまちゃんの攻撃、子供見たいだね」
私は、手を叩く。
「魔法使いの魔法だぞ!? 貴様なんかが、相殺できるはずがなかろう!」
「現にできてるわよ。残念だったね、さっさと捕まることだね」
ふざけんな、そんな顔で私を見るがそんなことをしても意味がないのすらわからないなんて、なんとも可哀想な人だ。
「あなたが挑んで勝てる相手じゃないのよ」
魔術師殺しを斬り伏せた。突然のことで何が起こっているのかわからない様子だ。
その顔を嘲笑うかのように、彼に見せた。なんとも悔しそうな顔をしている。
そして、絶望した顔だ。これから、自分がどうなる運命なのか、考えてしまったのだろう。
「最初から負け戦だとわかっていた癖に、お前が選んだ選択肢だ。受け入れるんだな」
「……」
直後、もう気絶していることを知った。
(イデリア、おそらく今回の主犯格捕まえたよ、死なないうちに取りに来てほしいんだけど)
(場所は大通りね、こちらも避難誘導とか終わってるから私が出向くわ)
どこかホッとした声質だ。相当、神経を割いていたと考えるのが妥当だろう。
ここ二日から三日は、二人の怪我を見てからだな。
その後出発しよう、これ以上迷惑ごとに巻き込まれるのは、ごめんである。
「で、あんたは誰だ?」
私の背中側で倒れている魔術師殺しを、私から回収できると思ったら大間違いだ。
「私が振り向かなければ、回収できると思ったか?」
この気配な感じ、魔術師殺しよりよっぽど強い。だが、私の敵ではないのは変わらずだ。
「そんなことは思っていなよ、それより君は一瞬泳がそうと思ったのはなんでだい?」
「簡単なことだ、お前らのアジトを潰すならそっちの方がいいかなって思っただけだ」
魔術師殺しを間に挟んで、攻撃がぶつかり合う。その瞬間、ようやく奴と目があった。見た目は、黒髪ショートの男の子。まぁ、顔はイケメンというよりは可愛い犬や猫系統のやつだ。
「随分と幼いんだな」
「私の顔を見た人は、よく言いますね。まぁ、その人たちは全員帰らぬ人になりましたけど」
「そうか、なら無敗伝説は終わりだな。私とあった時点で、お前に勝ちはねぇ!!」
剣で薙ぎ払おうと振るうが、それを予測してかその直前に後ろに下がられた。
「コイツ邪魔ですね、ザ・インフェルノ」
「おいおいそれはおかしいだろ!」
守るのは癪だが、こんな形で死なれても困る。
「随分とお優しいのですね、あなたは容赦のない方だと思っていました」
「死なれたら困るんでね」
「イデリアの為ですか。やはり、あの人は不要な存在だ」
コイツ、思いっきり言うな。
「誰が不要な存在だって! 聖なる刃」
「おっと危ない、そんなカリカリしないでくださいよ先輩」
「レヴェル、久しぶりね。」
私は今すぐにでも、この場からとてつもなく離れたいと心が叫んでいるのがわかる。
めんどくさいことに巻き込まれる、そう思ってしまっても仕方ないことだろう。
私は、あてもない旅がしたいのだ。
「「逃がさないよ」」
「そんなところで仲良くハマってんじゃねぇよ!」
私は思わずツッコミを入れてしまった。それはすぐに、悪手だったと頭を抱える。
「代替わりしたって聞いていたけど、あなただったのね」
「色々ありまして、私が団長を務めることになりました」
「その色々ってとこ、気になるわね」
「今はどうだっていい、あなたを王座が引きずり下ろすまでは」
激しく魔法がぶつかり合う。それだけだったらまだいい、魔法を混ぜた肉弾戦までし始めたのだ。
このままでは、街の一部は破損してしまうのが目に見えている。
「お二人さん、少しは落ち着いたらどうですか?」
そんな声が、届くはずもないのがわかっておきながら声を出す。
案の定止まる気配は、感じられない。
「仕方ない、悪く思わないでよ」
ボソッと呟き、二人の間に割って入る。
「お二人さん、街を壊すなら外でやれ」
二人の拳は、剣に阻まれる。
「何するのアリア!?」
「逃げようとしたくせに、今更なんのようだ?」
ため息が溢れおちる。それほどまでに呆れてしまっている自分がいる。
「私が、テメェらぶった斬っていいんならここで殺るか?」
二人同時に黙り込んでいる。それが可能だとわかっているからだろう。
イデリアはともかく男の方は、ここで手をだせるほどバカではないのは見たらわかる。
「はい捕まえた」
「え、嘘だろ!? 今の流れで捕まえるか普通」
「勝手に思っておいて何言っての?」
そうして私は、男を連行する。イデリアは、起きた光景に戸惑いを隠せずにいる。
「アリアって、すごいわね」
「何言ってんのさ、私は早く二人のところ戻りたいだけだから」
そうしてこの騒動は一時時的ではあるが、幕が降りようとするのであった。




