85話 無銭飲食してたらどうしようと思う焦る気持ち
……
「ナズナ、アリアの様子は?」
「泣き疲れて眠っているよ」
事件から一夜明け、新聞によってこの事件は世間を騒がせることとなった。
記事の内容は、全面的に剣聖の行動が書かれていた。
そして、今までプライベートをすっぱ抜いていた新聞社も、今回の行動を褒めた記事。
それは、実際に火災現場にいた人たちも同意見のようだ。あの規模で、死者は犯人グループ全員と職員十二人。
それは、奇跡に近いことである。それでも、アリアは自分のせいだと最後まで自分を責めていた。
「あのフェクトさん、アリアは今は部屋ですか?」
宿を出ると、アリアと同年代でありながら底しれない魔力を持つ少女が立っていた。
こちらを見つめ、ようやく出てきたと言いたげな表情をしている。
「何をしにきたイデリア?」
「今回のこと、詳しく状況説明をしてもらいたいの」
フェクトは、深いため息をついた。
「こんな時に嘘をついてどうする? 本当は心配してんだろ」
「えぇ当たり前じゃない、親友だからね」
「来てもらって悪いが会わせることはできない、今アリアは眠ってる」
それでもあわせなさいと言わんばかりのプレッシャーを放ちながらも、冷静を取り戻し一礼して何処かに行ってしまった。
「あの人も相当追い詰められてそうだね」
「そうだろうな、部下が亡くなったうえアリアも塞ぎ込んでいる」
アリアは、普通に悪人であれば人でも関係なく殺せる人間だ。それは、悪というものがあってこそだ。
だが、今回は違う。助けられなかった、その重圧は凄まじいものだ。
それを今回、初めて目の当たりにしたんだ。こうなってもわたしは仕方ないと思う。
……
なんでだろう、この国には居ないはずのイデリアがいる。そんなことを頭で考えていると、目が開いた。
まだ眠たく、しんどい心。それを吹っ切れさせることはないだろう。
そんな時なのに、空気を読まずお腹の音がなる。だがそれは、生きているという証拠にもなるのだろうと私は思ったのだ。
「二人には、弱いところを見せちゃったな。お詫びがてら、何か食べに行こうか」
体も心もだる重いのに、なぜだかスッと起き上がりさくさくと準備を進めていく。
気配感知では、近くに潜伏魔法をしている新聞記者が数名宿の周りに待機しているのがわかる。
「勤勉だね」
思わずため息が出そうになるほどだ。それだけ、私のことで記事が書きたいのが見え見えだ。
それでも今は、答える気なんて微塵もない。
(二人ともどこにいるの?)
(なんだ起きたのか、今俺たちは昨日の定食屋だ。食べにくるか?)
(すぐに行くわ)
そう言って私は、転移をした。
そういえば、必ず戻るなんて言って起きながら戻ってこなかった。
すっかり頭から抜け落ちていた。謝れば許してくれるだろうか、しかも無銭飲食だ。
私は恐る恐るお店の中に入る。
「いらっしゃいませー!」
「昨日は、すみませんでした!」
私は、入ると同時に土下座をしたのだ。
「昨日の行為は、到底許してもらえる行為ではありません。二度とあのようなことを起こさないので、どうか許してはいただけないでしょうか」
店内にいた人全員の視線が突き刺さる。
「お客さん、お代は昨日そちらの獣人さんからいただいているよ」
「え!?」
私は、顔をあげナズナの方に視線を送る。フェクトとナズナは気まずそうに、身振り手振りで謝っていた。
「それなら良かったです、でも昨日は本当にご迷惑をおかけしました」
「別に構わないよ。剣聖様に来ていただけただけで、こちらとしても商売繁盛だよ」
店主のおっちゃんは、とても気さくに笑っている。私は、心の中でホッとしたのか安堵した表示になっていた。
「みなさん、先ほどはお見苦しいところを見せてしまい申し訳ございませんでした。お代の方は、こちらでお支払いいたしますので」
突然のことでびっくりするお客たち。だが、そんな雰囲気をぶち壊したのは、フェクトだった。
「アリアの言葉には二言はねぇ! オメェら楽しもうぜ!」
「「うおぉぉぉっ!」」
そこからは宴会騒ぎで盛り上がっていた。店内にいた人たち、店主とその奥様と会話を楽しんだ。
「金貨五枚も減るとは思わなかった」
「あれってさ、ほとんどわたしたちだよね」
それには、フェクトも同感なのかしっかりと頷いている。
「やっと見つけた! アリアね、もう少し新聞のことを考えて行動しなさいよね」
久しぶりにあった親友、イデリアからこっぴどく叱れる。
「どうしたの、そんなに怒って」
「どうしたもこうしたもないわよ、あなた土下座したでしょ! それがすっぱ抜かれてるわよ」
渡された紙には、とても綺麗なフォームをした土下座をかましたシーンが激写されていた。
「よく撮れてるね、すごいね」
「もう事情は知ってるいいけどさ、それより昨日のことを聞かせてくれない」
「道端で話すのもなんだ、宿に行こう」
そうして、私たちは宿へと戻ってきた。そして昨日のことを全て話したのだ。
「まだここが狙われる可能性もあるでしょうね」
「そしたら、滞在するの?」
「そのつもりよ、とりあえず再建復興もしていかないとだしね」
イデリアは、とても疲れた表情をしている。昨日から一睡もしていないのがわかってしまうぐらいだ。
「イデリア、少しは休みなさいよ」
「落ち着いたらね」
次の瞬間、イデリアは倒れた。
「いや何やってんの?」
フェクトの困惑した声が聞こえてくる。
「え、いや気絶させただけだよ」
フェクトは頭を抱えてたのち、ため息をついた。
「とりあえず宿に戻ろう」
私は倒れたナズナをおぶり、颯爽と駆け抜けていく。イデリアは、とても軽かった。
この年代の平均よりも軽いのではと、疑ってしまうほどだ。
それだけ、魔法界での仕事が激務なのだろう。そんなイデリアを私は、宿に連れて行くのだった。
「アリア、次は普通に連れて行けよ、わざわざ手刀するな」
「もうそれ何回言うの? 聞き飽きたー」
ナズナを見ると、この行動には流石にひいたような顔をしているのだった。




