59話 ナズナに教え子ができる
「魔武式・拳」
フェクトの一撃は、魔物の原形が残らないほどの一撃だ。それを見知らぬ誰かの為に振るえるのも、フェクトのいいところである。
「お嬢さん、危ないところでしたね。お怪我はありませんか?」
「――はい大丈夫です。助けていただきありがとうございます。もしよろしければ、私の住む村に案内しますよ」
「アリア! 俺たちが目指してたところじゃねぇか?」
私が、フェクトの殺った死骸の後始末をしていると声をかけてきた。
どうやら、私たちが目指していた村がこの近くにあるみたいだ。
私が返事をする前にナズナが、話し出していた。村を楽しみにしていたのだ、とても興奮しているのがわかる。
「そうだよ、早く行こうよ!」
「ナズナには聞いてないよ」
助けた人の前で喧嘩が始まりそうなのを止めつつ、私は二人の間に入る。
「案内お願いします」
私は軽くお辞儀をし、二人にもするように促した。二人は歪みあうのを止め、きちんとお辞儀をしていた。
そうして、箒で二十分程度飛んだ頃だろうか、小さな村が見えてきた。噴水が村の中心にあり、それが憩いの場になっているのであろう。
その近くにベンチなんかも置かれているのがわかる。
「あの付かぬことをお聞きしますが、先ほど何されていたのですか?」
「薬草集めに、私しか冒険者が居ませんからクエストをしていました」
それにしては、重装備だ。強い魔物を倒す装備だし、ましてやその大剣は中々見ない物だ。
「あ! 忘れてました、名前リグといいます」
「私は剣聖でアリアと言います。こっちの二人は男の方がフェクト、獣人族の方がナズナと言います」
そう言って軽めに挨拶すると、彼女は箒から落ちそうになる。
すぐにナズナによって助けられたが、その後は挙動不審で、こちらに目を合わせなくなった。
「まさか剣聖様とは知らずに、なんてお恥ずかしい場面を見られるなんて」
「いやいや、全然大丈夫ですから」
それにしても村人からの視線がすごい。村の人たちが全員出てきたと思ったら、ジッと見られている。
村長らしき人も、他の住民のように離れた場所で見てくる。
なんとも言えない雰囲気だが、気になる。
「この村って最近何かありました?」
私は、この状況は何かしらの原因があると考えた。こういう時は、聞くの手っ取り早いので聞いてみることにした。
「私の兄が魔物に殺されました」
思ったよりヘビーの内容じゃねぇか。私は言葉に詰まるがなんとか絞り出す。
「それは残念ですね。もしかして、敵討ちしようとしてませんか?」
リグは黙ったたままだが、それはどうやら合っているようだ。
拳を握りしめ、怒りで震えているのが分かる。
「そうです、コカトリスに殺されました」
コカトリス。これまた厄介な魔物だ。石化させられて、そのまま石化の状態で壊されたのだろう。
そうしたら、石化した生物は死ぬからだ。でもこんな、何もないような場所でアイツが出るのも珍しい。
何かしら移動してきた可能性も高いと言えるであろう。まぁ、それは調べればわかることだし、あとでいいだろう。
脅威となる存在が居るのであれば、私が斬るのみだ。
「やめとけ」
フェクトは、彼女にそう言った。私と思っていることが一緒なのだろう。
彼女は驚いた様子でこちらを見ている。
「どうしてそんなことを言うんですか? まだ会って一時間も経ってない相手に」
「弱いからに決まっているだろう。たかが、逸れのオーク一体に悲鳴を上げるようでは、無理だね。」
フェクトの言葉は正しい。私たちが助けに入らなければ、彼女は間違いなく餌食だった。
立派な大剣を振り翳そうともしていなかった。コカトリスは何倍も強い上に、手強く厄介のやつだ。
それを彼女は倒せないと、フェクトと私は完全に決めつけな状態である。
「……そ、それは、たまたま、調子が悪かっただけで」
「そうか、今すぐ冒険者辞めるんだな」
「ねぇ、わたしがさ教えてもいい? 二人とも、考え変わらなそうだし」
そう言ったのは、先ほどまで話に興味がなく飛んでいた白い蝶を追いかけていたナズナだった。
「うんいいよ、私もフェクトも数日間はゆっくり休ましてもらうよ。フェクト行くよ、ハイこっち来て!」
フェクトの服を引っ張りながら、私たちは退散した。フェクトは、終始何かいいたげだったがグッと堪えている様子だった。
そうして、宿の部屋を取ったあとくつろいでいると扉の向こうから音がする。
「フェクトだ、入るぞ」
そう言って入ってきた。グッと堪えていたのを吐き出そうとやってきたのだろう。私は、本を読むのをやめて寝転んでいたのを辞める。
「どうしたの何か言いたげだけど?」
「良かったのか、ナズナに任せて」
やはりこれか、私はそう思った。フェクトは真剣な表情でこちらを見てくる。
「ナズナがやる気になっているんだし、それでいいんじゃないの?」
「それはそうかもしれないけどな、流石にコカトリスはあの子には無理だ」
「まぁ、大剣は振るえないでしょうね」
彼女には、完全にトラウマが植え付けられている。それは、単純明快だ。
圧倒的な大敗北。
それは、彼女にとって大変しんどいことだろう。今までできていたであろう、大剣が使えないほどに追い込まれている。
それを打破するには、私たちでは無理だと断言できる。
「ナズナの武器は、君と同じ格闘技術だ。コカトリスを殺すぐらい簡単だよ」
「おいそれだったら、何年も掛かるだろ」
「いや、数日で終わるよ。コカトリスも近くの洞窟にいるみたいだし、彼女の適正は剣じゃないからね」
それで理解したのか、フェクトは自室に戻っていく。そうして、私はまた本を開くのだった。
……
「君の適正は、剣じゃないよ」
「え!? 何言っているんですか? 私は冒険者になってから大剣持ちですけど」
「拳で来な、その理由がわかるはずニャー」
そうして、ナズナとラグの特訓が始まるのであった。




