57話 シーサーペントを食べてみよう!
「これならどうだ!」
「甘いよ」
ナズナは蹴りを繰り出すが、フェクトには完全に見えており簡単に止められる。
フェクトは、完全に慣れた手つきで相手をしている。
振り解こうにも、無理みたいだ。そんな光景を私は、眺めていた。
「遊んでないで、ご飯ができたから準備して!」
「「ヘーイ」」
獣人の国を出発して、数週間が経った。ナズナもすっかり仲間として、旅を楽しむようになっている。
だがナズナは、不満があるようだった。それは、圧倒的に暇だということだ。
ナズナは知らなかった、旅というのは暇の時間の方が長いのだ。
箒に乗っていても、喋っている時やイベントが発生した時以外は、どこか上の空である。
地面に降りたら、フェクトが気分転換に組み手をしている状態だった。そうじゃないと、帰りたいと言い出しかねないと思ったからだ。
「アリア、もっとなんか面白いことないのz?」
「村や国に行かないと特には無いかな、ダンジョンもここいらにはないし」
そう言うと、深くため息をついていた。一方フェクトは、完全に慣れているため、特には何も思っていないようだ。
普段通り、パンに目を輝かせ食べている。
とても美味しそうに食べてくれるのは、パン屋のおばちゃんにとっても嬉しいことだろう。
「でも、もう少し行った先に湖があるみたいだよ」
「え、ほんと!? 早く行こうよ」
途端に元気になるナズナ。まるで、フェクトを見ているような気分になった。
そうして、箒を飛ばすこと数日。大きな湖が見えてきたのだ。ナズナは、上空にいるのを忘れたのか、とても大喜びでで突然跳ねたのだ。
「あ! バカ」
フェクトは、すぐにナズナを回収しことなきをえた。地上に降りた瞬間、フェクトはナズナに怒鳴りつけていた。
ナズナは、反省しているのがわかる。
「フェクト、言い過ぎだよ。ナズナもあんなこと二度としないでね」
「はい、ごめんなさい」
それでことなきを得たのならよかったのだが、ナズナはフェクトにある程度の距離感を保ったままだ。
ものすごく怒ったフェクトが、怖かったのだとすぐにピンと来た。
私は、こんなことで仲間がバラバラになるのは、よく思っていない。
「フェクト、周辺の安全確認お願いするね」
フェクトは、無言のまま行ってしまった。ナズナは、私のそばから一切離れようとはしなかった。
震えすら感じている。
「ナズナ、大丈夫かい?」
私は、宥めるような声で話しかけた。
「ごめんなさい……周りが見えていなかった、初めての景色でテンションが上がりすぎてた」
「そうだね、フェクトにもそう言えるかい?」
「うん」
ナズナは、元気を少しずつ取り戻してきている。フェクトも近くに居るのがバレバレだ。
そうして、フェクトを待っていると落ち着いた表情で現れた。
ナズナは、すぐにフェクトに駆け寄る。
「フェクトごめんなさい! 助けてくれてありがとう」
「俺も言いすぎた、ごめんなさい」
すぐに誤り、二人はいつものように過ごし始めた。私は、良かったと心から思った。
気配感知に突然反応がでる。魔物の気配が湖からきているのがわかる。
それは、二人も気がいたようだ。
「なんの魔物だろう?」
「水中にいるんだ、シーサーペントとかだろう」
ナズナは、首を傾げている。ナズナは、ずっと獣人の国にいたんだ。
そうなるのも納得だ。
「シーサーペントだったら、塩焼きだね」
私が言った言葉なのに、私までよだれが垂れた。そうして、湖に影がうつり飛び出してきた。
思った通り、シーサーペントである。相当大きく、至る所に傷がついている。すぐさま戦闘体勢に入る。
それを感じ取ったかのように、威嚇で大声を出している。それが引き金になったのだろうか。
突然、水の一部が渦状になって上昇していく。
「水を操れるのか。二人とも、一気に片付ける!」
「「了解!」」
私は、瞬時に水中歩行を全員に付与する。そして一気に水の上を駆け抜け、間合いに一気に入った。
そして、渦は上空に飛んでいき、私たちをめがけて飛ばしてきたのだ。
「これは任せるぞ! 簡単に対処できるはずだからね」
そう言って、落ちてくる渦を横目に高く飛び上がる。そのまま、首を刎ねた。
その瞬間、形を保てなくなった水の渦は落下していく。
「魔武式・正拳一徹突き」
「ファーリー武術・登り突き!」
二人の拳は、互いに空に向けて放たれていた。
その一撃は、シーサーペントの一部を肉片に変えてしまうほどだった。
そこまでの余波を生み出せる二人も、充分怪物だと認識する。
多分、大抵の魔物はアレに耐えられないなと直感したのだった。
「やりすぎだよ! 食べるところが少なくなるでしょ」
「「ごめんなさい」」
シーサーペントは、大きな音をあげつつ水しぶきをあげ落ちた。
血が水に染み込んでいく。
すぐさま、フェクトが陸にあげてくれたおかげで大ごとには至らなかった。
「じゃあ早速、下処理して食べるわよ」
三人とも、テンションの上がり方が違った。なぜなら、高級魚として取引されるものだからだ。
脂身がよく、身もしっかりしていてとても美味しいからだ。
貴族が献上品として、要望を出すほどだ。それだけではなく、運がよければ街の酒場でも食べられる。
「これ主だったんじゃねぇか?」
「そうかもね、すごい傷がついていたし」
「そんなことより、早く食べようようー」
そうして、みんな早く食べたかったのだろう。いつもの何倍のスピードでご飯を作っていったのであった。
そうして、辺りはすっかり夕暮れになった頃ご飯ができあがる。
よだれを何度拭いても垂れ落ちる。それ程までに、美味しそうな料理が目の前にあるのだ。
「食べようか、いただきます!」
三人ともが一斉に、食べ始める。美味しすぎて、言葉にならないのは同じようだ。
私たちは、この時気がついていなかった。背後からおそるおそる近づく影に。




