56話 獣人の国にまたいつかと告げて
それから私は目覚めたのは、知らない天井だった。腕に柔らかい感触が当たっている。
横を見ると、ナズナが腕を抱き枕にして寝ていた。寝息がとても心地良さそうな音色を醸し出している。
その寝息は、まだ覚めきってはいない私には効果抜群だった。
もう一度、夢の中に戻ろうとすると、扉の向こうから音が聞こえる。
足音で私はすぐに誰かわかる。
「アリア、起きてるか?」
やはりフェクトの声である。私は声を出そうにも、横で寝ているナズナを起こしたくはなかった。だって、めっちゃ気持ちよさそうに寝てる。寝顔、めっちゃ天使!
(起きてるよ、横でナズナは寝てるけど)
(だからこれなのか。入るぞ)
扉が開き、フェクトが中に入ってくる。
「おーい起きろナズナ」
フェクトは、ナズナの体を揺さぶりながら優しく起こそうとする。
だんだんと目が開いていく、そうして私の顔を見るなり抱きついてきた。
「アリア! 起きたんだね、全然起きないから心配したよ」
朝っぱらから、熱烈なラブコールと受け取って良いのだろうか。
そんなことを考えていると、フェクトは引き剥がした。
ナズナは、まだ抱きつき足りないようだ。
「二人とも着替えてくれ、獅子王が会いたがっているそうだ」
「わかった、外で待ってて」
そう言うと、早めになと言い残して部屋から出ていった。ナズナは、まだ眠いのか目を擦って大きなあくびをしている。
私は、ベッドから降りて体を軽くストレッチする。かれこれ、十時間は遥かに超えるほど寝ていたため、体をほぐしていく。
顔を洗って、清潔感を整える。眠たい顔から、シャッキとした顔に切り替え、そそくさと準備をしていく。
適当にボックスから取り出した服を、ベッドの上に置いていく。
「どれを着ようかな?」
春にぴったりな上下を出して悩んでいると、ナズナもこちらに興味があるようだ。
「えっとね、これとこれ」
ナズナのが指を指したのは、白のブラウスとピンクのスカートである。
ナズナの顔は、自信たっぷり乃表情に満ちている。それに私は乗っかり、服を着替えて部屋を出た。
廊下で、外を眺めて待っているフェクトがいた。
「フェクト、どう似合ってる?」
私は、特に返答なんかは気にせず聴いていみた。
「いいじゃねぇか、ナズナが選んだのか?」
私の後ろから出てきたナズナは、うんと答えた。流石はフェクトである。
私のだらしない格好を知っているためか、これは私が選んだ服ではないことを簡単に見抜いていた。
「当たり!」
「だってそれ、イデリアに散々連れ回されて選んで貰った服じゃねぇか」
私は、すっかり頭から抜け落ちていた。そういえば、冬の間、休みの日なんかは、大体イデリアに拘束されていたのを思い出した。
「その日のうちにボックスに放り込んでたしな」
「あ、……そういえばそうだった気がする」
そう言って苦笑いで誤魔化しつつ、獅子王に会いにいった。
「よくきてくれた剣聖様、昨日は何とお礼をいえば良いか」
「私は、特別なことはしてませんよ。体調が戻られた様でなによりです」
獅子王には、包帯すら巻かれていない。流石は、獣人族だと感心した。
「それでお話というのは? これだけじゃないですよね」
「はい、新しい王についてです」
やはりそれか。今現在、ナズナと獅子王のどちらかである。それ以外考えなくてもいいだろう。
だが、ここでナズナに王として居らせるのは酷な話であろう。
「獅子王、それはあなたが続投すべきだと考えます」
私は、思ったことを言った。口の言い方は悪いが、ナズナでは国を任せるのは無理であろう。
それに関することが、全然向いていないと言える。
それに比べて、獅子王は十五年で培った物は計り知れないだろう。
「やはりそう思いますか、ですが今回の不祥事は紛れもない事実です」
ラギアの件は、私が寝ている間に広まっていないわけがない。それにより、側近の一人としてやってきた者の裏切りは、監督責任が取らされるであろう。
それを危惧しているのが丸わかりだ。
「だったら、今回は私が決めます。剣聖権限として」
「剣聖権限ですか……。それも一つの手かもしれませんね」
悩んでいるのが、顔にでている。伝統を重んじていた獅子王だ、悩むのも当然だ。
「ねぇ、わたしはそれでいいと思うよ。獅子王じゃなきゃ、みんなはついていかないよ」
獅子王にその言葉が届いたのか、決心がついた顔つきである。
そして覚悟を決めたかのような面持ちで、口を開く。
「お願いできますか、剣聖様」
「わかりました、次の獣人族の長は引き続き獅子王にお願いしたいと思います」
「ありがとうございます、これからも日々精進していきますので、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ」
そう言って、力強く握手したのだ。
そしてその後、民の前で獅子王はこのことを説明した。みんな、当たり前だよなと言わんばかりで、拍手喝采である。
「ねぇ、獅子王。わたし、アリアたちと旅がしたい!」
「そうかわかった、剣聖様、ナズナは家族を戦で無くしてからは、私が育ててきたような者なんですよ、これからよろしくお願いします!」
獅子王は、大粒の涙を地面に落とした。
「もちろんです! これからよろしくねナズナ!」
ナズナは、私に飛びついてきた。とても嬉しそうな笑顔を周りにも見せていた。
周りからは、祝福の声で溢れかえっていた。そうして、その日は一日、祭りのような騒ぎで国が盛り上がったのであった。
「獣人の国、またいつか!」
翌日、別れを告げつい先日、ウイッチと戦った場所に戻ってきた。
「まさか、新たな旅仲間ができるなんてな」
「私もそれは思ったよ、じゃあ早速行こうか」
そうして、箒を取り出す私たちを不思議そうな目で見てくる。
「何それ? それで移動できるの」
「あ、もしかして知らなかったの? 魔力量も少ないから私の後ろに乗りな」
そうして、ナズナを加えた旅が始まるのであった。




