第51話 罠と獣人族
王都を経って数週間がたった。
今日も相変わらず、箒に乗って旅を続ける毎日を過ごしていた。
王都を出てからというもの、目立ったこともないため、少し気が緩んでいた。
春の陽気を全身に感じつつ、周りを見るが特に目立った物もなく、あるのは森ぐらいだった。
「アリア、組み手でもしようぜ」
よっぽど暇なのだろう、どうにか時間が潰せないかいかと、考えたのがわかる。
「そんなことしたって、村や国にはつかないよ」
「だってよ〜」
この調子になると、フェクトはダメになる。それをわかっているが、ここで甘やかすのも違うであろう。
そんなことを思っていると、ふと顔をあげると煙のようなものが見える。
「あれなんだろう? 行く?」
「当たり前だろ!」
急に元気を取り戻したのか、箒の速度が一気に上がる。なんとも、調子のいいやつだ。
気配感知には、魔物の気配がするだけで、煙周りには誰もいない。
そうして、降り立つやいなやそれが罠だということに気が付される出来事が起きた。
「結界!?」
結界の形状は、ドーム型。周りは誰もおらず、何の目的かわからない。
「ちょっとどいてろ! 魔武式・突き」
瞬時に破壊に成功。その衝撃音に気がついたのか、魔物たちが一斉にこっちに来ている気配がある。
「もしかして、犯人って」
私の呟きに、フェクトは疑問の顔でこちらを見てきたが、答える暇なく、そいつのいる方へ一直線にいく。
「やっぱりそうだよな、リッチ」
魔物でこんな真似をするのは、コイツしかいない。私は、即座に剣を振りかぶり、斬りさいた。
それに反応してか、周りにいた魔物がこっちに向き直っている。
おそらくこれは、リッチが死んだあとも魔法の効果が続く、催眠魔法であろう。
王都にいた時、見たことがある。
魔物が使う魔法の中には、自分が死んだ後に強くなる魔法があると書かれていた。
そして、その代表格として書かれていたのが催眠魔法である。
「フェクト、思いっきり暴れていいからね!」
「それはありがたいな」
これで気晴らしにはなるだろうと考え言ったら、思いっきり暴れていた。
相当、溜まっていたのだろうと思っていると、剣に衝撃が走る。
「アリア!」
フェクトが暴れるのを止めるほどだ。
「熱烈な歓迎だね、見たところ獣人族で間違いなそうだね」
耳が頭についており、尻尾は、ピンと長くまるでネコのようだが、その二つがあるだけで人間と変わらない見ためをしていた。
「私の攻撃……止められた? 何かの間違い」
「間違いではないかな、実際に止めてるからね」
より、力を入れるが一向に動かない私に腹を立てているのか、苛立ちが顔に出ている。
「せっかくの美人顔がもったいなよ」
私は、彼女を軽く後ろに飛ばした。彼女は、体勢を低くし今すぐにでも、首元を掻き切ろうとしているのが見てわかるほどだ。
「殺気なんか出しちゃって、私に怯んでほしいの?」
そんな時だ、私の背後から足音が複数聞こえる。相当なスピードでこちらに向かってきているのがわかる。
だが、そいつらに殺意は感じられない。
「ナズナ様! また、国を抜け出して」
獣人族の国? 確か本では、こう書いてあるのを見たことがある。
いくつかの魔法陣で行くことができる。そしてそれは、一度訪れていても、転移術では行くことは不可能とされている場所である。
「そこの旅のお方、お怪我はありませんか? ……ってあなた様は」
どうやら姿を見られるなり、私の正体に気がついたのだろう。そこの、ナズナと呼ばれていた人より随分とかしこまった態度で接してきた。
「頭をおあげください、申し遅れました。剣聖少女ことアリアと申します」
「剣聖? 強いってこと?」
どうやら剣聖を聞いたことがないのか、首を傾げてこちらを見つめてくる。
「何をおっしゃっておられるのですか、この方は最年少にしてこの世界で最も強いお方です。そして管理者と同じく、この世界で最高の権力者でございます」
なるほど。と言わんばかりの顔になり、瞬時に抱きついてきたのだ。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
「わたし、この人好き! わたしの攻撃止められるから好き」
正面からがっちりホールドされる体。それを見て血の気が引く獣人族の方々、その状況を笑い転げているフェクト。
なんと表していいかわからない状況が続く。
「一回、離してれるかい?」
「いやだーいやだー」
完全に先ほどの面影がさっぱりと消えた。今は甘えてくる子供のようだ。何度も、顔を擦りすけて愛情表現をしている。
私は、その状態で構わず歩き始める。獣人族は、何もできないのか、申し訳なさそうに案内をする始末である。
「フェクト、いつまで笑っての。置いて行くわよ!」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待てって!」
普通に離れていて焦ったのか、すぐに迫ってきた。その状況を見ていたナズナは、完全に敵意を剥き出しである。
威嚇しているのか、シャー! と何度も鳴いている。
「ナズナ、落ち着いて! 敵じゃないから。私の使い魔だからね」
手は動かせないものの、なんとか言葉で宥めようと試みる。
「うー」
少しは落ち着いたのか、敵意は感じない。そうしていると、ここですと言わんばかりの顔で前方が立ち止まる。
「ここに来てください、こちらが獣人の国を繋ぐ魔法陣です」
そうして私たちは、乗り込みスッと消える。目を開けた先には、王宮だろうか?
そのような見た目な場所に飛んでいるのを確認する。
「ここって?」
「獣人の国、ダイナール大陸ダウール山脈にあります」
ダウール山脈というのは、ダイナール大陸でいまだに解明されていないことが多い山脈の名だ。
それにダウール山脈は、別名自殺願望の聖地とも呼ばれる場所だ。
濃度の強い魔力の霧、そこから襲ってくる魔物の数々。
「すごい場所に来ちゃったな」
「何言ってんだ、アリアなら全員斬り殺して下山できるだろ」
それが事実だとしても、言わないほうがいいんだよと言いたげな顔でフェクトを睨みつける私なのであった。




