46話 相合傘とフードの剣士
会議も終わり、外に出ようとした直後のことだった。ミニシアが震えたような声で話しかけてくる。
「少し聞きたいことがあるのですが?」
「どうしたの何?」
「どうして逃げられるなんて言ったんですか?」
そっちのことか。そう思ったのかそっと胸を撫でおろす。あのことを聞かれたら面倒であった。
「土地勘がないからかな」
それを聞いても、どこか納得がいかない様子なのがよくわかる。
そしてそのまま私はギルドを後にした。事件現場を調べるためだ。
資料に載ってある情報だけでは、全然足りないからだ。実際に見て感じたことも、必要なことだと言える。
どこの事件現場でも言えるのが、人気ない場所だったというと。
「ここか」
昼間だというのに、とても閑散としているのが印象的な道だ。
貴族が殺された場所、護衛を含め全員死亡というなんとも言えないのが印象的だ。
「ちょっとそこのお嬢さん、こんな所で何してるんだい?」
声をかけてきたのは、年老いた老婆である。
「ここで、殺された人のことを調べているんだよ」
「だろうな、奴は相当恨まれていたやつさ。死んで当然なんて思ってる奴も少なくない」
資料に書いてある通りだ。実際に声を聞くまでは鵜呑みにはしないと思っていたが、ここまで言われるあたり相当あくどいことをしていたのであろう。
「他の被害者も恨まれていのですか?」
「それは様々だったな、ここで死んでた奴以外人から聞いた話だったから、信用はしとらん」
「ありがとうございました」
そう言って、事件現場を後にした。話を踏まえるに、物取りの犯行が一番しっくりくるが、どうもピンと来なかった。
なぜかというと、それは師匠やイデリアが本格的に参加した日に事件が起きているのがわかっているからだ。
犯人は、人を殺してまでも戦いたいと思ってるヤバい奴なのは間違いない。
そんな時だ。フェクトから連絡が入った。
(そろそろ夕方になるけど、どうしたらいい?)
(ギルドの方に来て欲しい)
とてつもなく目立っていたので、ギルドに着く前には合流できていた。
大量のパンを買い漁ったのだろう。大きな袋を抱えている。
「そんで話はどうだったんだ?」
「今日は夜通し、見回りするから気合い入れてね」
そう言うと、察したのか顔つきが変わる。そして夕暮れの時、雨が降り始めたのだ。
なんとも嫌なタイミングでの雨。相手にとって、絶好の犯行チャンスである。
「ごめん遅くなった!」
慌てた様子で来たのは、イデリアだ。息を切らし、疲れた表情をしている。
「どうしたのそんな慌てて」
「魔法界の方でね、今日のことを話してたのよ」
だからか。ここにくる途中、魔法使いや魔術師が至る所にいるわけだ。
それにより人々は、少し足早に動いてるのがわかるほどだ。最近の事件で、怖い思いをしてるということだろう。
昼間は、どこの国も同じように賑わっているが嘘みたいに閑散としている。
「この事件がどれだけ怖いのかわかる光景だね」
「アリアってそうなこと言うの!?」
驚いてしまうのは、そのことに関して無理はない。最後に会ったのは、相当前のだから仕方ないことだ。
「じゃあ、見回りよろしく」
イデリアは、駆け足でそこらかしこにいる魔法界職員に指示を出しながらどこかへ行ってしまった。
フェクトは、ストレッチをして体を動かしやすくしている。
「フェクト、私たちも見回り始めようか」
「そうだな、それついでに観光でもしようぜ」
フェクトは、お気楽そうな声でそんなことを言いながら傘をさして歩き始めた。
私もそれに入るように、フェクトに体を寄せる。そして、腕を絡めてみる。
その光景は、側から見たら恋人同士が仲良く歩いてると思われても仕方のないものだろう。
フェクトの体は、少し熱を籠っているがこの事とは関係ないであろう。
そうして、相合傘の状態で何時間もひたすら歩いていた。
「なかなか、起きないもんだな」
「それが当たり前であってほしいけど、多分起きるだろうね」
先ほどから、憎き新聞社の連中が至る所で見かける。服装は、どこにでもいる人のようだが、歩き方や尾行の仕方が新聞社特有のやつだ。
憶測ではあるが、この光景を明日の見出しにしたい欲望がダダ漏れだ。
そんなことを考えながら歩いていると、増大した魔力の塊がある一定の地点に突如として現れたのだ。
そして、一つ、また一つと消えていくのを感じ取る。
「これってもしかして!?」
フェクトが慌てたように、言っている。
「この場所って、時計塔だ」
王都には、大きなお城以外にも特徴がある。それにひけを取らない大きな時計塔があるのだ。
「アレって、国の中心地にあるやつだろ? なんでそんなところで!」
「わかるかよ、犯人に直接聞け!」
私もフェクトも慌てた様子なのが、誰が見てもわかるほどだ。
一呼吸する間もなく、屋根に飛び上がりそのまま時計塔まで渡っていく。
その際、魔法の攻撃が屋根から見えるほどの爆発をあげていた。
「もうすぐ着くぞ、気合い入れろ!」
「おう!」
その光景は、想像通りである。魔法使いの死体が何人もあるのが目に映る。
それでもまだ一人生存者がいる。
「殺させねぇぞ!」
剣と剣がぶつかる。なんとか薙ぎ払い、黒いフードの被った犯人は後ろに下がる。
チラチラと見える口は、笑っているかのようだ。
「テメェが辻斬り騒動の犯人だな」
犯人は、何も答えない。ただ静かに、剣を見つめている。
雨で視界が悪い。いつ始まってもおかしくないこの状況、フェクトが何か喋りかけているようだが、何を言ってるかはわからない。
相手を見つめ、剣に力を込める。
次の瞬間、地響きを上げるとともに一撃がぶつかったのだ。
「やっば!」
そう口にしてしまうほどの衝撃が、私の心に与えられたのであった。
でも、そのあとすぐに魔法を使って、ようやくこの程度かと、落胆してしまう。それを気取らせないように、剣を振るうが見破れているような感覚になる。
そして、犯人がなぜこの行動に出たのか、分かったのであった。




