43話 第五王子は、二人の仲を取り持つために一肌脱ぬぐ
「イデリア、シャイで聞かなかった? 次は容赦しないって」
「聞いたよ。でもね、そいつは魔神なの。だから討伐しなきゃいけないんだよ」
私は、イデリアの言っている意味もわからなかった。今は、私の一部として、いつも一緒にいてくれる存在。
それを、一方的に否定ってバカみたい。
気がついた時には、イデリアを殴り飛ばしていた。
「――アリア!? 一回私の話を聞いて」
イデリアが驚いた表情で、何かを言っている。私は、そんなことに聞く耳を持たず、蹴り飛ばした。
イデリアは、地面に倒れ込む。痛くもないくせに、立ちあがろうともしない。
そんな彼女に、私は心底腹が立つ。
「アリア落ち着け! 一回深呼吸しろ」
フェクトが焦って言っているのがわかる。だから私は、フェクトの方を向いた。
「大丈夫落ち着いてるから、ちょっと待ってて」
私は、イデリアの腹部めがけて何度も蹴る。イデリアはなにも反撃してこなかった。
「反撃しろよ、いつまでそんなことしてやがる」
「インパクト」
足に手が触れる。触れたと思ったその時だ、足が折れるかのような痛みを、伴って地面に叩きつけらた。
「アリア、せっかくあなたと会えるのを楽しみにしてたのに」
そんなことを言うとともに、背中に魔力を帯びた刃が何箇所も突き刺さる。
「おいやめろ! 俺が死ねばいいんだろ、これ以上する必要があるのか」
フェクトが訴えかけるかのように、話しかけている。だが、彼女は話を聞くことはなく、ひたすら攻撃をしていた。
おそらく、これはフェクトをこっちにこさせるためにしていることだ。
使い魔を殺すなら、主人を痛めつければいいことなのだから。
「お前も話を聞けよ! 魔武式・回し蹴り!」
フェクトの焦りの籠った一撃が、イデリアにはボーナスタイムでしかない。それを考える暇さえ与えなかったイデリアに、フェクトは勝ち目なんてないのだ。
「捕まえた…… 聖なる刃」
「お楽しみの所悪いけど、そろそろ茶番劇はいい?」
イデリアは、城壁を突き破る勢いで飛んでいった。
「アリア、お前なこの時狙ってただろう」
「うん、当たり前じゃん」
フェクトのあきれた顔の視線を受け取りつつも、吹っ飛んでいった方向に目を向ける。
「最近も吹っ飛ばされたなぁ……私。でもね、決まりなんだから仕方ないでしょ」
「だったら、私がそれを捻じ曲げたらいいだけじゃない?」
「それを捻じ曲げた所でどうなる? 剣聖の自己満で人々を不安にさせるのか」
それには、なにも言い返せなかった。彼女の言ってることは確かに正論だ。
それを言われたら、なにを言っても意味はないだろう。
「その話、ちょっと待ってくれるかな」
聞き覚えのある声が、門のところから現れる。白馬に乗って現れた。
まさに王子様のイメージにがっちり、固まったようなものだ。
「何しに来た、第五王子?」
「睨まれると恐怖が増しそうだ。一度四人でお話しすることはできませんでしょうか」
「話することなんてねぇよ、引っ込んでろ」
「第五王子、これは私たちの問題ですので」
第五王子は、こう言われるのをわかっているみたいに笑い出した。
「いやほんと、想像通りに返してくれますね。これ以上ここでの戦闘は許可できませんので、お入りください」
「私は王都には入らない。手厚く迎えてくれたんだ、それぐらい覚悟の上だろおまえ」
彼女は、黙ったままだ。この状況、第五王子もどうしたものかと、少し難しそうな顔をしている。
「仕方ないですね、それじゃお願いするよ」
背中に、ふわっとした何かが当たる。振り解こうとするが、なかなか振り解けない。
「落ち着いてください、アリア様!」
「その声、ミニシア!?」
なんでここにいる? と思ったがその時には、転移で豪華そうな一室に飛んでいた。
その時全て理解した。あの会話は、ミニシアを気付かせないための、一芝居だったのことに。
それどころか、フェクトもグルだったと言えるであろう。
フェクトが気付かないことは、あり得ないのだから。
「第五王子、こんなことまでして何がしたいんだ」
「そちらのフェクトさんは、使い魔契約されているのですよね」
「そうだけど、それでも危険性があるって話だから、あいつと話が合わなかったんだろ」
「やはり許可します、あとはお任せください! それよりもイデリア様と仲直りしてきてください。それが取引条件です」
私は、苦虫が潰れたかのような顔で言われるがまま、その場を後にした。
「大丈夫か? 見事にしてやられたな」
「もっと好感度、上げておくんだった〜」
私は、後悔の念でいっぱいいっぱいだった。まさかの仕返しに、頭ではわかっていても心がついてこなかった。
「でも、フェクトが無事で良かった、早く私を殺せるぐらい強くなってね」
「当たり前だ、絶対に追い越してやるよ」
……
え、なにこの二人。尊すぎない!? めっちゃ信頼してるやん、こんなの見せつけてくるなんて、この仕事してて良かったーと思う、メイドなのであった。
……
「こちらでございます」
そう言って顔を少し赤らめたメイドが、案内してくれた。
「ありがとうございます」
私は、お礼を言うと持ち場に戻るのか、とても綺麗な歩き方でその場を離れていった。
深呼吸を何度もし、アイツの待つ部屋に入った。
「ようイデリア」
「話は聞いたわ。あの人ってあんなことをする人じゃなかったんだけどな」
第五王子も変わっているということだろう。フェクトの視線も痛いし、もう一度深呼吸をして彼女に向き合う。
「イデリア、さっきはごめんなさい」
「私こそ、ごめんなさい」
この歳になって、面と向かってお詫びをするのはなんか恥ずかしさもある。
それでも、これが一番効果的なんだと理解するのに時間は掛からなかった。
「それじゃ、私たちギルドに行きたいからそろそろ失礼するよ。また今度、ゆっくり話そう」
「ちょっと待って、背中の傷を治すわ」
そういえば、刺されてたことすっかり忘れていた。血は普通に出てたけど、痛くもなかったしすぐに塞がってたから全く気にしてなかった。
「あ、ありがとう」
「これぐらい簡単なことだよ、転移で送るわ」
そうして、王都の門に着いた。
「ギルドで魔物の買取でもするの?」
「まぁ、それもあるけどメインは違うかな」
イデリアは、首を傾げている。考えているのか黙ったままだ。
「ここに来る途中、賞金首を二人殺したんだよ」
「賞金首を二人? ……もしかして兄弟?」
「イークス兄弟だよ、知ってるの?」
「知ってるよ、魔法界が捕まえようとしてたからね」




